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説教

 部屋に戻るとおりんさんが、お茶菓子とお茶を用意してくれた。


 「お里様、午前中は根を詰めすぎてお疲れになられたでしょう? 上様も夕方まで戻られないでしょうし少し休憩しましょう」


 「はい、ありがとうございます」 そう言って、二人で向かい合って座った。


 「お里様、先ほどのことは気にされなくてもいいと思いますよ。あのお方は、お里様が上様に大事にされているのが気に入らないだけなのでございます」


 「はい・・・それはわかっているのですが・・・やっぱり、この大奥で目上の方にあの物言いはいけなかったと反省しています」


 「もし、このことでお咎めを受けられることとなっても私が証言します!」 おりんさんはそう言ってにっこりと笑われた。


 「はい、ありがとうございます」 その後は、二人で甘いお菓子を食べながら今日作った髪飾りなどについて話をした。


 「あの髪飾り、町で売れば沢山欲しいと思われる方がいらっしゃるのではないですか?」


 「あれは、私が勝手に考えたものですから・・・」


 「でも、とても可愛かったですもの。私も欲しいくらいでした」


 「本当ですか? それではおりんさんにも作らせてください」


 「えっ、いいのですか? 嬉しいです」 おりんさんは、本当に嬉しそうに喜んでくださった。そんな話をしていると、上様のお部屋の方の襖の前から声が聞こえてきた。


 「お里、いますか? お清です」 私とおりんさんは顔を見合わせた。


 「はい、お入りください」 私は急いで上様の方のお部屋へ行き襖を開けた。お清様は部屋まで入って来られ、早速席につかれた。私も慌てて襖を閉めてお清様の前に座った。


 「お里、上様は?」


 「はい、今は表の仕事に行かれています」


 「そう、ちょうど良かった。今から、広座敷に行きなさい」


 「えっ? 今からでございますか?」


 「ええ 御台所様がお呼びです」


 「御台所様が?」 私は一瞬で先ほどのことだとピンときた。


 「どうやら、内容はわかっているようですね」 お清様は優しい口調だった。


 「はい・・・」 私は下を向いて答えた。


 「何も心配することはありません。先ほどあったことを正直に御台所様にお話ししなさい」


 「はい、わかりました」 私は頭を下げた。


 「あの・・・私もお供させて頂いてもよろしいでしょうか?」 おりんさんが尋ねられた。


 「かまいませんが、お鈴は廊下で待っていなさい」 お清様はお鈴ことおりんさんの方をみておっしゃった。


 「はい、承知致しました」 おりんさんもそれ以上は食い下がられなかった。私もそれでいいと思った。


 「それでは、すぐに向かいなさい」 そう言うと、お清様はお部屋を出て行かれた。


 「お里様・・・」 おりんさんが心配そうに私の方を見て言われた。


 「おりんさん、大丈夫ですよ。先ほどのことは私も反省するところがございます。きちんと御台所様にお話しをして、お咎めを受けなくてはならないようなら従います」


 「・・・」 おりんさんは俯かれたまま言葉を発せられなかった。


 「おりんさん、大丈夫です。おりんさんが、廊下までついてきてくださるだけで私は心強いのですから。それに、上様が戻って来られたら今日のことを話そうと思っていました。御台所様からお呼び出しがあるのなら早いほうが良かったのです。そのことも含めてお話できますから」 そう言って、おりんさんを元気づけようと笑顔を向けた。


 「お里様・・・わかりました」 おりんさんも心配そうではあるが、笑顔を返してくれた。


 「さっ 御台所様をお待たせするわけにはまいりません。いきましょう」 私はサッと立ち上がり、廊下へ向かった。広座敷の前にはお敦様が待っておられた。私はお敦様の近くまで行くと、そこに座り挨拶をした。


 「お敦様、お久しぶりでございます」


 「お里様、ご苦労様でございます。さあ、中に入ってお待ちください。間もなく御台所様がこちらへ参られますので・・・」


 「はい、失礼いたします」 私は一度立ち上がり、おりんさんに頷いてから部屋に入り案内された場所へと座った。しばらくすると、奥の襖をどなたが開けられる様子が見えたので私は頭を下げた。


