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婚活パーティー

 次の日から、また上様はお忙しいようで朝に出かけられたまま夕食前に戻られるか、夕食もこちらで取られずに総触れが終わってから戻られることもあった。お部屋に戻られてからは、私と少し話をすると疲れたように眠られた。


 (上様、大丈夫かしら? せめて、しっかりと眠られて疲れを取って頂かないと・・・)


  朝も私がお声をかけるまでグッスリと眠られている。朝食のときに尋ねてみた。


 「上様、お体は大丈夫でございますか? とてもお疲れのようですが・・・」 食事はしっかりととられているようなので、少し安心した。


 「ああ 心配ない。そろそろ面倒も終盤だ。あと少しすれば、またお里とゆっくり過ごせると思うと頑張れるよ」 上様は、いつもと変わらない様子でおっしゃった。


 「ならばよろしいのですが・・・」


 しばらくすると、菊之助様がお部屋へ来られた。挨拶をされると、すぐに上様に報告をされた。


 「上様、少しよろしいでしょうか?」


 「ああ」


 「例のご側室方のお茶会ですが・・・御台所様とお清様にご納得頂けました」


 「そうか・・・お里、そうらしいぞ」 上様は菊之助様に返事をされた後、私を見られた。


 「本当でございますか? そのお茶会の様子を私も見に行ってもよろしいですか?」 私は興味深々だったので、是非この婚活パーティーがどのようなものか見てみたかった。


 「それはならん」 すぐに上様が否定された。


 「・・・」 私は残念そうな顔をした。


 「お里はわからぬのか? もし、その場にお里がいてみろ。役人ども全員がお里に興味を示すであろう? ならば、何のためのお茶会になるのだ」 上様は諭されるようにおっしゃった。


 「そんなことはないと思うのですが・・・」


 「本当にわかっていないのだな・・・」 呟くようにおっしゃった。


 「申し訳ございません。承知いたしました」 私は、頭を下げた。


 「ですが、そのことで・・・」 菊之助様が言いにくいようにおっしゃった。


 「なんだ?」 上様は目線だけを菊之助様にむけられた。


 「あの・・・御台所様付きのお敦様がお茶をお点てになられるのですが・・・何しろ、全員の分となると大変かと・・・それで、お里殿にも手伝ってもらってはどうかと御台所様がおっしゃっておりました・・・」 最後まで話すころには菊之助様は下を向いておられた。


 「なんだと?」 上様が驚いたような声をあげられた。私はその横で、期待で胸を膨らませていた。


 「お茶会が始まるころには、お二人ともには下がって頂きます」 菊之助様は弁解しておられるようだった。


 「・・・わかった。 だが、菊之助がしっかりとお里のことを見ておくのだぞ」 上様はしぶしぶ了承されたようだった。


 「はい、当日はおりんも同席させますので・・・上様の心配には及びません」 上様から了承を頂いて菊之助様はホッとされているようだった。


 (お茶会の様子を少しでも見れるなんて楽しみだわ)


 お茶会当日は、上様のご指示で地味目の着物に着替えさせて頂いた。


 (そんなに気にされることはないのに・・・)


 朝の総触れの前に何度も「お里は、他の役人と話をすることのないようにな」 とおっしゃった。

「はい 承知しております」 私も何度も同じ返事をした。おりんさんにも、しっかり頼むぞと念を押されてから、総触れに向かわれた。

 総触れを終え、一度部屋に戻ってから身なりを整えて、おりんさんと一緒に広座敷に向かうと、座布団が向かい合わせとなるように並べられ綺麗なお花が所々に飾られていた。


 (今から、ここでどなたかが出会われ新しい人生を始められる機会になるかもと思うだけでわくわくするわ)


 私は、そんなことを考えながら広座敷の中に入っていった。


 「お里様、ご苦労様でございます」 そう言われたのはお敦様だった。


 「お敦様、遅くなってしまいましたか? 申し訳ございません」 私は急いでその場に座り挨拶をした。


 「いえ 私が早く来ただけでございますからお気になされませんように。 本日はよろしくお願い致します」 そう言って頭を下げられた。


 「こちらこそ、よろしくお願いいたします」 私も頭を下げた。そのとき


 「お二人とも、もう来られておられましたか。それでは、こちらの方でご準備をお願い出来ますか?」 

 

