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第2回 開催

 お庭で催される第2回の婚活パーティー当日、私はおりんさんに着替えをさせてもらい菊之助様がおっしゃっていたように小屋を通って中奥に向かった。菊之助様が言う通り、どなたともお会いすることなく廊下を歩いた。おりんさんについて行くと、ある部屋の前で菊之助様が待っておられた。


 「お里殿こちらへどうぞ」 襖を開けてお部屋の中をさされた。


 「はい ありがとうございます」 そう言ってお部屋の中へ入ると、普通の座敷だった。そこで、上様が座っておられた。


 「お里、無事に来られたか?」 上様は笑顔でそう尋ねられた。


 「はい、どなたともお会いすることなくこちらまで来ることが出来ました」 私も笑顔で返した。上様は、ご自分の横にある敷物をポンポンとたたかれたので、私はそちらへ向かい上様のお隣に座った。


 「そうか・・・無事に来られて良かった。だが、今更誰かに見られたとてかまわんがな」 上様はそう言うとハハッと笑われた。


 「上様、私はまだご側室ではなく、いち御中臈の身でございます。ですのに、厚かましく上様と一緒にいさせて頂くなど他の方に知られては申し訳がありません」 御台所様のお許しを得て、今の生活をさせて頂いているだけでも有難いのに・・・このことを他の方に知られては御台所様にご迷惑がかかってしまうと思ってそう言った。


 「まあ お里ならそう言うだろうな・・・律儀というか、真面目というか・・・」 上様はどうでもいいかというような言い方をされた。その後に


 「やはり、私はそういうところを好いているのだろうな。決して、自分を一番に考えないところがな」 そう言うと、優しく抱き寄せてくださった。


 「上様・・・」 私はそのまま上様にもたれかかった。


 「ゴホンッ」 そこで菊之助様が咳ばらいをされた。私はいつもと違う場所で上様とお話をしている間に夢中になってしまい、すっかり菊之助様とおりんさんのことを忘れていた。すばやく、上様から少し離れ下を向いた。


 「いえ 今さらそのように恥ずかしがられなくてもよろしいのですが・・・そろそろ会が始まりますので、ご移動願えますか?」 何の抑揚もない棒読みでおっしゃった。


 「そうか、ではお里上へ参ろう」 上様が先に立ち上がられ、手を差し伸べてくださった。私はその手を取り「はい」と返事をした。

 部屋の奥に、上へとつながる階段があった。菊之助様が先頭を行かれ、その後に上様、私、おりんさんの順で昇っていった。階段を昇る間も上様はずっと私を気にかけてゆっくりと手を取りながら進んでくださった。上の階に出ると、とてもひらけていて窓からの明かりがよく入り明るかった。


 「まあ 素敵ですね。とても解放感がありますね」 私は、部屋を見渡して言った。


 「ああ ここは私とその側近しか入ることが出来ないところだ。女を入れるのは初めてだ」 上様は穏やかにおっしゃった。そして、私の手を握られた。


 「初めてでございますか? 何だか嬉しいです」 上様の口から初めてと言う言葉を聞いて嬉しかった。


 「お里には初めてのことが沢山あるがな」 そう言って今にもキスをされそうになった。今度は菊之助様がいらっしゃることが頭にあったので私はそれを上手にかわし、上様の手を取って窓の方に近付いた。


 「本当にここからお庭が良くみえるのですね」 私は感激して言うと、上様は少し残念そうなお顔をされた。


 「ああ」 そう一言だけおっしゃった。


 「そろそろ、集まってくる頃ですね」 菊之助様が何もなかったように窓から庭を見下ろされておっしゃった。


 「もう何人かお集りですね」 おりんさんも続けておっしゃった。


 「以前、お会いされているのでそれぞれご挨拶を交わされているようですね。いい雰囲気で始まりそうですね」 私も庭の様子を見て言った。


 「さあ、こちらにお座りになって見物ください」 菊之助様が案内されたところには椅子が用意してあった。椅子と言っても木で出来た長椅子のようなものに敷物が敷いてあった。


 「私はお茶とお茶菓子を用意して参ります」 おりんさんがそう言って、お茶のセットが準備されているところへ向かわれた。


 「さあ お里、こちらに」 上様が横に座るよう促してくださったので、私は上様の横に並んで腰を下ろした。

 ご側室方もお役人様たちもお庭に来られると、それぞれに挨拶をされていた。3、4人固まってお話をされているところと、お役人様がお誘いになりお二人で用意されていた長椅子に腰を下ろされてお話になっておられる方もいらっしゃった。しばらく上様とその様子を眺めていた。


