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ミッション発動

 次の日に菊之助様から昨日の結果を聞いた。


 「2組、お互いに縁談を進めたいとまとまりそうです。あと1組は、もう一度会う機会を作りたいと段取りをしているところです」


 「そうでございますか。上手くいって良かったですね」


 「はい この度の会のことを聞いたご側室方が自分も会に参加してみたかったと言っておられる方が何人かいらっしゃるとのことで・・・上様と御台所様と相談し、また会を催そうということになりました。その際は、今回いい方を見つけられなかったご側室にも、もう一度参加頂こうかと思っています」


 「それはいいですね。皆様、ここを出て行くことが不安な方もいらっしゃるでしょうから・・・お役人様と縁談を結んで出ることが出来ればと希望をお持ちの方も出てこられたのかもしれませんね」


 「はい 今回は初めてのことでしたので私が取り仕切りましたが、今後はだいたい流れがわかりましたので他の役人に担当してもらうこととなりました」


 「菊之助様も一段落でございますね」


 「はい ありがとうございます」 菊之助様はそうおっしゃった後に、上様を見られた。上様は一度咳払いをしてから、私に向き直られた。


 「お里、側室の件は一段落したのだがな・・・」


 「はい 他に何かございましたか?」


 「それが・・・あるんだ・・・少し厄介な話だが聞いてくれ」 上様は真剣なお顔をされていた。私も一度姿勢を正して上様に向き直った。


 「私がまだ将軍になる前の話だが・・・よく鷹狩りと称して出かけていた村がある。ただ、私は鷹狩りがあまり好きではなかったのだがな、馬に乗ることが好きだった」


 (上様が馬に乗られる姿・・・きっと素敵なのだわ)


 「そこで、世話になった弥助(やすけ)というものがいるのだ。馬のことを教わったり、一緒に馬の世話をしたりもした。私にとって弥助はとても信頼できる大人だった。私がふざけて鶏などをいたぶっていると本気で怒られたりした」


 「上様もいたずらをされることがあったのですね」 私は上様の若かりし頃を想像しながら少し微笑みながら言った。


 「ああ だが、それを怒ってくれたのは弥助だけだ。他の者は見て見ぬふりをしていたからな・・・」


 「そうでしたか・・・その弥助様がどうかされたのですか?」


 「ああ 弥助は今でも歳はとったがピンピンしておる。だが、その村自体が大変なのだそうだ」


 「まあ どうしてですか?」


 「少し前にそこの土地を治めている庄屋が突然亡くなったのだ。それよりも少し前から体の具合が悪く床に伏していたらしい・・・新しく土地を治める者をたてるまではその土地の領主が変わりをしておるのだが・・・どうも、様子がおかしいらしい。庄屋の息子が後を継ぐことになった途端にその息子も床に伏せってしまったらしいのだ。これではだめだと、村の者同志で話し合い新しく土地を治めようとしたものは、突然姿を消したという」


 「それは不思議でございますね」 私は何が起こっているのかと考えながら言った。


 「そこで、おぎん夫婦を偵察にいかせたのだ」


 (それで、おぎんさんはしばらくこちらに顔を出されていなかったのですね。遠くに行っておられるということはおりんさんから聞いていたけれど・・・)


 「領主が変わりに土地をみるようになってからは、税の取り立てが厳しく徐々に村全体が貧しくなっているらしい。それでも、みんなで力を合わせて乗り切ろうと頑張っているらしいのだが・・・もうどうにもならないと私に手紙をよこしたのだ」


 「それは大変でございますね」 私も話しを聞いているだけで心配だった。


 「おぎん達が知らせてきた内容によると、その村に着くまでは平和でみんな笑顔で畑仕事に勤しんでいるものたちばかりだったのに、あきらかにその村だけが貧しく感じるということだった・・・調べはだいたいついているのだが、最後は私の目で確かめてみたい。そう思い、今まで準備を進めていた」


 「それで、毎日遅くまでお仕事をされていたのでございますね」 


 (上様が最近お疲れのご様子だったのは、このことについてお調べになったりご報告をまとめられたりをご自分でされていたからなのだわ)


