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おりんの悩み

 上様が出て行かれると、おりんさんはもう一度私の着付けをじっくり見られた。


 「上様は本当に器用なお方ですね。お里様のことであれば出来ないことはないのかもしれないですね」 笑顔でおっしゃった。


 「本当にいつも驚きます。でも、とても嬉しいです」 私は上様の先ほどの真剣に着付けをされている姿を思い出しながら言った。


 「いいですね・・・」 そう言いながらおりんさんがため息をつかれた。


 「おりんさん?」 私はおりんさんの顔をのぞき込んだ。


 (そういえば、この間またお話を聞くと言ったばかりだったわ)


 「何か不安なことがあるのですか?」 私はおりんさんに聞いてみた。


 「はい・・・こんなことをお話していいのか・・・」


 「おりんさんのことであれば、お伺いしたいです」


 「では・・・独り言だと思って聞いてください。菊之助様のことなのです・・・」


 「菊之助様のこと?」


 「はい、今は実家に戻られるご側室などの手続きで忙しくされておられるでしょう?」


 「ええ そうみたいですね。ですから、奥に入られるお役人さんも増やされたみたいです」


 「そこで・・・ご側室方が菊之助様のところへ嫁ぎたいとおっしゃっていると・・・それも一人や二人ではないと・・・仲間の隠密が話していたのを聞いてしまいました」


 「まあっ そんなことが・・・それで、菊之助様は?」


 「ただ笑ってごまかされているようですが・・・」


 「それはもちろんそうですよね。何もおりんさんがご心配されるようなことはないのではないですか?」


 「でも・・・あのような綺麗なお方達が菊之助様を慕われているのであれば、その中に菊之助様もいいと思われる方が出来るのではないかと・・・」


 (この心配・・・私と一緒だわ。でも、私は上様のことを信じるともう一度確認したところだった)


 「おりんさんも私と同じことで悩んでらっしゃるんですね」 私はおりんさんの手をとった。


 「お里様は誰からみても、上様に大切にされておられます。ですけど、菊之助様は私に気持ちを伝えられません。大切に思ってくださっているとは思っているのですが・・・自信が持てなくて・・・私は庶民の出ですし・・・」


 「おりんさん・・・おりんさんは菊之助様と一緒にいるとき幸せですか?」


 「はい・・・二人とも忙しいですが、時間があれば会いにきてくださいます。その時間がとても短く感じるほど幸せに感じます」


 「そうですよね。きっと菊之助様も同じだと思いますよ」


 「そうでしょうか?」


 「思い切って、お気持ちを聞いてみられてはいかがですか?」


 「それは・・・恥ずかしいです」 おりんさんは声を小さくして、下を向かれた。顔を赤くしている姿が本当に可愛らしかった。


 「お里様、お時間を取っていただきありがとうございます。そろそろ、総触れのお時間ですね」 おりんさんは私に頭を下げられた。


 「おりんさん、また不安になられた時は私にお話してください。少しでも気が晴れるのであれば・・・」 


(このお気持ちはお二人でしか解決できないだろうけれど、私もおりんさんに話を聞いて頂いて何度も気が楽になったことがある。だから、私もおりんさんの話を聞くことでおりんさんの気持ちを少しでも楽にしてあげたい)


 「はい、ありがとうございます」 おりんさんはいつもの笑顔に戻られた。


 私はそれから総触れへ向かった。いつも通りのお清様のご挨拶の終わりに話をされた。


 「明日、お仲の方様はご実家へ戻られることとなりました」 お清様のお話に続いてお仲様が話をされた。


 「上様、御台所様にはこれまで仕えさせて頂きありがとうございました」 そう言って頭を下げられた。


 「ご苦労であったな」 上様はいつもに比べると少し優しい口調でおっしゃった。


 「お仲、幸せにおなりなさい」 御台所様も続いてお声をかけられた。お仲様はもう一度お礼を言いながら頭をさげられた。


 (お仲様は明日出て行かれるのだわ。きっと、不安でいっぱいだろうけれど、新しい世界で幸せになられるといいな。出来れば、最後にもう一度ご挨拶させて頂けないかしら・・・私がご挨拶に行ってもご迷惑かしら・・・)


 そんなことを考えながら部屋に戻ると、おりんさんが着物を整理されていた。


 「おりんさん?」 私はおりんさんに声をかけた。


 「あっ お里様、ご苦労様でございます」 おりんさんは一度手を止めて私の方を見られた。


 「ただいま戻りました。今は何を?」


 「はい、上様が新しい着物をご用意くださるそうですから少し整理をしておりました」


 「この着物はどちらへ?」


 「大奥では、着古した着物はすべて処分することとなっております」


 「まあ もったいない。これらの着物はまだまだ着れるものばかりですが・・・」


 「ですが・・・こんなに置いておくところもありませんし・・・」 私の言葉におりんさんは少し困られた様子だった。


 「お里様は、何度か同じ者を着られていますが中には一度袖を通したものは着られないお方もおられるのですよ」


 「そうなのですか?」


 (もったいない・・・この帯締めも処分されるのかしら? 私がこちらへ来る前の世界では、帯締めのもととなっている組紐を髪飾りにするのが流行っていたけど・・・)


 「おりんさん、こちらの帯締めを処分されるのなら少し私が使ってもかまいませんか?」


 「何に使われるのですか?」 おりんさんが不思議そうに尋ねられた。


 「じつは、これでかんざしをつくろうかと・・・」


 「かんざしでございますか?」 おりんさんは更に不思議そうなお顔をされた。私は、何本か明るい色の帯締めを選んだ。そして、針と糸を用意してもらった。帯締めを少しほどいて細くしてから、それを花になるように形を作っていった。作業をしながら、これをお仲様に贈りたいと話をした。おりんさんは、私の考えを素敵ですね、と言ってくれた。

 私は以前の世界の知識を利用して、また新しいものを作ってみようと創作意欲が湧いてきた。

ここまで読んでくださり、ありがとうございます。

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