ケイドロ
あずは自転車に乗って学校をあとにした。
頭の中にいろんなことが渦巻いている。こんがらがった糸、ばらばらになったジグゾーパズル、それがちょっとした手がかりでほどけ始め、絵が見え始めることがある。ひらめいた、ひらめいた。
あずは自転車をこいでいく。目指す建物が見えてきた。
白い壁、赤い門灯、そして警察の紋章。そこは商店街の近くにある交番だった。
あずは自転車を停めて、中に入る。
「どうしました?」
中にいたのは昨日の若いおまわりさんだ。
「泥棒!」とあずは言った。
「また泥棒に入られたんですか?」
あずは首を横に振った。
「なんか、におう」
あずは鼻をくんくんさせた。そのまま交番の奥へと進もうとする。
「話ならここでお聞きしますよ」
おまわりさんはあせった顔であずの腕をつかみひきとめる。
「突撃! となりの晩ごはん!」
「は?」
「知らない? ヨネスケ」
「ああ、テレビの」
「そう。お宅の晩ごはん、なに?」
おまわりさんが少し困った顔をした。あずはそのすきを突いて腕を振りほどき、おまわりさんの横をすり抜け、交番の奥の部屋へとあがりこむ。
そこは交番勤務の警察官の控え室で、そのさらに向こう側に、水道とコンロがついている小さなキッチンがあった。コンロの上には鍋が置かれている。あずは鼻をくんくんさせながらその鍋の蓋を取った。中にはカレーが入っていた。
「あなたですね、泥棒は」
あずは振り返って、おまわりさんを見た。
「どうして?」
「これが証拠よ」
あずはそばにあった冷蔵庫の扉を開けた。顔を突っ込んで中からビニール包みを取り出してテーブルの上に開けた。コロッケと、みたらしダンゴ。
「これはお肉屋さんから盗まれたコロッケ、そしてこっちはダンゴ屋さんから」
「それは、何かのまちがいです」
「まちがいなもんですか。八百屋さんから盗まれたのは、ジャガイモ、たまねぎ、ニンジン。それからお肉屋さんからは牛のひき肉。あなたはそれらを盗んで、ここでカレーを作ったのよ」
おまわりさんの顔が、だんだんと青ざめてくる。
「どうして、どうして……」
「おまわりさん、そんなにカレーが好きなの?」
「ええ、まあ」
「でも、お店のものを盗んじゃ、いけないわよね」
おまわりさんは顔を曇らせて、ひざをついてうなだれた。
「どうして、こんなことをやってしまったんだろう」
「泣き落としは、やめてね」
「つい、魔が差して……」
「万引きで捕まった人でも、よくそういう言い逃れをするのよ。でも、あなたの場合、それはほんとうかもしれないわね」
あずの言葉に、おまわりさんは顔を上げた。
「もう鍋の中に煮込んじゃったものは、戻すわけにはいかないから、なにかべつのことで償うしかないわね。これからはあのお店で、いつもよりたくさん買ってあげるとか、ダンゴ屋のおばあちゃん、さみしそうだから話し相手になってあげるとか」
「見逃してくれるんですか」
「見逃すっていうか、八百屋のおじさんたちも、戸締りしてなかったわけでしょ、そりゃ、魔が差しますよね。それに盗られたお店の人たち、べつに犯人を憎む気もなさそうだし。おまわりさん、若くて将来もあるし、せっかく勉強して警察官になったのに、これでクビっていうのもかわいそう」
「ありがとうございます、感謝します、このご恩は決して忘れません」
おまわりさんは、深く頭を垂れて土下座をした。
「やめてくださいよ、そういうの」
「もう決して、二度とこのようなバカな真似はいたしません」
「その言葉、本当ね?」
「はい」
「うん。信じるよ。だって、おまわりさんのせいじゃないと思う。きれいはきたない、きたないはきれい」
「は……?」
「なぜかみんな、さかさまになってると思わない? 変なんだよ、この町。うちの学校でも、教師が生徒になり、生徒が教師になっている。なにもかも、さかさま。だからね、こう考えたの。泥棒はどうなる? 泥棒はおまわりさん、おまわりさんは泥棒。だから、おまわりさんがあやしいと思ったの」
「はあ……」
おまわりさんはあずの説明に、わかったようなわからないような顔で、首をかしげている。それでもあずは満足そうに、にっこり笑った。
「それから、ちょっと頼みたいことがあるの」
「なんでも言ってください。僕でできることであれば、なんだってやります」
「うん。おまわりさんの力を借りたい。あることを調べて欲しいの」
あずは神妙な顔に戻って、そう言った。




