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久しぶりの3人

 そのあと数日は、私の着物選びで大変だった。


 「お里にはこちらも似合うな・・・」 上様がおっしゃると、「上様、お里様にはこちらのお色もとてもお似合いですよ」 とおりんさんが言われる・・・


 「なら、全て持って行くとするか」 と上様が更に言われた。


 「上様、このように沢山着物を持っていっても着る時は限られております。それに、庄屋の妻がこんなに豪勢なお着物を着ていると怪しまれます。ねえ、菊之助様」


 「はい お里殿のおっしゃる通りです」 冷静な私と菊之助様が上様たちの暴走を止めるといった繰り返しだった。


 「だが、今の着物でも目立つだろう? だから、新しいものをと思ったらどれも似合い過ぎて困るのだから仕方がないだろう」 上様は悪びれることなくおっしゃった。


 「いいえ、着物なら御膳所勤めをしていたときのものもございます。こんなに新調して頂くことはございません」 私が呆れながら言った。


 「そうか・・・」 上様は少し落ち込まれたように下を向かれた。私はせっかく上様が私のために着物を選んでくださっているのに言い過ぎたかしらと思い「でしたら、2、3着だけ選んでください。上様が選んでくださったお着物はいつも上様がお傍におられるようで嬉しいので・・・」 と言った。すると上様は、パッと明るいお顔をされ「そうか・・・じゃあ私が厳選しよう。おりん、そちらの着物も見せてくれ」 とまた着物選びに熱中された。私と菊之助様は顔を見合わせて苦笑いをした。

 

 その時、廊下から声がした。


 「上様」 なんだか懐かしい声だった。


 「ああ はいれ」 上様がおっしゃった。襖を開けて入って来られたのは、おぎんさんと男の方だった。私はおぎんさんのお顔をみて、嬉しくなった。


 「おぎんさん、お久しぶりでございます。お元気でしたか?」 


 「はい お里様もお元気なご様子で安心いたしました」 暖かい笑みを浮かべて言われた。すると、隣の男の方が私にサッと近寄られて手を取られた。


 「あなたがお里様でございますか? おぎんに聞いていた通り、とてもお美しいお方でございますな」 と早口で言われた。私は、呆気にとられていた。


 「こら、平吉!」 と菊之助様が咎められた。


 「あっ 申し訳ございません」 そう頭を下げられると、上様に向かってもう一度頭を下げられた。


 「上様、平吉とおぎん、ただ今戻りました」 先ほどの声とは違い、ピリッとした言い方で挨拶された。その横で、おぎんさんも頭を下げられた。


 「平吉、相変わらずだな・・・だが、お里に勝手に触れるなよ」 と上様は念を押されるようにおっしゃった。


 「はい 申し訳ございません」 平吉と名乗られる方が頭を下げられた。


 「まあ よい。お前のその人懐こさは、隠密としては武器になる」 と上様は本気で怒っておられるようではなかった。


 「お里、この者はおぎんの夫である平吉だ。これから、一緒に村に行くことになるからな」 と、紹介してくださった。


 「おぎんさんの・・・初めまして、お里と申します。よろしくお願いいたします」 そう言って頭を下げた。


 (おぎんさんのお相手がこのような方とは想像もしていなかったわ。もっと、物静かで失礼ながらもっとお顔も男前なお方かと・・・でも、笑われたお顔は決して人を不快にするものではなく優しさが滲みでているかんじだわ)


 「初めまして。平吉と申します。先ほどは失礼いたしました。おぎんにいつもお里様のお話を聞いておりましたので、やっとお会い出来たのが嬉しくなってしまいました」 そう言って頭を下げられた。


 「お里様、申し訳ございません。驚かれたでございましょう? この人は、空気が読めないところがありまして・・・」 おぎんさんがそう言われた。


 「いえ 大丈夫でございます。お気にされないでください」 


 「で? 平吉、どうだ?」 上様はお仕事モードの顔になられた。


 「はい やはり、いくら農作業を頑張っても税で出来た米や作物はほとんどとられ、村人たちは心も体も疲弊しております」


 「そうか・・・」


 「最近は、弥助さんと私たちで協力して山の中に内緒で畑を作りました。少しでも村人の口に入る作物を作るつもりでございます」 とおぎんさんが隣でおっしゃった。


 「ご苦労である。それで、私たちはいつ頃そちらに向かえばいいのだ?」 


 「はい 以前の庄屋の息子は養生の為に家族全員を町に移し、医者に診せております。上様方には、庄屋の家に住んで頂くことになるためその準備もほとんど整いました。あとは少しずつ荷物を運ばせて頂くだけでございます」 平吉さんはやはり早口気味だけど、要点を抑えて話された。


 「わかった。詳しく打ち合わせをしよう。後で、表の私の部屋に来い」 上様はそうおっしゃると私の方を見られた。


 「お里、少し表で打ち合わせをしてくるからな。おぎんはここにいればよい。話は平吉から聞く。お前たちも募る話があるだろう。ゆっくりしていくがいい」 優しい笑顔でおっしゃった。私たち3人は揃って「ありがとうございます」 と頭を下げた。上様は満足そうに、お部屋を出て行かれた。


 3人になると、私は思っていたことを話しだした。


 「おぎんさんに旦那様がいらっしゃることを知ったのはつい最近で驚いていたのです。今日、お会い出来て嬉しかったです。とても優しそうなお方でいらっしゃいますね」 


 「お里様・・・ありがとうございます」 おぎんさんは初めて見る恥ずかしそうなお顔をされた。すると、おりんさんの方を向かれて話された。


 「私がいない間に、おりんと菊之助様のお話が進んでいたようで・・・私も驚きました。良かったですね」 おぎんさんがおりんさんの手を取られた。おりんさんは少し目に涙を浮かべてお礼を言われた。


 「やはり、おぎんさんもご存知だったのですよね?」 私は確認するように尋ねた。


 「はい はっきりと確認したわけではなかったのですが・・・まあ 見てればわかりますよね」 そう言って私のお顔を見られた。


 「私・・・こんなに近くにいたのに、全く気が付かなかったのです。自分のことばかりでお恥ずかしいです」


 「お里様は、ご自分の身の回りのことで精一杯だったので仕方がないですよ」 おぎんさんが言われた。


 「このように結婚をすることが出来るようになったのは、お里様のおかげでございます。本当に感謝しています」 おりんさんが言われた。


 「手紙には詳しいことは書いてなかったから、そこは詳しく教えてちょうだい。お里様の家出の件も是非聞きたいわ」 おぎんさんが身を乗り出して尋ねられた。


 「それでは、お常さんにお菓子を用意して頂いて久しぶりに3人でゆっくりお話ししましょう」 私は、おりんさんにお常さんのところへ行くようお願いした。


 「それはいいですね」 おりんさんもすぐに立ち上がって、廊下へ向かわれた。


 「それでは、私はお茶の用意をいたしますね」 そう言うとおぎんさんもすぐに動き出された。私は3人が輪になって座れるように敷物をセットした。

 お菓子とお茶が揃い、私たちは時間を忘れておぎんさんがお留守の間にあったことを話した。おりんさんは驚いたり笑われたりしながら話を聞いておられた。私は、こうやって過ごす時間を作ってくださった上様に感謝しながら一緒に話に花を咲かせていた。


ここまで読んでくださり、ありがとうございます。

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