女、3人旅
女3人での行程が始まった・・・広い道では、3人並んで色んな話をしながら歩いた。
「上様はお昼過ぎには宿に着かれる予定ですので、お里様の到着を待ちかねてソワソワなさっているでしょうね」 とおりんさんが言われると、3人一緒に上様のことを想像したのだろうか一斉に笑いあった。
「本当に私にとっては幸せなことです」 笑いが一通り収まった後、私が言った。
「今から考えると、上様がこんな風になられるだなんて驚きです」 おぎんさんが言われた。
「ほんとに・・・ご側室の名前なんて覚えてもおられず、昨日寝間でご一緒だった方と次の日お会いされてもご存知なかったくらいですものねえ」 おりんさんが続けて言われた。
「それは、寝間でも上様はケジメをつけられてましたからねえ・・・」 おぎんさんが言われると、私とおりんさんは顔を合わせてハッとした顔をした。
「おぎんさんは、上様の寝間でのご様子をご存知でしたのですか?」 私はおぎんさんに聞いた。
「ええ お里様と会われる前から知っていましたよ。ですから、お里様に抱き付かれたり、やたらと触れようとされるご様子を見て、初めは驚いてばかりでした」 おぎんさんは今更というお顔をされた。
(上様が甘い行いをされたときの無言は、驚いておられたということですね)
「そうだったんですね・・・私は少し前に知ったばかりでした。それまで、上様が夜のお勤めに行かれることにモヤモヤしていたのですが・・・それを聞いて、少し嬉しくなりました」 私は正直な気持ちをお二人に話した。
「あら、私はお里様はご存知かと・・・上様がおっしゃっているものだと思っていました。そんな不安になられていたのでしたら、教えて差し上げれば良かったです」 おぎんさんが申し訳なさそうなお顔をされた。
「いえ、上様はおっしゃられなくても私のことだけを大切にしてくださるお気持ちを私がもっとわかっていないといけなかったのです。上様にとっては、そんなことを言わなくてもわかるだろうと思っていらっしゃるのかもしれません」
「さすがお里様ですね。私ならそのことを知ったら嬉しくて、もう一度上様にそれは本当なのですかと尋ねてしまいそうです」 おりんさんが言われた。今度は私とおぎんさんが顔を見合わせて笑った。そんな話をしている間に、お昼の時間になった。丁度、近くに美味しそうなお蕎麦屋さんがあったので、そこに入ることになった。3人とも同じものを注文すると、店主のおじさんがこんな美人が3人も来てくれるなんて嬉しいな、と稲荷寿司をサービスしてくれた。私たちはおじさんにお礼を言ってそれもペロリとたいらげた。とても優しくほのかに甘い味で美味しかった。おじさんは、私たちがたいらげるのをジッと見ながらニコニコされていた。おじさんにもう一度お礼を言って、また歩き始めた。ここからは、田園が続くということだった。稲刈りもすっかり終わり、向こうに見える山は少し色付き始めていた。風も気持ち良く、かなりの距離を歩いたけれど疲れを感じなかった。
「ここで最後の休憩をしましょうか」 おぎんさんが、大きな木の根元に簡単な敷物を敷いてくれた。
「はい」
「やっと、お常さんからいただいたお団子を食べることができますね」 おりんさんはそう言うと早速お常さんが渡してくれた包み紙を開け始められた。
「ほんとうにおりんは食いしん坊ねえ」 おぎんさんが呆れながら言われたのを私は横で笑いながら見ていた。お団子もすぐに食べ終わり、木にもたれかかり少し休むと眠りそうになった。
「ここからはもうすぐでございますよ。お里様、このまま進んで大丈夫ですか?」 おぎんさんが敷物を片付けながら言われた。
「はい」 そう言って眠気を覚ますために、精一杯背伸びをした。おぎんさんが言われた通りそこから1時間程歩くと、宿場町のようなところへ入っていった。さすがに少し疲れが出てきた頃だったので、ホッとした。
「お里様、あちらをご覧ください」 おぎんさんが指を差された方を見てみると・・・1件の宿の前で腕を組んでウロウロと歩き回られているお侍さんの姿が見えた。
「あれは・・・上様でございますね」 私が少し笑いながら言うと、その先の上様と目が合った。上様はまだ声は届かない距離だったので、大きく手を振られた。私はその様子がとても愛しくて、とびきりの笑顔を向けて少し早足で上様の元へと向かった。
上様も私の方へと向かって、小走りで近づいて来てくださった。
「うえ・・・旦那様、お待たせ致しました」 上様の姿を見ると、見るからに町に溶け込んだお姿をされていたので、咄嗟に旦那様と呼ぶことにした。一瞬、上様は口元をほころばせられた。
「お里、無事に着いてよかった。疲れたであろう? 足は大丈夫か? しっかりと、休憩をとったのか?」 上様は質問攻めをされた。
「大丈夫でございます。思ったよりも、疲れもなく楽しくここまで来ることができました」 私がそう言い終わる頃、私の後ろからおぎんさんとおりんさんが、上様の後ろから菊之助様が追い付いてこられた。
「旦那様? ずっと待って頂いていたのですか?」 私は、いったい上様はいつから待っていてくださったのだろうと聞いてみた。
「いや、もうすぐ着く頃ではないかと思って、外に出てみただけだ・・・」 と上様は目を逸らしながらおっしゃった。
「中でお待ち頂くように何度も言ったのですが、こちらに着いてから玄関より動こうとされませんでした」 菊之助様が後ろからおっしゃると、上様は振り返って「菊之助、うるさい」 とおっしゃった。私たち女3人はクスクスと笑うと、上様はフンッとそっぽをむかれた。
「それでは、旦那様もお疲れのままでしょう? 一緒に宿へまいりましょう」 私は、そう言って上様の手を取ると、上様は「ああ」と言って笑顔を向けて歩き出された。その後ろでおぎんさん達はニヤニヤされていた。
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