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実感

 寝間の準備が一段落すると、「また明日、お着替えの際に参りますね」 と言ってお二人はお部屋から出て行かれた。

 一人になると、隣の部屋と一緒になって広くなったお部屋を改めて見渡した。お琴や、お着物など上様が私のために揃えてくださったものであふれていた。私は、御台所様に今後どうするのか聞かれたときに上様ともうお会いしないと言ってしまったことを最後まで通さなかったことを本当に良かったと思った。私のことを大切にしてくださり、もっと自信を持つように言ってくださった上様を私から手放そうとしてしまった。きっと、上様にも不安な思いをさせてしまっているのだろう。今後も上様と離れなければならないかもという選択をしなければならないことは、沢山あるだろうけど自分の気持ちに正直でいようと改めて思い直していた。

 そんなことを考えていると、上様が戻ってこられた。「お里、今戻ったぞ」 襖を開けられると、笑顔で入ってこられた。


 「おかえりなさいませ」 私は今の今まで上様のことを考えていたので、笑顔で入ってこられた上様に抱きつきたい気分になったけれど、はしたないと思ってとどまった。


 「上様、寝間着にお着替えされますか?」 私は先ほど布団と一緒に持って来ていただいた寝間着を用意しておいた。


 「ああ」 上様は少し照れられたように返事をされた。私は、上様のお着替えを手伝ったが、何しろ男性の着物の着替えを手伝ったことがないので少し手間取った。


 「慣れないので、申し訳ございません」


 「いや、ありがとう」 上様は優しくおっしゃった。寝間着に着替えられて、落ち着かれた上様にお茶を淹れた。


 「お里も着替えないのか? 私が手伝おうか?」 と上様は意地悪そうなお顔をしておっしゃった。


 「いえ、私は後ほど自分で着替えさせて頂きます」 と顔を赤くして言った。上様はその様子を、笑顔で見られていた。


 「上様、根付のことなんですが・・・」 私は話を変えようと、早く話したかったのにすっかり忘れていたことを話し始めた。


 「そのことは、もう気にすることないと言っただろう」 上様は笑顔のままおっしゃった。


 「それが、見つかったのです」 と私は懐から、水色の根付を取り出した。


 「そうか・・・どこにあったのだ?」 とその根付を手にとっておっしゃった。私は詳しいことを話すと、お滝様のことを処分されるのではと思いどこまで話していいものか悩んだ。その様子を見ていた上様がおっしゃった。


 「お里が嫌な思いをしているわけではないのだったら、話す必要はない。戻ってきてよかったな」 ともう一度笑顔でおっしゃった。


 「はい、ありがとうございます」 と言いながら、また気を使わせてしまっただろうかと思った。そして、桃色の根付も取り出した。上様がツバメの根付を取り出されたので、私はその根付に桃色の根付をくくり付けた。それを、上様にお渡しすると上様は「ありがとう」とおっしゃった。


 「ああ いいなあ・・・お里がお帰りと迎えてくれて着替えを手伝ってくれる。寝る前には沢山話をして、起きたら目の前にお里がいる・・・ここまで、色々と事情があり遠回りをしたけれどその分この幸せを大切にしたいと思っているよ」 上様は私の頬を撫でながら、おっしゃった。


 「私も、幸せでございます。見習いの期間の間に、沢山のご側室にもお会いしました。お子を身ごもられ、側室になられても皆さんが幸せではないのだと・・・それでも、この大奥で一生を過ごさねばならないと知りました。私は、上様にお傍に居ていただき、沢山の方に守って頂いています。それなのに、私から上様と離れようとしてしまった。こんなことをしていてはバチが当たってしまうかもしれませんね」


 「その分、私を幸せにしてくれているのだからそれでいいだろう」 と言って上様はやさしくキスをされた。


 「ありがとうございます」 


 「他の側室から意地悪されなかったか?」


 「意地悪と言えば意地悪なのかも知れませんが、私には上様という愛しいお方がついていてくださるのですから、気にはしておりませんでした」


 「そうか・・・」 と言って、もう一度顔を近づけられた。


 「でも、お子を身ごもってもお産みになれなかったご側室や産まれても早くにお子を亡くされたご側室も、この大奥で一生を過ごさなければならないことが悲しく思いました」


 「一度、そういうことがあったものは2度と寝間にあがることはないのが決まりだからな」 


 「わかっております。出過ぎたことを・・・申し訳ございません」


 「いや、かまわない。お里が感じたことを正直に話せばよい」 上様は私の手を取ってくださった。


 「ありがとうございます。ただ・・・みなさん、まだまだお若くてお綺麗な方ばかりでございます。もし、大奥の外に出られれば上様と私のように愛しく思えるお相手が出来られるかもしれません。もし、お相手が出来なくても何かやりたいことをして楽しく暮らせるかもしれないと考えておりました。でも、これは私が勝手に思っていたことでございます」


 「お里はいつでも周りのことばかり考えているのだな」 上様は少し呆れられたようなお顔をされた。そして、何か考えておられるようだった。


 (また、不安にさせてしまっているかしら)


 「いえ、普段は上様のことばかり考えております」 私の言葉に顔を上げられた上様はギュッと私を抱きしめられ「それはわかっている」と耳元でおっしゃった。私は、いつもより低めのお声にドキッとしていた。


 「さあ、お里も着替えておいで」 とそのまま耳元でおっしゃった。私は、ドキドキが大きくなるのを感じて「はい」と隣の部屋へ移動した。

ここまで読んでくださり、ありがとうございます。

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