あーちゃんが歌って踊って世界を救う
ムギじいが向かった先は町の公民館だった。受付によれよれの白いワイシャツをだらしなく着たおじさんが座っていたんだけどすやすやと寝息を立てていた。あずは何も言わずにすたすたとその前を通り過ぎる。廊下を進むと放送室と書かれたドアがあった。
「ここに入るんじゃ」とムギじいが言った。
「勝手に入っておこられない?」
「かまわん、かまわん」
ドアを開けると部屋には誰もいなかった。テーブルの上にマイクがあって壁には地震などが起きた場合の緊急放送を行うための手順を書いた紙が貼られている。
「あーちゃん、このマイクに向かって歌をうたうのじゃ」
「どうして?」
「町の人たちはあのモニャレンマの鳴き声にやられて、おかしくなっておる。そいつを正気に戻すためにはなにかショックを与えねばならん。それには、あーちゃんの歌がいい」
「なんなのそのリクツ」
「いいから言われたとおりにやるのじゃ。あーちゃん、歌は得意か?」
「うたうのは好きだけど、なぜかみんなに音痴だって言われる」
「それはいい」
「なにがいいのよ」
「さあ、はりきって、うたうのじゃ」
あずはマイクの前に立って放送用のスイッチを入れた。あ、あー、と声を出すとその声が公民館の屋上に設置された大きなスピーカーを通して町中にうわーんと響いた。
ひっちゃかめっちゃか
ひっちゃかめっちゃか
うさぎのママがドーナツの穴をたべちゃった
首まで雪に埋もれたの
タンスをかついで一人旅
どうしましょったら、どうしましょ
ひっちゃかめっちゃか
ひっちゃかめっちゃか
くらげのパパがマンモスの化石をさがしたよ
肩までお湯につかったの
三分待っても誰も来ない
どうしましょったら、どうしましょ
「いいぞいいぞ、その調子じゃ」
ムギじいが手をたたいて踊りだした。ドンキチもなんだかうかれて、しっぽでリズムを取っている。あーちゃんもだんだん気分がよくなって歌いながらステップを踏んだ。
ひっちゃかめっちゃか
ひっちゃかめっちゃか
カエルのいとこがスイカの種を埋めちゃった
靴下どこに消えたのか
何かが空を飛んでいる
どうしましょったら、どうしましょ
ひっちゃかめっちゃか
ひっちゃかめっちゃか
アヒルのあかちゃん首がぬけなくなっちゃった
イカスミのせいでまっくろけ
つぼの中からこんにちわ
どうしましょったら、どうしましょ
ひっちゃかめっちゃか
ひっちゃかめっちゃか
ヤドカリ父さん日曜大工でひともうけ
道をまちがえてもへっちゃらさ
宿題やるからおこづかいちょうだい
どうしましょったら、どうしましょ
「あーちゃん、けっこううまいじゃないか」
「ありがとう。でもこの歌、五十三番まであるの。最後まで歌いきるには三日はかかりそう」
「ますますいい!」
ムギじいは手をたたいて盛り立てる。
あーちゃんがますます声を張り上げていると部屋のドアが突然開けられて、受付にいたおじさんが血相を変えて飛び込んできた。
「こら、なにをやっておる! きみらは何者だ! 勝手なことをしたらいかんじゃないか!」
「あ、でも……」
「もう電話が鳴りっぱなしで、町民からの苦情が殺到しておるのだ。なんてひどい歌を流してるんだ、すぐにやめさせろってね」
「あたしの歌、そんなにひどいですか?」
「ひどいなんてもんじゃないよ、メシがまずくなったとか、ぬかみそが腐ったとか、おばあちゃんがもちをのどにつまらせたとか、洗濯物が乾かないとか、こどもがピーマンを残したとか、テレビ番組の録画を失敗したとか」
「あたしのせいじゃないのも含まれている気がするんだけど」
「そんなことない! 町民は神様だ、一件でもクレームがあれば菓子折り持ってお詫びに回らなくちゃならないんだ。始末書を書かされる私の立場も考えてくれ。そもそも誰の許可を取っているんだ。放送室を勝手に使っちゃいかん! すぐに出て行きなさい!」
なによ、受付で居眠りしてたくせに。あずはそう思いながらも言い争うのは気が進まなかったので、しぶしぶ引き上げることにした。
「やっぱりおこられちゃったじゃない」
薄暗い廊下をしょぼしょぼと歩きながらあずはムギじいに愚痴った。
「よかった、よかった」
「なにがよかったの?」
「みんな正気に戻った。あーちゃんの歌のおかげじゃ」
ムギじいはそう言って目を細めた。




