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あーちゃんのアンティーク  作者: つばさねずみ
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先生たちにお説教するハメに

 放送はしたものの、いつまで待っても職員室に先生たちは来なかった。しょうがないので校内を駆け回って、一人ずつに声をかけて来てもらった。

 職員室の中も荒れ放題で、生徒たちが持ち込んだゴミがそこかしこにポイ捨てしてあり、机やイスはひっくり返されて、壁には落書きがされている。職員室内にたむろしていた生徒は追い出したが、また別の生徒が入ってこようとするので、あずは戸に鍵をかけた。

「先生方は、こういうのを見て、なんとも思わないんですか」

 集まった先生たちに向ってあずはそう切り出した。

 カッパゴリラは倒れていたイスをひょいと元に戻し、腰をおろしてタオルで首筋の汗をぬぐった。

「このままだったら、この学校、どんどんおかしくなると思うんです」

 カッパゴリラはポケットからタバコを出して、ふかし始める。ミス鉄仮面はポテトチップスを食べている。

「あの、タバコとかお菓子とか、やめてもらえません?」

「どうして?」

「だって、人が話しているときは、ちゃんと聞くのが礼儀でしょ」

「まあまあ、そんな堅いこと言わずに」

 さっきまでは生徒に混じって卓球をやっていた教頭先生が、額の汗をぬぐいながら言った。

「普通だったら、生徒が教室でお菓子を食べてたら、先生は怒るでしょ。ていうか、この前まではみんな怒ってたじゃないですか、校則もきびしかったし、ちょっと違反しただけでグランド十周とかやらされてたんですよ」

「ひどい学校だねえ」

 カッパゴリラがそう言うと、先生たちは顔をそろえて、うんうん、とうなずきあった。

「あたしも、そういうのはひどいと思ってたけど、でも今の状態を見たら、前のほうがよかったって思います。やっぱり校則は守らなくちゃいけないし、違反したら怒られて当然だと思うんです」

「そんなことないよお、自由なのが一番だよ」

「自由って言っても、何をしてもいいってことにはならないと思います」

「そんなの自由じゃないよ、自由っていうのは何をしてもいいから自由なんだよ」

「それじゃ、学校が今みたいになって、先生方は満足なんですか?」

「満足だよ」

「それっておかしいんじゃないですか? 先生っていうのは生徒に、何が正しくて何がまちがっているとか、そういう大事なことを教える義務があるでしょ」

「だって僕たち、もう先生じゃないもん」

 ルートマンが子供じみた声で言った。トレードマークの七三分けではなくて、いつの間にか髪の毛が茶色に染まっていて、耳たぶにはピアスまでしている。

「だって大人じゃないですか。大人っていうのはもっとしっかりしてくれなくちゃ、困りますよ」

「そんなことないよお、大人も子供も変わらないよ。むしろ僕はいつまでも子供の心を忘れたくないんだ」

 ピンポンタヌキは机の上に足を乗っけて『少年ジャンプ』を読みながらそう言った。開いた雑誌のページには緑色の髪の少女が機関銃をかまえて、しゃがんだ股間から白いパンツが見えている絵が描かれていた。

「あたしもマンガは好きだけど、でもマンガばかり読んでたらいけないんじゃないですか」

「どうして?」

「だって、数学とか理科とか勉強しないと、どんどんバカになってくし」

「あれ、そんな勉強なんて何の役にも立たないって言ってたんじゃないの?」

「ええ。数学なんて何の役にも立ちません」

 ルートマンは自信満々にそう言った。

「英語だって、べつに必要ないわ、日本語だけで困ることないし」

 ミス鉄仮面はネイルアートを施した自分の爪をながめながらそうつぶやいた。

「でも、そんなことないですよ、だって高校受験には役に立つじゃないですか。勉強しないと、高校にいけないですよ」

「行かなけりゃいいじゃん」

「そうですよね、勉強を嫌いな人がなんでわざわざ高校行って、さらに大学まで行こうとするんですかね。中卒で働けばいいじゃないですか」

「それは、上の学校に行かないと、いい仕事に就けないから」

「いい学校に行きたいからとか、いい仕事に就きたいからという理由で、やりたくもない勉強をするのって、おかしくないですかね。好きなことだけやってれば? いいじゃない、今が楽しければ。将来は将来で、なんとかなりますよ」

