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遭遇

 上様が表へ仕事に行かれるのを見送ってから、私とおりんさんはお仲様のお部屋へ向かった。お仲様のお部屋の前まで行くと、襖が閉まっていたので、その前に座り挨拶をした。


 「お仲様、お里にございます」 すると、中から侍女さんが襖を開けてくれた。


 「お忙しいところ申し訳ございません。どうしても、もう一度ご挨拶をしたくお伺いさせて頂きました」


 「お里様、どうぞお入りください」 中からお仲様の声がした。


 「はい、失礼いたします」 私とおりんさんはお部屋の中へ入った。


 「わざわざ、もう一度挨拶に来てくださったのですか?」


 「はい、朝の総触れで明日大奥を出て行かれると聞きましたので・・・」


 「そうですか。ありがとうございます」 そう言って私に笑顔を向けられた。


 (以前、お伺いしたときよりも更に穏やかで美しくなられたようだわ)


 「あの・・・それで、何をしていいものかわからず・・・このようなものを作って参りました」 私は先ほど作ったかんざしをお仲様に見せた。すると、お仲様は立ち上がられて私の傍まで寄ってこられた。そして、私が差し出したかんざしを手に取られた。


 「これを・・・私のために?」


 「はい 商人から品物を買う方法などもわからず、自分で作ったものですのでこのようなものしかご用意できず申し訳ございません」


 「とても可愛らしいですね。本当にご自分でお作りに?」


 「はい」


 「ありがとうございます。大切にいたしますね」 そう言いながら、まじまじとかんざしを見られていた。そのお顔はとても喜んでくださっているように見えた。


 「お仲様、不安もおありでしょうがお元気でいてください」


 「はい ありがとうございます。お里様とはもっと早く出会えていればよかったと・・・そのことだけが後悔でございます。しかし、早く出会っていても意地悪をしていたかもしれませんね」 お仲様は、少し意地悪そうな・・・でもお茶目なお顔をされた。


 「私の方こそ何もわからず・・・」 


 「あなた以外に私に挨拶に来てくださった方はいませんでしたので・・・まあここはそういうところでございます。だから、お里様が来てくださったことがとても嬉しいです」 もう一度笑顔で私を見られた。


 「こちらこそ、ありがとうございました」 私も笑顔で頷いてから頭を下げた。部屋を出るとおりんさんが笑顔で「喜んで頂いたようで良かったですね」と言ってくれた。私も「はい」と笑顔で答えた。しばらく廊下を二人で並んで歩いていると・・・前から敏次郎様のお手をひかれたお楽の方様が歩いて来られた。私達はすぐに廊下の端により座って頭を下げた。敏次郎様が私に気付かれたのか急に走って寄って来られた。かわいらしい笑顔を私に向けられたので、私もつられて笑顔になってしまった。


 「お里様ですね」 少し冷たい声が上から聞こえた。


 「はい お里にございます」


 「お夕の方様付きのあなたがどうしてこの時間にこちらへ?」


 「お仲様にご挨拶にお伺いさせて頂いたところでございます」


 「お仲様に? そう・・・」 私は、話を切り上げたくてもう一度頭を下げた。


 (これでこのまま立ち去って頂けないかしら)


 「あなた、上様にも御台所様にも取り入っているようだけれどあまり調子に乗らないことね」


 (ストレートな攻撃だわ)


 「取り入っているなど・・・」


 「あなたも私のように子が出来るまでは、上様に尽くすといいわ」 鼻で笑うような物言いをされた。


 「私は子が出来ても出来なくても、上様に尽くすつもりでございます」 顔を伏せたままだったのでわからなかったけれど、一瞬の間がお楽の方様の怒りを表していた。すると、急に柔らかい口調に変わられた。


 「あの方、毎日毎日会いに来られてだんだん疲れませんか? 私のところへ通われていたときも本当にしつこくて・・・」 その言い方が、上様が侮辱されているようで腹立たしかった。


 「毎日お会いできるのは幸せなことだと思います」 私はハッキリと言った。


 「でも、子が出来た途端通われることもなくなるわよ。それまでせいぜい甘えておけばいいわ」 と吐き捨てるように言われた。


 (お楽様は、ご自分が上様を傷つけたせいで通われなくなったことをご存知ないのだわ)


 「お楽の方様がお子が出来られても上様をお慕いされていれば、それまでと変わることなく通われていたのではないでしょうか? 上様はそういうお方でございます」 私は苛立ちが抑えられなかった。


 「誰に口答えをしているの? 控えなさい!」 お楽様は大きな声を出された。


 「申し訳ございません」 私は頭を下げて謝った。お楽様は、私の横におられた敏次郎様の手を引っ張って立ち上がらせると、ご自分のお部屋の方へ歩いて行かれた。その足音は、とても大きく感じた。足音が聞こえなくなるまで私は頭を下げていた。


 「お里様?」 おりんさんの声でハッと顔を上げた。


 「おりんさん、お見苦しかったですよね。申し訳ございません」


 「いえ・・・とても凜とされていて素敵でした。話の内容から何となくですが私なりに理解しましたが、これは上様に関わることなので深くはお尋ねしません」


 「ありがとうございます。上様のことになると、感情を押し殺すことができず・・・いらぬことまで口走ってしまいました」


 「いえ あの方の言いようはお里様や上様を侮辱するような物言いでございました。お里様、とりあえずお部屋に戻りましょう」 そう言うと、おりんさんは私の手を取って立ち上がらせてくれた。私もそれに従い部屋まで戻った。

ここまで読んでくださり、ありがとうございます。

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