 「おもてをおあげなさい」 御台所様の声だった。私はゆっくりと頭をあげた。相変わらず、優しそうな笑顔の御台所様と目が合った。


 「お里、元気そうですね。先日は私の代わりに役人と会う勤め、ご苦労でしたね」


 「貴重なお役目をさせて頂き、ありがとうございました。御台所様のお陰で毎日穏やかに過ごさせて頂いております」


 「そうですか。それは良かった。だが、今日は少し穏やかではなかったのではないですか?」


 「はい・・・ご迷惑をおかけして申し訳ございません」


 「それはかまわないのだけれど、お楽が私のところへ来ました・・・それで、お里に無礼を働かれたと怒っておりました」


 「申し訳ございません」


 「ただ、事情を聴いても要領を得なくてねえ・・・とにかく、お里が悪いとしか言わないものだから、お里にも事情を聴くことにしたのです」


 「はい」


 「で? あなたは無礼を働いたのですか?」


 「はい、次期将軍御生母であるお楽の方様に口答えをいたしました。申し訳ございません」


 「口答え? 内容を聞かせてくれますか?」


 「・・・・・」


 「お里、この場にはお楽に関わるものはおりません。あなたは正直に言うべきです」


 「はい・・・上様が毎日来られて疲れないか?と聞かれましたので、毎日お会い出来ることは幸せだと申しました」


 「それが口答えですか?」


 「それから・・・上様はお子ができれば来られなくなると・・・」


 「それで、あなたは何と?」


 「お楽の方様も、お子が出来ても上様をお慕いされていれば上様は変わりなく通われていたと思いますと・・・上様はそういうお方でございますと申しました」 私の言葉を聞き終わると、御台所様はフフフッと笑われた。


 「それは、お楽も怒りますね。あの子は、上様が自分の腹の中を知っているとは思っていませんからね」


 「はい・・・」


 「それで、あなたはその時どう思っていたのですか?」


 「はい・・・今でも苦しい思いをお持ちでおられる上様を侮辱されたようで腹が立ちました」


 「そうですか・・・でもこのことは私も上様もお楽に言うつもりはありません。言ったところで、今更どうにもならないことですからね」


 「はい」


 「しかしお里、事情はわかりましたがあなたより目上の次期将軍生母に向かってそのような物言いはいけません」


 「はい、申し訳ございません」


 「お楽は更にあなたを目の敵にすることでしょう」


 「はい、覚悟しております」


 「今後は、何を言われても堪えなさい」


 「はい、承知致しました」 私は頭を下げた。


 「それでは、私の説教はここまでです。お楽にもあなたにキツク言っておいたと伝えさせます」 私はもう一度頭を下げた。


 「ところでお里? お仲の所へ行ったのですか?」


 「はい、お仲様が明日にはこちらを出て行かれると朝の総触れで知りましたので自分で手作りの髪飾りを作りご挨拶に行かせて頂きました」


 「そう・・・手作りの髪飾りを・・・また機会があったら私にも見せて欲しいわ」


 「はい、よろこんでお持ちいたします」


 「あなたの心遣いをお仲も喜んでいたことでしょう。あの子には、新しい幸せをみつけてもらいたいですからね」


 「はい」


 「心からそういうことが出来るのは、なかなか難しいものです。今後も上様を始め、周りの方に優しく接することを心掛けなさい。そうしていれば、きっといいことがありますよ」


 「はい ありがとうございます」 私は頭を下げた。そして、顔を上げると御台所様と目が合った。御台所様はにっこりと笑って頷かれてから、立ち上がられたので私は御台所様が奥へ下がられるまで頭を下げた。


 「お里様、ご苦労様でございました。もう下がられてもかまいませんよ」 そうお敦様が言われたので、私は「失礼いたします」と言って廊下へ向かった。

ここまで読んでくださり、ありがとうございます。

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