いつも隣に腐男子
「なぁなぁ、今の二人見たか?!」
「・・・・あー、はいはい」
私は今、幼馴染の男と喫茶カフェという名前のケーキ屋に来ている。
変な名前だけどいつの間にか常連になってた。
まあそこはどうでもいいのだけど。
今、私には悩みがある。
「やっぱ左側の少し釣り目の男の方が攻めかなぁ?」
「はあ・・・」
この男のせいです。
『いつも隣に腐男子』
この男、腐男子なんですよ。
別に同性愛者ではないけど、男×男のカップリングが好き。
女×女とでもいけるとか。
自分がその立場になるのは嫌だけど、好きらしい。
わけがわからない。
たまに私を妄想に使っているらしい。
この馬鹿男をどこかの山に埋めてやりたい。
しかし何の因果かこの男に惚れてしまっている私はもっと馬鹿か。
「や、むしろ右側の気の弱そうな子が攻めもありだな・・・」
「はぁ・・・」
ほんと何でコイツのことが好きなんだろ、私。
この男の何処に惚れる要素があるんだ。
コイツはこの喫茶店に来ては通行人をウォッチングして、妄想の材料にして楽しんでいる。
私は何故かそれに付き合っている。
そっち系の趣味の腐女子とやってればいいのに。
・・・・それはそれで嫌か。
「どかした?さっきから黙り込んでるけど」
「い、いや、ちょっと考え事してて・・・」
顔を近づけて覗き込むなこのアホぉおお!
やばい、今顔赤い?赤い?!
「・・・おまえなんか変だぞ?」
「だからなんでもないって!!」
覚られるな、覚られるな。
ある意味覚ってもらいたいけど。
ってそうじゃなくて!
「ははーん、さてはあっちの兄弟を使ってなんやら妄想してたな?」
「死ね!」
「うわ!?」
気づいたときには、私の拳には生々しい人を殴った感触があった。
「おまっ・・・顔面グーはないだろ!」
はぁ・・・本当にこいつはもう・・・
あーイライラする。
甘いもの食べなきゃやってけない。
ということで手元のケーキに手をつける。
モグモグ
うん、美味しい。
「なあ」
「何?」
「おまえとB組の笹塚さんだっけ?中々いい組み合わせだと思うんだが・・・」
ゴキッ!バキィ!ズゴッ!!グシャァ!!!メメタァ!!ガキィッ!ドゴォ!!!!
「ちょ・・・なん・・・・か・・・悪いこと・・・言った?俺・・・」
「もうあんたなんか知るか!!」
その場から逃げるように立ち去る。
ほんっとあの男・・・・!
ひとの気持ちを知りもしないで。
「ちょっと待てよ!!」
「おい、ちゃんと金払え、食い逃げする気か貴様」
「いや、それどころじゃないんだって!」
「シュークリーム×3、ショートショートケーキ×2、チョモランマ・モンブラン×2、柔らかすぎるクッキー×3、ダンデドーナッツ×2、超高級ティラミス×2、聖マリア風チョコレートパフェ、ロールケーキ型キャノン、RIGURU蒸しパン×3、五月雨クレープケーキ、ケーキ・オブ・ザ・トワイライト、スイートポテト・ラグーン、カドケシ型ケーキ、コーヒー×2+おかわり8、まだあるが以下省略、しめて8280円だ」
「あいつそんなに食ってたのか!!?」
「払え」
「え、まじ?俺そんな持ち合わせが無いんだけど・・・」
「昨日バイトの給料日だったろ」
「何で知ってんの?!手か俺そんな金ねぇんだけど・・・だぁかぁらぁ、待ってってばぁああああ!!!」
「まあそれはともかく、お前に話がある」
「・・・え?」
遥か後方でなんか聞こえた気がするけど気のせいか。
にしてもホントアイツむかつく。
そもそもあいつに惚れたのっていつだっけ?
