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タレント揃いの野球部  作者: 飛華流
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高校生よ、てっぺんを目指せ

寒さを感じるようになった11月。俺、野原球司は高校受験真っ盛りだった。

得意の野球で進学先を決めようとしたがどこからもスカウトされなかった。ポジションはキャッチャー。野球では扇の要と呼ばれるポジションだ。グラウンドでは頭脳明晰にバッターを手玉にとる配球を組み立てていた。

ところがグラウンドから一歩でも出るとポンコツに早変わり。学校のテストでは万年最下位、絵に描いたような野球バカだ。

「ヤバイんです。このままだと高校行けません」

野原は担任の坂本先生に泣きついた。

「そうか、苦肉の策だが私の知り合いが来年度からスポーツ科がある学校を新設するそうなんだ。野原、そこに行ってみないか?」

「ありがたくお受けいたします」

よっしゃ、受験勉強から解放された。それにスポーツ科だ。これで何も勉強しなくて済むぞ。

そんな甘い考えを抱きながら春を迎えたー。


野原は実家を離れ、長野で寮生活を送ることになった。ここから甲子園を目指すなんて夢じゃない。

野球場の設備は充実していた。両翼90m中堅120mで人工芝、おまけにナイター設備まで完備。ここまで環境が整った学校はいくつも無いだろう。

ただ、ひとつ。ここまで野球部に費用を費やしてもいいのだろうかという疑問が湧いた。

まあ、甲子園に出たら学校も潤うからいいのか。野原は呑気に思案した。

入学式が始まり、校長先生の挨拶が始まる。校長先生は坂本先生の知り合いだった。歳は意外にも若く見える。40代中盤くらいだろうか。

「今日という日を迎えられて本当に良かった。新入生の諸君、入学おめでとう」

大体ざっと400人。男女比は半分か男子が多いくらいだ。

「まず初めに、この高校には部活動というものは野球部しかない」

体育館でざわめきが起こる。それもそうだ。じゃあ部活動をしたい人間はみんな野球部に入部するしかないのか。誰しもがそう思った。

「諸君には野球部を起点に色々な部活動を派生させてほしい。これはある意味挑戦的だ」

「校長、つまりこれは野球部に入部しながらも他の部で活動しても良いという事ですか?」

どこからか声が飛び出した。

「君、鋭いな。確か庭野君かな。」

まさか新入生全員覚えているのか?この人を敵に回してはいけないと悟った。

「君が続けてきたテニスをするもよし。ただし、野球部に入部することが大前提だ」

「つまり甲子園を目指しながらIHも目指せるわけですね」

「察しがいいね。野球部兼○○部という形がこの高校では正義だ。以上で入学式を終了する」

激動の入学式が幕を閉じた。


HRが始まるということで教室に入る。野原のクラスは1-S1だ。スポーツ科のSが8クラスあって普通科はたったの2クラスだ。ここまでスポーツに力を入れてもいいものだろうか。学校の方針というものは恐ろしい。

クラスを見渡すと庭野がいた。あいつもこのクラスだったのか。

「おーい、庭っち。よくあの場で発言できたな」

「初対面で馴れ馴れしくないか。別に周りを気にする必要なんて無い。自分の疑問はそのままにしておきたくないんだ」

「ほー、そーなんか。あ、ごめんごめん。俺、野原球司。よろしくー」

物怖じせず人の懐に入っていくのが俺の特技だ。

「球司か。俺は庭野春樹だ。よろしく」

話してみると意外に打ち解けやすいやつなのかもしれない。そんな庭野に野原は問いかけた。

「もちろん野球部に入部するよな。見た感じスポーツマンって感じがするしさ」

「まあ仕方なく入部するさ。本当はテニス部に入ろうとしたんだが無いなら野球部だな。小学生以来の野球か。少し楽しみだな」

「へー、意外に野球経験あったんだ。じゃあ放課後さ、グラウンドに行ってみようぜ。キャッチボールくらいはできるっしょ?」

庭野は軽く頷いて野原とキャッチボールをする事になった。春の風が吹き、桜の花びらが空を舞う光景は新しい出会いを運んでくれる気がした。


野原と庭野がグラウンドに来てみると先に生徒が10人ほどいた。差し詰め部活難民と言ったところか。

「おーい、お前たちも野球部に入るんだろう!」

野原の問いかけに対して、一人が反応を示した。

「だって野球部に入らないと他の部活ができねーだろ。なら、入るしかねーじゃん」

粗暴な発言と焼けた肌。おまけに髪型が刈り上げに剃り込みが入っていてとても野球をする風体ではなかった。

「サッカー部創設の為に入るだけだからな!蹴上裕生、よろしくな」

「裕ちゃんはサッカーが専門種目か。俺は野原球司な。よろしく」

「あのー、俺も自己紹介いいかな?」

雰囲気が柔らかそうな短髪の男子が様子を伺ってきた。

「おう。ここで会ったのも何かの縁だしよろしく頼む」

「じゃあ改めて籠原億斗です。中学の時はバスケ部に入ってました。野球は学校のソフトボールで経験したくらいで上手いとは言えないけどバスケ部作りたいからとりあえず入部します」

「こんなに野球経験が乏しいやつが入ってて大丈夫か?」

庭野は不安げに漏らした。

「まあ、大丈夫っしょ。どうせ甲子園目指すならいくつもの困難を乗り越えた方が強くなりそうじゃん?」

「何たるアバウト。じゃあ他の人も自己紹介お願いしてもいいか」

庭野がこの場を円滑に回している。意外にも協調性と面倒見が良いのかもしれない。

「俺から、衛送順平です。えいそうって呼びづらいからじゅんぺーって呼んでくれ。部活はハンドボールやってたけどこのまま野球部に入部してもいいかなって思ってる」

「へー、ハンドボールか。肩が良さそうだな」

庭野が呟いた。

「まあな。小学校の時はピッチャーやってたんだけどノーコン過ぎて中学では的が大きいハンドボールを選んだんだ。だから肩の強さは一応自慢かな」

彼ならそこそこの投手に仕上がりそうな予感はしていた。ハンドボールでは野球と同じように肩関節回りの柔軟性が求められるからだ。

「じゃあ次は僕で。羽田敬です。中学の時はバドミントンやってたけど高校ではどうかな?って感じ。反射神経だけは自信あるよ。よろしくね」

これだけ他の運動経験者が集まると化学反応が起きそうな予感がする。他にも陸上、剣道、アイスホッケー、卓球、バレーボール、水泳など多種多様なタレントが揃いつつあった。



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