ミス鉄仮面という教師がいてだな
もっとくわしく説明しようとしたところでチャイムが鳴った。それと同時に、戸が開いてミス鉄仮面が入ってきた。まったく生徒もまじめなら教師もクソまじめなのだ、この学校は。
「ハロー、エブリバディ。レッツ・スタディ・イングリッシュ・トゥギャザー。では、テキストの36ページを開いてください」
起立、礼、着席、の号令のあとすぐさまミス鉄仮面は授業を始める。ミス鉄仮面というのはこれもまたもちろんあだ名で、本名はたしか徹子っていう英語の先生なんだけど、これがもういやになるほどきびしくて冷たい、鉄の女なのだ。
女の先生にミス鉄仮面なんてあだ名はずいぶんだけれど、でもまあ教師と生徒っていうのは圧倒的な力関係が存在するわけで、生徒がいくら反抗したってしょせん教師には勝てないわけよ。授業をボイコットしたり窓ガラス割ったり教師を殴ったりって、そういうことする不良もいるけど、そんなのはずいぶん勇ましそうに見えるけれど、暴力行為はそれはもう警察のお世話になっちゃうから、けっきょく損するのは生徒なのよ。
あずだってそのくらいのことはわかっているから、おとなしく服従の態度を示しつつ、陰ではこっそり先生に変なあだ名をつけて、ちょっとばかり鬱憤を晴らしているってわけさ。ささやかな反抗。
ミス鉄仮面のおばさんも、授業に熱心なのはいいけど、おもしろくないんだよねえ。アメリカ人ってなんだか陽気で楽しそうじゃない? ワーオ! ワンダホー! エキサイティン! ビュリホー! グレイッツ! とか、にぎやかで明るいじゃん。だから英語の授業ってもっと楽しいものだって思ってたのに、英単語とが文法とか、もうちんぷんかんぷん。きっと教える人の問題なんだよ、ミス鉄仮面ってぜんぜん無表情だし、冗談ひとつ言わないし、もうなんか英語をしゃべるロボットみたいなんだよねえ。
「ヘイ、あーちゃん。ぼんやりしてないで、教科書読んでください」
ひやあ、いきなり当てられてしまった。
「どうしました?」
もじもじしているうちに、またみんなの視線が集中する。あずは机の中にしまったはずの教科書を探している。ない。英語の教科書が見つからない。がーん。忘れたのだ。
それを察した雪乃が隣からそっと自分の教科書を差し出してくれた。しかしミス鉄仮面はそれに気づいて、つかつかと近寄ってくる。
「どうしました。教科書、忘れたのですか」
「はい」
「前も、こういうことありましたよね」
「え? いや、そうでしたか」
「とぼけてはいけません。二年生になってから教科書を忘れたのが七回。宿題を忘れたのが四回。授業中に居眠りしていたのが五回。うまい棒を食べているのを見つかったのが一回。こっそりマンガを読んでいたのが二回」
「あちゃー」
「ユー、やる気があるんですか?」
「はい、それはもう……」
「期末テストの点数も、クラスで一番ビリでした。こんなことじゃ、三年生になれませんよ」
「は……」
「放課後、残ってなさい。補習をしましょう」
「あ」
「なにか?」
「今日は、ちょっと、家で用事があって、どうしても早く帰らなくちゃ」
「そうですか。じゃ、プリントを用意しておきますから、それを宿題とします」
また宿題が増えた。
「あーちゃんのせいで、貴重な時間をロスしました。五分三十四秒です。今日の授業はその分だけ延長します」
ミス鉄仮面はつめたくそう言って、再び教壇に立った。




