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寝間の秘密

 いつもの時間に行くと、御鈴廊下には並ばない新米の御中臈ばかりなのに、そこにお仲様がいらっしゃった。ここは挨拶をしなければならない・・・


 「お仲様、おはようございます」 と言って立ったまま挨拶をした。


 「お里様、御中臈になられたのですね」 


 「は、はい・・・」 私は下を向きながら返事をした。


 「今日は早めに来て、あなたを待っていたのよ」 


 「えっ?」 私は驚いてお仲様を見た。


 「総触れが終わったら、あなたはいつも先に部屋へ戻られるでしょう? 今日は、そのまま私の部屋で待っていてくださらないかしら?」


 「お仲様のお部屋へでございますか?」


 「ええ  侍女には言ってありますので」 そう言ってニコッと笑われた。


 (今の私に、お仲様の意地悪に耐えれるだけの心の余裕があるかしら・・・でも、これはお断りできないようですね)


 「はい 承知しました」 と返事した。


 「では 後ほど」 そう言って、お仲様は御鈴廊下の方に向かわれた。


 朝の総触れは、特に変わったことはなかった。上様も普段通りにお言葉をかけられた。いつものように、先にお座敷を離れた私はお仲様のお部屋へ向かった。お部屋の前には侍女の方が待っていてくれて、すぐにお部屋の中へ入れてくれた。私は案内された場所に座りお仲様を待った。しばらくすると、お仲様が入って来られたので頭を下げた。


 「お里様、わざわざ申し訳ありません」 そう言いながら席に着かれた。


 「いえ、とんでもございません」 私はそう言ってもう一度頭を下げた。


 「もう一度、あなたとお話したかったのです」


 「ありがとうございます」


 「私、上様から先日お話があった件を考え実家に戻らせて頂くことになりました」


 「そうなのでございますか」 私は実際にご実家に戻られる方がいるのだということを改めて実感した。


 「私には奥へ上がる前に想いを寄せていた方がいました。でも、実家の事情を考え・・・そもそも私には意見することは出来なかったのですが、この大奥に入ってまいりました。幸い、すぐにお手つきを頂き御子を身ごもったのですが・・・無事に出産までいたりませんでした」


 「・・・」 私は口を挟まず黙って聞いていた。


 「その後は、ただ生きているだけの生活でした。何をしても楽しくなく、食事をとっても味もしない・・・このような生活が一生続くのかと・・・私が一瞬心を動かされるのは、側室という立場でどなたかに意地悪をするということでした」


 「・・・」


 「その標的があなたにもいってしまいました。申し訳ございません」


 「いえ・・・」


 「この度、上様と御台所様から御慈悲をいただき新しくまたやり直せるのではないかと・・・実際は不安でもありますが、実家が戻ることを許すほどの支度金と待遇をご準備くださったようです」


 「お仲様なら、きっと幸せになられると思います。とても、お綺麗ですから・・・本当に幸せになられることを願っています」 私は今、面と向かって話しているお仲様が以前と全く違うお顔をされていて本当に綺麗だと思った。


 「お里様は意地悪をされた私にそんなお優しいことをおっしゃるのですね」 お仲様はフフフと笑われた。


 「そんなことは・・・」 と私も苦笑いをした。


 「あなたには、謝りたくて・・・」


 「私にこのようなお時間をとっていただきありがとうございました」 私はそろそろお暇した方がいいかと席を立とうとした。


 「それからお里様?」 お仲様が呼び止められた。


 「はい」 私はもう一度向き直った。


 「あなたがお夕の方様から上様のお寝間にあがるように言われたことがあったでしょう? あなたはあの時お手つきにならず、恥をかかれましたよね?」 意地悪を言われるようではなかった。


 「はい・・・本当にお恥ずかしいことで」 


 「私たちお手つきになったものは、その前に指南を受けるのです」


 「えっ?」


 「やっぱりご指南受けてらっしゃらなかったのですね」


 「はい・・・」


 「褥に来られた上様がご自分から触れてこられない場合は、私たちから上様に触れるのです。上様は何もされないまま、私たちは上様のお種をいただきます」 と恥ずかしげもなくおっしゃった。


 「は・・・はい」 私の方が恥ずかしくなってしまい、下を向いた。


 「お里様はそのご指南を受けてらっしゃらないのですから、上様が寝間から下がられるはずです。お夕の方様は、あなたなら上様から触れられるのではと思われたのかもしれませんね」


 「はあ・・・」


 「私たちの周りで、上様から触れられた方はいないはずです。上様から触れられる方がこの先いらっしゃるのかしら・・・だから、上様は私たちのお顔なんて覚えてらっしゃらないのですよ。だって、目も合わせて頂けないのですもの。お手付きとは名ばかりで、私たちがお手を付けているようなものですね」 少し笑いながらお話になっていたけれど、私はまだお話の内容が恥ずかしく下を向いたままだった。


 「ですから、お里様もお気になさらないことです。もし、次回こういうことがあれば頭の中に入れておくといいですよ」 そう言ってニコッと笑われた。私は「ご指南頂きありがとうございます」と言って、頭を下げるのが精一杯だった。


 「お里様は恥ずかしがりでございますのね」 とまだ笑われていた。


 「この世界でお里様も頑張ってくださいね」 最後にそう言ってくださった。私はお礼をいって、部屋から下がった。廊下を歩きながら色んなことが衝撃すぎて頭の中を整理しようと思ったけれど、出来ないまま自分の部屋まできてしまった。

ここまで読んでくださり、ありがとうございます。

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