婚活提案
お楽の方様の処分について話が終わったところで私は提案をした。
「たまには4人で食事をしませんか? 菊之助様もおりんさんも一緒に食べましょう。上様、よろしいですか?」
「ああ」 返事をもらうと、おりんさんにお常さんへの伝言を頼んだ。食事のお膳が届くと、私とおりんさんで準備をして4人で食事を始めた。
「沢山で食事をするのも楽しいですね」 私は嬉しくて気持ちも弾んでいた。
「はい 私はお里様のあの卵の蒸し物をもう一度食べたいです」 おりんさんが言われると「私もです。 あれは絶品でした」 と菊之助様がおっしゃった。
「あのようなものでしたら、いつでも作って差し上げますよ。また、おりんさんのお台所をお借りしてもいいですか?」
「もちろんでございます」 と盛り上がっていると、ふと機嫌を悪くされた上様に目がとまった。
「上様?」 私が呼びかけると上様が不機嫌そうに口を開かれた。
「私はまだお里の作った食事を食べたことがないというのに・・・お前たちだけズルいのではないか」 久しぶりに拗ねられる上様をとても可愛らしく思ってしまった。
「次回は上様もご一緒に食べてみてくださいね。私もいつか上様に手料理を作って差し上げたいと思っています」 そう言うと上様は少し機嫌が直られたようだった。
「ああ 絶対だぞ」 そう言って念を押された。その様子を菊之助様とおりんさんは無言で見守られていた。
「ところで菊之助様、ご側室が御実家へ戻られる件は進んでいるのですか?」 私はお仕事の話をしてもいいのかと思いながら聞いてみた。菊之助様は上様の方を見られ、上様が頷かれたのを確認されてから話してくださった。
「はい、ほぼほぼ実家へ戻りたいというものの段取りは整ったのですが、他へ嫁ぎたいというものの話が進まず困っております」
「そうですか」
「上様のご側室を嫁にもらいたいというものも役人の中にはいるのですが・・・こちらで勝手に組み合わせてしまうのは新しい幸せには繋がらないのではと迷っています」
(そうよね。この時代は顔を見ないままご結婚をされることが多くあるみたいですし・・・せめて顔を見て、少しでも話が出来れば・・・)
私はハッと思って、顔がにやけてしまった。でも、それはこの時代では考えられないことなのかもしれない・・・私の様子を上様が見逃されるはずはなかった・・・
「お里、何を考えている?」 上様がニヤッとされて尋ねられた。
「はい・・・あの・・・あることを思いついたのですが・・・少し常識からははずれているかもと・・・」
「お里の意見は驚くものが多いが、決めるのは私だ。言ってみなさい」 私は本当に言っていいものか迷った。
「私もお里殿のお考えを聞いてみたいです」 菊之助様もおっしゃった。
「では・・・ひとつのお座敷に、嫁ぎたいと思っているご側室方とお嫁にきてもらいたいと思っているお役人様とを集められるのです。その日、その場でだけは皆様ご自由にお茶を飲みながらお話をして頂きます。そこで、お互いに気に入られた方が合った場合には縁談を進めるというのはいかかでしょうか?」
(いわば、婚活パーティーのようなものですが・・・大奥でそんなことありえませんよね。ほら、やっぱり皆さん口を開けてポカンとされているわ)
私は言った後、やっぱり後悔して下を向いた。
「お里? すごい考えだな・・・」 上様はまだボーっとしたような口調でおっしゃった。
「はい そんなことを考えも致しませんでした」 菊之助様も上様に同調された。
「でも、それならばお話の合う方と新しい人生を歩むことが出来ますよね。私は素敵だと思います」 おりんさんは目を輝かせて言ってくれた。
「ああ そうだな・・・」 上様も真剣に考えられている様子だった。
「さきに、参加したい役人はこちらで査定をして人選しておけばご側室にご迷惑をおかけすることはないとは思いますが・・・ただ、御台所様やお清様が何とおっしゃるか・・・」 菊之助様も思案された。
(そうですよね。お酒を飲まないにしても、この大奥で男性と女性が一度に会するなんて絶対に反対されるでしょうねえ)
「一度、具体的に考えてみてはいいのではないか? 御台所にも相談してみよう」 上様が決心されたようにおっしゃった。
「本気でございますか?」 驚いて私が尋ねてしまった。
「お里が言ったことであろう?」 上様は笑いながらおっしゃった。
「はい、でも・・・」
「だから、決めるのは私だ。今、お里の意見を聞いただけだ。上手くいかなかったとしても私の責任だ」
「はい・・・」
「上様、そろそろ総触れに向かわれますか?」 菊之助様が尋ねられた。
「ああ その前に少し打ち合わせをしよう」
「はい かしこまりました」 お二人は、食事を済ませると中奥へと向かわれた。後片付けをしながらおりんさんが言われた。
「お里様は上様にとって救世主ですね」
「そんなことございません」
「本当に困ったときにお話になる一言は、上様をお助けになっているのだろうと思います」
「だといいのですが・・・本当に上手くいくかしら?」 少し不安になってきた。
「後は菊之助様の腕次第でございます」 おりんさんが少し赤くなって、のろけるような顔をされた。
「はい そうでございますね。菊之助様は頼りになられますものね」 私が笑顔を向けると 「はい」 ととても可愛い笑顔でお返事された。
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