 「他の役人に任せることは簡単だが、弥助には世話になったからな・・・自分で何とか出来ないものかと動いていたのだよ」


 「やはり 上様はお優しいのでございますね」 私はうっとりと上様をみた。上様は少し恥ずかしそうにされた。


 「いや こうやって自分で何とかしてやりたいなどと思うことは今までなかった。やはり私はお里に影響されているようだ」 上様が下を向いたままおっしゃった。


 「そんなことはございません。上様がもともとお優しいからだといつも言っております」 私がそう言うと菊之助様が割って入られた。


 「あの・・・続きをお話していただけますか?」 甘い雰囲気になりそうだったのを察しられたのか、無表情でおっしゃった。


 「わかっておる。それで、お里、私はしばらく新しい庄屋としてその村に潜入することになった」 菊之助様を横目で睨まれたあと、私に真剣な顔を向けられた。


 「それは、大丈夫なのでございますか?」 私は上様がそんなところにしばらく住まれるのかと思うと急に不安になった。


 「それは大丈夫だ。おぎん達はすでに村に溶け込んでいる。弥助と力を合わせて、亡くなった庄屋の遠い親戚が後を継ぐことになったと村のものには伝えてもらっている。身の回りには、出来るだけの隠密をつけて、菊之助、おりんも同行させる・・・そして・・・お里にも一緒に行ってもらいたいのだ」 そうおっしゃると、私の近くに来られ手を取られた。


 「私もでございますか?」 私は驚いてそう言うのがやっとだった。


 「ああ 安全の面は私たちが必ずお前を守る。ただ、お前は私の妻としてその屋敷で暮らしてほしいのだ。今より着物も粗末なものになってはしまうが、不自由な思いはしないように配慮する」 上様は、お願いするように私のことを見つめられた。


 「私は不自由な生活など何とも思いません。上様と一緒にいられるのなら幸せなことでございます。でも、そのような長い期間上様に同行させて頂くなんて・・・」


 「本当か? 一緒に行ってくれるのか? ありがとうお里」 そう言うと上様は私をギュッと抱きしめられた。しばらく、そうされてから体を離されておっしゃった。


 「御台所には、この話はもうしてある。もともと私は大奥でも、表でも気まぐれだと思われているからな。留守の間は御台所がうまく取り計らってくれるそうだ。お前を同行させると言うとな・・・」


 「はい・・・」 私はドキリとした。今度こそ反対されたのだろうかと思った。


 「・・・庄屋の妻が務まるのは、この大奥でお里しかいない・・・と言ったのだ」 上様はそこでハハハと笑われた。私は、その通りだと思う反面、それはそれで恥ずかしくなって下を向いてしまった。すると上様は少し慌てられたようにおっしゃった。


 「お里、怒ってしまったか? お前を馬鹿にするつもりじゃないんだぞ」 その慌てられた様子に今度は私が笑ってしまった。


 「いえ 上様、怒ることなど何もございません。御台所様のご期待に添って、庄屋の妻をやり通してみせます」 私は笑顔で言った。


 「そうか・・・私はお里と一緒にいられることが嬉しいが・・・もし不安だからと断られたら、しばらく離れ離れになってしまうと思って・・・」


 「私も上様のお傍にいられるなら、どこだって大丈夫です。ただ、足でまといにならないように気をつけますね」


 「いや、傍にいてくれるだけでいい。お前のことは私が絶対に守るからな」 そうおっしゃるともう一度抱きしめられた。


 「お里殿、準備の方はおりんと私で進めさせて頂きますので何かご要望がございましたら、遠慮なくおっしゃってくださいね。今日のところは私は失礼いたします」 そうおっしゃると、上様にもご挨拶されお部屋を出て行かれた。


 (菊之助様、この雰囲気にいたたまれなくなられたのではないかしら?)


 私が考えていると「しばらく、ゆっくり出来なかったから菊之助は気を使ってくれたのだ」と上様が抱きしめられたままおっしゃった。そして、キスの嵐が私を襲ってきたのだった・・・


ここまで読んでくださりありがとうございます。

紅葉が綺麗な季節になってきました。秋晴れの空の中、近所をお散歩もいいですね。

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