 「他のものたちの出会いを見ていても面白くないな」 上様がポツリとおっしゃった。


 「そうでございますか? ご側室方やお役人様たちがドキドキされていることを想像すると楽しくないですか?」


 「いや、私はお里を見ている方が楽しいな」 前を見ながら上様がおっしゃった。私はその言葉に恥ずかしくなり顔が赤くなった。

  私はお庭を見続けながら、「あの長椅子に座られている方たちは、お互いに気に入っておられるのですか?」 菊之助様に質問をした。


 「左側の腰掛に座っているものたちは、そうでございますが・・・右側の腰掛に座っているものたちは、以前はそれぞれ違うものを気に入っていると言っていましたが・・・」 菊之助様が説明してくださった。


 「そうですか・・・話をしているうちに他の方を気に入られることもありますものね。今日が終われば、またお気持ちが変わられる場合もあるかもしれないですね」 私がしみじみ言うと、それまで興味の無さそうだった上様が私の方をパッと見られた。


 「お里も、誰かと話してその次の日には気持ちが変わることがあるのか?」 と尋ねられた。


 「上様? 何をおっしゃっているのですか?」 私は呆気にとられた顔をした。


 「今、お里がそう言ったであろう?」


 「私のことではありません。それに、まだこのお方たちは出会われたばかりでございます。私は上様ともう心を通い合わせた上で一緒にいさせて頂いているつもりですが・・・」 穏やかに言った。


 「そうだな・・・すまん」 上様は恥ずかしそうにそうおっしゃった。


 「上様、退屈でございましたら私の膝の上で少しお休みになられますか?」 私は、上様にとってはこの場は退屈なのだということが重々わかったので、そう言って太ももを2回たたいた。


 「ああ そうしようかな」 上様は嬉しそうにそうおっしゃると、ゴロンと頭を乗せられた。私はその様子を見て、フフフと笑った。すると、上様が「子供だと思っただろう」と拗ねたお顔をされた。私は笑いながら「そんなことはございませんよ。あまりに上様が退屈そうでしたので」 と言った。

 その間も、お互いに気に入られているお二人以外は順番に相手を変えて腰掛に座られたりしていた。


 「お里殿、どう思います?」 菊之助様が小さな声でそう聞かれた。


 「はい 順調だと思います。皆様、気持ちを落ち着けてお話されていてとても楽しそうでございます」 私は菊之助様に笑顔を向けて言った。


 「本当に、皆様笑顔でございますね」 おりんさんも横からおっしゃった。


 「今後はどのようにされるのですか?」 私は菊之助様に尋ねた。


 「はい・・・気に入ったもの同志は問題ないのですが・・・どちらかが気に入っていて、どちらかが他の者を気に入った場合はどうすればよいのやら・・・」 菊之助様が困ったようなお顔をされた。


 「そうでございますね・・・正直にお話されてみてはいかがですか?」 


 「正直にでございますか?」


 「はい 隠して事を運んだとしても、後々露見しては後で気まずい思いをされるでしょう? でしたら、あなたが気に入っておられる方は他の方を気に入っておられます。ですが、このお方があなたのことを気に入っておられますがどうされますか?と聞いてみるのです」


 「それで?」 


 「はい あなたがもう一度その方と会ってみたければ段取りを致しますが、その方であればもう会いたくないとおっしゃるならば今回はそれまでです。とお伝えしてはどうでしょうか?」


 「気に入った方が他の方を・・・と言うのはなかなか言いにくいものですね」 菊之助様は苦笑いをされた。


 「でも、その方が諦めがつきます。まだ、出会われたばかりで何も始まっていないのですから・・・」


 「私もはっきり言って頂いた方がスッキリすると思います」 おりんさんも私の意見に同意された。


 「女の方が気持ちがお強いのかもしれませんね」 菊之助様はもう一度苦笑いをしながらおっしゃった。私とおりんさんは顔を見合わせて笑いあった。そして「そうかもしれないですね」と言った。

 その後、しばらく様子をみてから私たちは部屋へと戻った。


ここまで読んでくださり、ありがとうございます。

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