「はぁ・・・」
ため息が自然と出るほど陰鬱な気分で町を歩く。
世界から切り離されたかのように、私の周りだけが暗い。
負のオーラを纏ったまま商店街をさらに歩く。
バレンタインデーも毎年アイツにだけに渡してる。
下駄箱や机に入っていた、他の女子のチョコやラブレターは全て焼却炉に放り込んでいる。
以前に直接告白しようとした子は、あいつの悪いところを教えて幻滅させてやった。
さりげなくアピールとかしてる。
これでも見た目にはにはかなり気を使ってる。
アイツの腐トークにだってつきあってし、そっち方面の勉強も一応してる。
けど中々努力の成果が見えない。
いつの間にか商店街を抜け、住宅街に入っていた。
結構な時間歩いたのか、日が傾き始めている。
子供達に帰りを促す親達の声が聞こえたので、少し顔を上げると久しぶりに見る光景があった。
「あ・・・あの頃の公園だ」
そこは幼稚園児や小学生だった時に、あいつとよく遊んだ公園だった。
懐かしい気持ちにひたりながら、公園の中をゆっくりと歩くとブランコが目に留まる。
ブランコなんて何年ぶりだろ、と思いながら腰を下ろす。
キィ・・・キィ・・・キィ・・・
互いに同性の友達がいても離れることはなかった。
一緒にゲーセン行ったり、買い物行ったり、映画見たり、勉強したり、メールしたり。
女の中では家族を抜かせば、あいつと一番一緒にいると思う。
ケドそれってどうなんだろ?
やっぱり友達としか思われてないだろうか・・・
そこにいるのが当たり前の空気みたいな存在?
「はぁ・・・」
本日何度目になるかわからないため息をつく。
もう駄目なのかもしれない。
私には自分のことを、あいつに女として見せるのは無理かもしれない。
あきらめてずっと「トモダチ」でいるしか・・・
「帰ろ・・・」
日はもう完全に落ちたようだ。
随分長いことここにいたみたいだ。
今何時だろうと思って時計を見ようとすると、視界に入ってきたのは時計でなく見慣れた人影だった。
「お嬢さん、夜にこんなトコにいるなんて危ないですぜ?なんてな〜。ホント何処行ってたんだよ、探したぞ」
アイツだった。
「私なんか探さずにさっさと帰ればよかったじゃないの・・・」
「お前の家に電話かけたら、おばさんがまだ帰ってないって言ってたから心配になってさ」
近頃は物騒なヤツが多いんだ、とかブツクサ言っていたが急にスッと真顔になる。
「ごめん」
「何が」
「お前の気持ちにずっと気づけなくて」
「・・・・・・」
黙るしかなかった。
超絶鈍感なアイツが私の気持ちに気づくはずがない、そう考えながらも心の奥底は期待している自分がいた。
「ちょっと喫茶カフェのあの人と話してさ、その後俺、考えたんだよ」
無い、無い、無い。
期待するな。
期待した分だけ後で失望するだけだ。
自分に何度も言い聞かせるが、期待感はさらに募っていた。
「今まで俺は迷ってるふりをして、結論から逃げてただけなんだと思う」
無い無い無い無い無い無い
無い無い無い無い無い無い
無い無い無い無い無い無い
私の期待する展開なんてあるわけが無い。
「俺はお前が―」
アイツの真剣なまなざしを見たとき、頭の中がリセットされ、何も考えられなくなった。
否、逆だ。
走馬灯とでも言うのか。
死ぬわけじゃないのに。
今までの二人の思い出が頭の中を奔流する。
小さい頃からの10数年が頭の中を駆け巡る。
もしかしたらこの走馬灯は一瞬だったのかもしれない。
そしてそれらが収まりかけた頃、アイツが迷いを振り払うように、それでいてゆっくりと口を開く。
「―笹塚さんとじゃなくて、山川さんとのカップリングの方が合うと思うんだ!」
翌日、公園に近くの高校に通っている少年が倒れているのを近所の子供が発見する。
ども、仙人掌です。
予定より恋愛要素的なモノが多めになってしまいましたが、そのまま暴走したまま投稿してみました。
この話の主な登場人物の3人は(店の店員入れて)全員「宝蓮荘の高校生管理人」に出てきます。
番外編っぽいですが、あくまで登場人物をつかっただけの別のお話のようなものです。
腐要素を期待した方はスイマセン。
私自身よく知らないので・・・ごめんなさい。
そもそも腐男子っているのかなぁと、そんなとこから妄想をはじめて書きなぐったものなので。
読んでくださった方、ありがとうございました。