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あーちゃんのアンティーク  作者: つばさねずみ
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商店街でいろんな物が盗まれる事案が発生

 えーっ! なんてことになってしまったの!

 それから全校集会が開かれて、職員会議で決まったことが生徒たちに伝えられた。校則をすべてなくすこと、それから教師はみんな明日から生徒になって、代わりに生徒が教師になること。そして校長先生は今日かぎりで退職して、新しい校長にはあずが就任する。

 なんでなんで? どうなってるの?

 先生はみんなおかしくなっちゃったし、それで生徒の方だってそういうおかしな決定がいろいろなされているというのに、みんなのんびりしていて驚きもしないし騒ぎ出したりもしない。あー、そうですかあ、みたいな感じで、退屈な校長先生の訓辞を聞くときみたいに、ボケーっとした顔で聞いていた。

 ちょっと、みなさん、これはたいへんなことですよ、あたしが校長先生になるんですよ、このぐうたらな、この中学一番の問題児が校長先生ですよ。

 あずはそう叫びたい気持ちだったのだが、一度決まってしまったものは変えられないような気がして、それになんだかどうでもいいような場の雰囲気に飲み込まれて、結局何もいえないまま成り行きにまかせてしまった。

 全校集会のあとはもう自由解散のようになって、帰りたい人は帰っていいということのなので、あず体育館を出て自転車置き場までぼんやり歩いた。それで自転車にまたがって家への道を帰っていくうちに、だんだんと不安がこみ上げてきて、こういうのってやっぱりかなり変だよねと思った。それなのにまわりの誰もが当たり前のように受け入れているのって、いったい何? まるであたしの方がおかしいみたいじゃない。え? もしかしてあたしの方がおかしくなっちゃったのかなあ。

 商店街を抜けていこうとすると、あずもよく買っているダンゴ屋さんの前に人だかりがしていた。いつも店に出ているおばあさんが制服姿のおまわりさんと立ち話をしている。

「何かあったんですか?」

 あずは自転車を停めておばあさんに声をかけた。

「あーちゃん、聞いてよ、うちに泥棒が入ったの」

「まあ、たいへん」

「それでね、おまわりさんに来てもらったんだけど、他の店もやられているらしいの」

 おばあさんがそう言うと、そばにいたハゲ頭のおじさんが大きくうなずいて口をはさんできた。

「うちもやられちゃったよ、ジャガイモ、たまねぎ、ニンジン」

 ハゲ頭のおじさんは、八百屋のご主人だった。

「うちもなのよ」

 そう声をかけてきたのは、肉屋のおかみさんだった。

「えーっ、一度に三件も?」

「まあ、盗られたといっても、コロッケと牛のひき肉ぐらいなんだけどね」

「でも怖いですよ」

「しかしせこい泥棒だねえ、どうせ盗るなら金庫ごと持っていきゃいいのに」

 八百屋のご主人はそう言って笑った。

「そんなあ……」

 あずは心配してみせるのだが、おじさんたちはどこか、のほほんとしている。

「やっぱり、窓ガラスを割られたりして、忍び込まれたんですか?」

「それが、そうじゃないの」

「ドアの鍵をこじ開けられたとか?」

「店のドアは、開いてたの」

「え?」

「閉め忘れて寝ちゃったのね」

 肉屋のおかみさんは、そう言って苦笑いした。

「うちも」とダンゴ屋のおばあさんが言った。

「だめだよ、みんな、防犯意識がないなあ。それじゃ、泥棒さんにどうぞ入ってくださいって言ってるようなものじゃないですか。戸締り用心、火の用心ってね、基本ですよ」

 八百屋のご主人が言う。

「そういうおたくは?」

「あちゃー。こりゃまた、うっかりと」

「店の鍵を閉めてなかったんですか?」

「どういうわけだか、うっかり閉め忘れちゃったんだよなあ」と、八百屋のご主人は自分のハゲ頭を手のひらでペシッと叩いた。それを見て、おばあさんとおかみさんがケラケラ笑った。笑いごとじゃないと思うんだけど。みんな被害にあったというのに、どうしてそんなに、のんきなの?

「あのう、警察はもちろん、捜査するんですよね」

「はい」

 若いおまわりさんは、そう明るく言ってうなずいた。

 しかし、ほかに警察関係らしき人は見当たらない。事件が起こったらパトカーがきたり、鑑識の人たちが指紋を調べたり、刑事さんが聞き込みを始めたりするんじゃないの?