 菊之助様が入ってこられた。私たちは一通り準備されているところへ行き、茶筅や湯飲みなどをチェックした。


 「何か必要なものがあれば、揃えますので言ってください。もうすぐ、各々こちらへ来られますので順番にお茶を点ててください。お茶はおり・・・お鈴が運びますのでよろしくお願いいたします」 段取りを説明された。


 「何だか緊張しますわね」 お敦様がおっしゃった。


 「はい・・・私たちには直接関係ないことでございますが、とても緊張してしまいます」


 「御台所様はこのことを聞いたときはとても驚いておられました。そんなことをこの大奥でしようなんて・・・上様は何をお考えなのかしら、と」 そう言って口元に手を当てて笑われた。


 「そうでございましょうね・・・」 私はどう答えていいかわからず、苦笑いをした。


 「でも、お里様が言い出されたことだろうということはお気付きだと思いますよ」 そう言ってお敦様はこちらを向いてニヤッと笑われた。


 「・・・」 もう一度苦笑いをするしかなかった。


 「でも、この出会いが素敵なものになればいいですね」 お敦様は今度は素敵な笑顔でおっしゃった。


 「はい、そうですね」 私も笑顔で答えた。そんな話をしていると、1人、2人と広座敷へ入って来られた。ご側室方は、華やかなお着物に綺麗な髪飾りを付けておられる。お役人様たちも少し緊張した面持ちでいらっしゃった。お敦様と私は、その様子を横目で見ながらお茶を点て始めた。向かい合って座っておられる皆様は、誰一人言葉を発せられることもなく広い座敷の中で聞こえるのは私たちのお茶を点てる音だけだった。男性と女性の5人ずつで向かい合わせになられていた。


 (ちょうどいい人数なのではないかしら?)


 女性の中には、以前ご隠居様との宴会でお会いした方がいらっしゃった。緊張されていることもあったのだろうけれど、私のことには全く気付いておられない様子だった。


 「それでは、皆さんお揃いのようですので会を始めさせて頂きたいと思います。」 菊之助様がおっしゃった。


 「まずは、自己紹介をして頂き、その後お話をして頂ければと思います」 続けて進行内容を説明された。


 (これでは話にくそうだわ・・・向かい側の距離が遠すぎるわ)


 最後の一人のお茶を点て終わったところで、私たちはお部屋を出て行くこととなった。ちょうど自己紹介が始まったところだったので、もう少し見ていたいと後ろ髪をひかれるような思いだった。


 「お敦殿、お里殿ありがとうございました。お部屋に戻っていただいて大丈夫ですよ」 菊之助様が私たちの元へ来られた。その間も自己紹介は続いていた。


 「承知いたしました。失礼いたします。お里様、また・・・」 そう言って、お敦様は早々と座敷を出て行かれた。私もしぶしぶ立ち上がりかけた。菊之助様は私の気持ちに気付かれたのか少しニヤニヤされていた。


 「これ以上は、上様に怒られますので・・・」 そう小声でおっしゃった。


 「はい わかっております」 私は諦めて立ち上がった。だけど、これだけは言っておこうと菊之助様に向かって話をした。


 「菊之助様? もし、このままお話がはずまないようでしたら・・・一定の距離で、座布団を2枚1組ずつに分けてご用意ください。そして、ご側室様方にはその片方にお一人ずつ座って頂き、お役人様は順番にお席を一つずつ移動して頂きます。時間は短くてかまいませんので、全員がお一人のお方とお話になられる時間を作ってみてはいかがでしょうか?」


 「??? わかりました。心に留めておきます」 菊之助様は何を言っているのかわかられないままお返事してくださったようだった。私は歩きだし、座敷の出口へ向かった。出口の襖のところで控えて待っていてくれたおりんさんと合流して部屋に戻った。


ここまで読んでくださり、ありがとうございます。

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