「それはみんながもう大人だからそう言えるので、まだ子供の生徒たちにそんなこと言うのはまちがってますよ」

「中学生と言えば、もう立派な大人ですよ」

「うんうん。昔なら嫁に行けたし、兵隊にも取られてました」

「だったら、先生方は、学校がこのままでいいと思ってるんですか?」

「うん」

 勢い込んで問いかけたあずだったが、先生たちから帰ってきた言葉にずっこけそうになった。この人たち、ぜんぜん危機意識がない、世も末だ、もうおしまいだ。

「それなら、あーちゃんはどうしたいの?」

 教頭先生がコカコーラを飲みながらそう訊いた。

「やっぱり、校則は必要だと思うんです。お菓子とかジュースとか教室に持ち込むのはいけないし、そんなことじゃ授業になりません。それから、朝だって遅刻しないように来なくちゃいけません。そのためには始業時間をきちんと決めて、時間割もしっかりと決めないと。

 マンガの持ち込みも禁止です。教科は、数学も理科も文部科学省が決めたことはちゃんと守って教えないとダメです。音楽室でダンスパーティとか、やめてください。音楽の先生はロックなんか聞かせずにモーツァルトやベートーベンなどのクラシックを教えてください。

 制服も必要だと思います。いくらファッションだといっても茶髪とかピアスとかタトゥーとかで学校に来る生徒がいたら、雰囲気が悪くなります。学校は勉強するところなので、ちゃらちゃらする生徒が増えたらいけないと思います。だから男女交際も禁止、それから……」

「なんか、すっげーつまんねえ学校になりそうなんだけど」

「だよねー。そんな規則でがんじがらめの学校になんか、行きたくねー」

「窮屈ですわね」

「校則を戻すってさ、それってようするに、前の学校に戻るってことじゃん」

「そうですね」

「そんなのやだよー。前の学校がきらいで今みたいになったんじゃん。どうしてそんなに時代に逆行するようなことするわけ?」

「あーちゃん、もしかしてダンスパーティーで私だけ楽しんでたんで、いやがらせしてるの? 誘ってあげたじゃない、一緒に踊ればよかったのに」

「そうなのか」

「ちがいます! あたしは校長としての立場で、この学校の将来を心配して、申し上げているのです」

 あずは感情が高ぶってきて激しく首を横に振る。

「もうちょっとさ、気楽にやろうよ。校長先生、力入りすぎよ。どう、これから一杯」

「あたしは、つきあいますわ」

 吸血モモンガがおっとりした声でそう言った。

「みなさんで飲み会と行きましょうか」

「いいですねえ」

「うえーい」

「それじゃ、さっそく、買ってきますよ。ビール、チューハイ、ウイスキー、女性陣はワインもやりますか。つまみは何がいいですか」

「私はもう、スルメと柿ピーがあれば」

「ワインがあるなら、カマンベールがほしいわ」

「家庭科の実習室に行きましょう、コンロがあるから、何か作れる人はパパーッと作って」

「おつまみ天っていうのがうまそうだなあ。さきいかをテンプラにするんです、いやこの『クッキングパパ』に載ってるんですがね」

「それは、おいしいですよ」

 先生たちはそんなことを言いながら、席を立ち職員室を出て行く。

「ちょっと、ちょっと、待ってください。まだ話は終わってないんですけど」

 あずは必死に呼びかけたが、みんな素知らぬ顔で背中を向けて出ていった。

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