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目の前に声が聞こえたと思ったら、一人の見慣れない格好の男がいた。
「まったく、自分にできないことをやろうとするのは陛下そっくりだ。」
佳織が戸惑っていると、熊はもうすぐそこにいた。
「え!?あ、危ない!」
佳織はそう叫んでいた。
「大丈夫ですよ。」
男はそう返してきた。その瞬間である。腰にかけていたであろう剣を抜き熊の首をはねていた。
佳織は首のないくまに驚くより、それを行った人物に驚いている。人間の力ではないことは分かるのだが、なぜそれだけの強さを持った物が自分のことを助けたのか疑問に思っていた。
「た、助けてくれてありがとうございます。何でこんなところにいたんですか?」
そういうとすぐに男は膝をつきまるで目上の人に対するような体勢で、
「申し送れました。私は魔帝国軍騎士団、皇帝直属部隊、時黒所属クロノア・シエンと申します。ディエイト帝国より、異界からあなた様をお迎えに来ました。」
「え?」
(・・・・・え、どういうこと?何々?そういう痛い人とかじゃなくて、本当のほう?いやでもこんな私なんて何のとりえもないのに?やっぱりそっち系の人なのかな?)
「戸惑うのは分かりますが、あなたはあらゆる世界で唯一のディエイト帝国の皇帝の座の継承権を持つお方なのです。」
「あ、はい」
ついうっかり反応してしまったがそれでも困惑したままである。
「え、でも何で私なんかが?こんな普通すぎる位の私が?私じゃなくても他の人じゃ駄目なんですか?」
少しクロノアが笑ったと思ったら、
「やっぱり、陛下と同じ事を言う。やっぱりあの方の子です。理由としては、私たちは向こうの世界では魔族と呼ばれる者です。我々は基本的に身勝手です。それをまとめるのは普通不可能です。それを可能とするのが皇帝の一族の方なのです。」
「え?でもお母さんは普通に人間だったよ?その話が本当だと私には半分はあなたたちと同じ血が流れているってこと?」
「はいそういうことになります。」
ここで佳織は一つ疑問に気が出てきた。
「でも、私を探していたって事?それに私を探していたって事はつまりお父さんはもう・・・・」
「はい、サリス様はもう亡くなっています。それにこの世界に来たのもそれを奥様である、遥様に伝えようと調べて私の友人に頼んでこちらにきたらすでに死んでしまっていることが分かり、そこであなた様がいることが分かったのです。」
佳織はだいぶ落ち着いている。そこで自分におかしなことが起きていることに気がついた。周りの景色がなぜか〝はっきり〟と見えていることに今気がついたのだ。
「あ、あれ?何でこんなにはっきり見えてるの?おかしいな」
「なにか、おかしなことでもありましたか?」
「い、いや、クロノアさんちょっと良く周りが見えすぎるだけなんです。」
「それが何かおかしいのですか?それに眼はサリス様と同じ紅金色でとてもきれいですけど・・・それに『さん』はいりません。佳織様。」
佳織は、やっぱりおかしいことだお思った。そんなにじっくりと見るような物ではないが、自分の目は日本人に見られる。黒なのだ。茶色などなら分かるが紅金など絶対にありえないのだ。
「で、クロノアは私をどうしたいの?」
「できれば、皇帝を受け継いで欲しいですが、無理強いをすることはしません。それに、向こうに戻るのも後七日間は待たなければいけませんから。」
佳織はどうしようか迷ったが一つの思考に簡単に至った。
『お父さんの生まれ育ったところを見てみたい』
「皇帝になるかはともかく、行ってみたい。お父さんがどんなところで育ったのか見てみたい。」
「分かりました、我が主。それでは七日後夜にまた会いましょう。」
「あ、ちょ!」
一つ佳織は言いたかった。『私はいつからあなたの主になったのか』