助言成功
夜の総触れが終わると、珍しく菊之助様と一緒に上様が戻って来られた。
「お里殿、今日はありがとうございました。バタバタとしていて上様に報告させて頂けておりませんでしたので、出来ればお里殿にも聞いて頂こうと一緒にお伺いしました」
「ご苦労様でございます。どうぞ、お座りください。寝間の用意をしてしまっているので、すぐに片付けさせて頂きますね」 私はいつものように上様が疲れて帰ってこられるだろうと、お休みになれる準備をしていた。
「いいえ、お構いなく。こちらで結構でございます」 菊之助様はおっしゃった。
「そうですか・・・」 上様の方を見ると、上様も頷かれたのでそのままお茶の用意をした。
「上様、本日の会はなんとか滞りなく終わることができました」 菊之助様が話出された。
「そうか・・・それでどうだった?」
「はい、会が終わりましてからどなたか気になるものがいたかとそれぞれに伺ったところ2組ほどお互い気に入ったものが合致いたしました」
「それは良かったですね」 私はお茶を出しながら菊之助様に言った。
「はい・・・それが・・・お里殿のおかげでございまして・・・」 菊之助様は言いにくそうにおっしゃった。
「どういうことだ?」 上様が尋ねられた。
「はい、お茶を点ててお部屋に戻られる際にお里殿から助言を頂きました」
「助言?」 上様はもう一度不思議そうに尋ねられた。
「もし、自己紹介が終わっても話が盛り上がらなければ座布団の位置を変えるようにと・・・」
「それで?」
「はい、お里殿が言われたように始めの並び方では全くといっていいほど、誰も話をすることなく・・・シンと静まりかえっておりました。そこで、お里殿が言われていたことを思いだし、座布団の並び方を変えてみたのです。どなたも一人ずつと話をすることが出来るように・・・すると、一気に緊張がとけたのか役人の方から話しかけるとそれに応じるようにご側室方も笑顔で話されるようになりまして・・・お里殿、本当にありがとうございました。あのままでは、上様に合わせる顔がありませんでした」 そう言って私に頭を下げられた。
「そうか・・・お里は菊之助も助けたのだな」 上様が笑顔を向けられた。
「うまくいったのであれば良かったです。私は、最初の位置では遠くてお話がしにくいのではと思っただけでございます。ご側室方が大きな声でお話をされるのは、難しいのではないかと・・・」
(私は婚活パーティーには行ったことはないけれど、テレビで順番に一人ずつ移動していくのを見たことがあったので、提案してみただけだけど・・・うまくいってよかったわ)
「お里は周りを見るのが得意だな・・・菊之助ではそこまで気が回らなかっただろう。さすがだな」 上様が優しく誉めてくださった。私は少し恥ずかしくなって、「ありがとうございます」 と頭を下げた。
「ですが・・・一度話して気にいっただけで縁談を進めてしまっていいものかと思っているのです」 菊之助様が考えながら話された。
「ああ もう一度くらい機会を作ってみるか?」
「もう一度お茶会を催しますか?」
「あの・・・」 私はお二人の会話に割って入ってみた。
「お里、言ってみればいい」 上様が促してくださった。
「はい・・・次回はお庭を散策されてみてはいかがですか?」
「庭をですか?」 菊之助様が尋ねられた。
「はい、お庭ですと広くて誰に会話を聞かれることもありませんので、以前よりも緊張せずにお話できるでしょうし、気に入られた方はお二人でお話するためにお誘いもされやすいのではないでしょうか?」
「なるほど・・・」 上様は顎をさわりながら、感心されたようにおっしゃった。
「それはいい考えでございますね。早々に段取りをさせて頂いてもよろしいでしょうか?」 菊之助様が上様に確認された。
「ああ そのようにすればいい」 上様が了承された。
「お里殿、何度もありがとうございます。これで、うまくいけば私の仕事も一段落つきそうです」 菊之助様は笑顔でおっしゃった。
「いえ、とんでもございません。女の立場からものを言っているだけでございますから。それより、早くお仕事が落ち着いて、おりんさんとのことも進めないといけませんものね。私が出来ることであれば、ご協力させていただきます」
「ありがとうございます」 菊之助様は急におりんさんの話が出て、動揺されたのか恥ずかしそうにされた。
「では、菊之助頼んだぞ」
「はい、お疲れのところ失礼致しました。下がらせて頂きます」 と頭を下げてから、お部屋を出て行かれた。
2人になると私は上様にすぐに眠られるか尋ねた。上様は「ああ」とおっしゃった。寝間着に着替えられ、布団に入られると
「お里、色々と助言をしてくれてありがとうな」 と感謝を口にされた。
「そんな・・・私は少しでもお役に立てるだけで嬉しいのでございます」
「これからも頼む」 上様は私の手を握られておっしゃった。
「上様? お疲れでございましょう? 今日はこのまま手を揉ませて頂きますので、そのままお眠りください」 そう言いながら、手のマッサージを始めた。「ああ ありがとう」 とおっしゃるとすぐに目を閉じられ気持ちよさそうにされた。しばらくすると、そのまま寝息をたてられた。
(あと少しで面倒が片付くとおっしゃっていたけれど、そんなに大変なことなのかしら? とても気持ち良さそうに眠られたわ。ハンドマッサージは、よく息子に寝つきが悪いときにやっていたけれど・・・大人にも効果があるのね)
上様の寝顔を見ながら、しばらくマッサージをしてから私も眠りについた。
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。