「でも、警察の人、来てないような気がするんですけど」

「この人がいるじゃない」

 と、八百屋のご主人がおまわりさんを指さす。

「将来の警視総監」

「やめてくださいよ、それは無理ですよ」

「それじゃ、警視庁長官」

「だからー、僕は高卒なんですから」

「学歴なんか関係ないよお、おいらは中卒だよ」

「八百屋と警察官はちがうわよ」と、おかみさんが割り込む。

「ちがうもんか、人間、努力だよ、大事なのは努力。あんたもがんばりなよ」

「はい」

「あのー、指紋を調べたりするんですよね」

 あずはたまらず、おじさんたちの間に割り込みそう尋ねた。

「はい。それは鑑識の仕事ですね」

「鑑識の人は?」

「えーと、本部には連絡してますから、じきに来ると思います」

「ちょっと遅くないですか?」

「それがさ、いろいろ忙しいみたいなんだよ、他にも事件がいっぱい起こってんでしょ?」

「はい」

 八百屋のご主人の問いかけに、おまわりさんは返事をする。返事だけは元気で明るい、まるで売り出し中のアイドルタレントみたいに。タレントならそれでいいけど、この人はおまわりさんだ。あずの見た目だとこの人は、どうも性格は良さそうだけど、おまわりさんとしては頼りない。ご主人たちに調子を合わせて、へらへら笑っているし、聞き込みもしなければ集まってくる野次馬の整理もしない。こんなので犯人が捕まるのだろうか。

「でもさあ、たまには泥棒でも入らないと、警察だってひまだろ?」

「そうですねえ」

「そんなこと言っちゃっていいんですか」

 あずは心配になって口をはさんだ。

「だってそうだよ、事件が起こるからおまわりさんは仕事になるんだから。

 犯人を捕まえるのが、おまわりさんの仕事だよ、それなのにみんながまじめになってさ、誰も悪いことをしなくなったら、おまわりさんは困るよ。この世から犯罪がなくなってごらん、おまわりさんどころか弁護士さんも検事さんも裁判官も、おまんまの食い上げだよ。みんな犯罪者がいるから、仕事ができるの。消防士だって、火事があるから必要なんだよ。火事がなくなったら失業だよ」

「まあ、それはそうですけど、でも、犯罪はなくなってほしいですよ」

「強盗とか、殺人とか、そういう物騒なものはね、ないほうがいいや。だけど泥棒ぐらいいいんじゃない? 盗まれた物だって小さいしさ、それが縁でこうやってみんなで集まって、世間話に花を咲かせている。商店街もね、近頃は不景気でどんどんお店がつぶれて、シャッター通りになってるわけよ。さびしいじゃない、それなのに郊外には大きなショッピングセンターがどんどんできてさ、みんな車でそういうところに買い物に行って、一週間分の買い物をしたあげくにフードコートでメシまで食うんだから、こちとらの商売上がったりだよ。なにより、さびしいじゃない。昔はね、小さな商店で、ご近所同士のふれあいがあったわけさ」

 八百屋のご主人の話に、肉屋のおかみさんが、うんうん、とうなずいている。

「人と人との絆とかさ、コミュニケーションの大切さとか、そういうことを言ってる人がいるでしょ、だったらさ、もっと俺たちみたいな小さな商店を大事にしてよ、ねえ、そうでしょ。ショッピングセンターとか大手コンビニチェーンとかさ、そういう大資本だけが儲かればそれでいいってのは、おかしいでしょ」

「でも、やっぱり泥棒はよくないですよ」

 ご主人の話が長くなりそうだったので、あずはそう言って話を引き戻そうとした。

「そうだなあ、たしかに、うちも百円、二百円の商売だから、それを盗まれるのは痛いよ。でもなあ、盗人にも五分の魂っていうんだよ」

「うんうん、なんかさ、この泥棒って、そんなに悪い人じゃないような気がする」

「そうだねえ。盗られたのは、みたらしダンゴなのよ。みたらしダンゴを好きな人に、悪い人はいないわ」

 おばあちゃんまでが同調して、うなずいている。

「でも、もしかしたら、その泥棒ってまだこの辺をうろついているかも」

「犯罪者は、現場に戻るって言うし」

「ねえ、あーちゃんのお店は大丈夫?」

 おばあさんが心配顔で声をかけてきた。

「うちは、べつに盗られるようなものないですから」

 そうは言ってみたものの、急に不安になってきた。そうだ、家には雪乃ちゃんがいるのだった。

「あ、それじゃ、帰ります」

 あずはそう言って再び自転車にまたがってこぎ出した。

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