28 ルナのおにぎり
ハラペコくまさんのランチタイムがひと段落つく頃カイがやってきた
『いらっしゃいませー。ってカイか』
「おいおい、人の顔見た瞬間天使の笑顔から真顔になるのやめて。何気にダメージデカいんだよ」
「あらあら、カイいらっしゃい!そろそろ店じまいなのよー」
クララが少し困ったように眉を下げた
「あちゃーマジか!夜に出直すよー!」
「ごめんなさいねー、夜待ってるわね!」
「あ、カイさんいらっしゃい!朝は付き合ってくださりありがとうございました。」
台拭きを持ってマリーが奥から出てきた
「あらあら、そういえば今日の鍛錬はカイが見守ってくれたんですってね!誰か居てくれるのは私も安心だわ、カイありがとう。また時間ある時鍛錬に付き合ってあげて頂戴な」
「はい、俺で良ければいくらでも!マリーさんもいつでも誘ってください!じゃ、俺また夜来ます」
マリーとクララに挨拶しカイが店から出ようとしたとき
『待ちなさいよ!コレあげる!』
ルナから渡されたのはルナの手のサイズで握られたオニギリが2つ
「え?俺に?」
『いらないなら返して!』
「いるいるいるいる!有り難くいただきます!」
手渡されたオニギリをまたルナに持っていかれそうになり必死に死守するカイにクララとマリーがクスクスと笑っている
「ふふっルナは優しい良い子でしょ?」
『朝の御礼。守ってくれようとしたでしょ?ありがとう』
カイはルナの頭をわしゃわしゃと大きな手で撫でたため三角巾がズレ髪がボサボサになってしまった
「ルナ、ありがとな!」
にかっと嬉しそうに笑うカイにボサボサにされた事を怒ろうと思ったが単純で犬みたいな奴と思ったらアミュレットが (カイという人物は単純なので) と話していた事を思い出しつい笑ってしまった
「おおっ!ルナが俺に笑ってくれた!やったー!!」
『もー喜びすぎで恥ずかしい!やめてー!』
………。
その夜カイは約束どおりハラペコくまさんにやってきた。受付嬢のジャスミンさんも一緒だった
「お2人が一緒って珍しいですね」
マリーが2人を席に案内する
「マリーからもカイさんに頼んでよー!ギルドが翼竜の討伐から帰ってこなきゃはじまりの林の調査が進まなくて困っているのよ」
「そうなのね。カイさんには何をたのんでいるの?」
「討伐に行ったメンバーに合流して翼竜退治手伝えって…でもミリアさんが居るんだから俺が行かなくても大丈夫だって」
ジャスミンが答える前にカイがひどく嫌そうに説明する
「ミリアさんがいるから大丈夫だと私も思っていたんだけどまだ帰ってこないから何かあったんじゃないかと思って」
『ねー。カイ、ミリアさんってどなた?』
近くのテーブルに料理を運んできたルナが会話に参加してきた
「うちのギルドのボスだよ!ギルドマスターだ。この街の平和を守ってる人だな」
『ギルマスって男の人って聞いてたけど女の人なの?』
「いや、男だ!SSランクなんて他のギルマスでも珍しいんだ。めちゃくちゃ怖いぞ!特に名前だけで女と勘違いされるのをめちゃめちゃ嫌がる。今だに酔っ払うと俺が間違えたこと愚痴愚痴いってくるんだよなー」
ルナとマリーはアンファングにきて2年経つが初めてギルマスの名前を知ったのだった
「もー!カイさん!お願いですから、見てきて進行状況の報告でもいいので!」
ジャスミンが半泣きになってカイに頼み込んでいる
「ジャスミンさん、それってクエストなの?」
マリーが他のお客さんの対応がひと段落してジャスミンとカイのテーブルに肉とシュワシュワを運んできた
「うん!でも上級者用クエストだから誰も引き受けてくれなくて、もうカイさんに頼むしかないのよー」
カイは耳を塞いで聞こえないフリをしている
『ねーカイ、なんでそんなに嫌がるの?』
ルナがカイの耳を抑えている手をはずし不思議そうな顔をカイに近づける
「あー、ミリアさん人使いが荒いんだ。俺が進行状況確認に行ったら人の10倍は働かされるんだ」
へぇーなるほどーとルナとマリーがうなづくと
「2人とも納得しないでカイさんを説得するの手伝ってよー」
ジャスミンが大きな声で叫ぶのであった