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あーちゃんのアンティーク  作者: つばさねずみ
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職員室で先生たちが、キチガイお茶会

 あずは自転車で学校に行った。しかしどうも校舎の中が閑散としていて、通学してくる生徒の姿がぜんぜん見当たらない。まさか今日は祝日だった? いやいや、そんなことないって。めずらしく早く来ちゃったものだからそんな気がするだけだ。

 教室に入るとガラーン、なんと一番乗りだった。こんなこと中学生になって初めてだった。誰もいない教室で、他の生徒が登校してくるのを待つのってなんだかこれはこれでちょっといい気分。

 しかしみんながあんまり遅いので、もしかして今日は臨時休校だったりするんじゃないのとだんだん不安になってきた。そういうお知らせってけっこう忘れちゃったりするんだよなあ。

 そわそわ窓辺に立ち、自転車置き場をながめる。やっと何人かのセーラー服姿の女子を見つけて少しほっとする。だけど今日はみんななんだかのんびりしている。毎朝校門に立って遅刻をチェックしているカッパゴリラも見かけない。それならこんなに早く来ることもなかったのに。

 時計の針が八時を指すと教室にも生徒たちが入ってきた。それでもまだ半分くらいは空席のままだ。

「ねえ、みんなどうしたんだろう、遅いよね」

 あずは心配になって、近くの席でぼんやりしているメグミちゃんに尋ねた。

「そうだよねえ」とメグミちゃんからはぼんやりした返事が返ってくる。他の生徒たちもみんなぼんやりしていて、ほんとみんなどうしちゃったんだろう。

 担任の先生も来ないから朝のホームルームも始められないし、そのまま一時間目のチャイムが鳴った。しかし教室の半分はまだ空席だ。一時間目は国語なんだけど、先生はまだ来ない。自習という連絡もないし、だらだらした時間ばかりが流れていく。

「先生遅いね、どうしちゃったんだろう」

「そうねえ」

 メグミちゃんの返事はあいかわらずで、教科書も出さずに髪の毛をいじって枝毛のチェックをしている。他の生徒たちも無駄話をしたりスマホでゲームをやってたり。いつもはまじめなみんながどうしちゃったんだろう。これはまずいよね。こんなときに雪乃ちゃんがいてくれれば頼りになるのに、今日は欠席。雪乃ちゃんからは学級委員を任せるなんて言われちゃったし、それらしいことしないといけないよなあ、と思ったあずは教室を出て先生を呼びに行くことにした。

 階段を下りて職員室に行く。ドアをノックして入ると、なんと先生方はみんなイスに座ってのんびり雑談をしていた。机の上には湯呑みとおせんべいまで置かれている。茶飲み話をしている場合じゃないでしょ。

「あのう、もう授業始まっているんですけど」

 あずは声をかけた。するとカッパゴリラが振り返って、おお、ちょうどいい時にきた、と言って手招きした。

「いま、あーちゃんのことを話していたところだ」

「え?」

 いやな予感がするなあ、と思いながらあずは手招きされるままに職員室の中に入る。差し出されたイスに腰をおろす。

「では、あーちゃんにも職員会議に参加してもらおうではありませんか」

 数学教師のルートマンがそう言った。

「職員会議?」

「そうです。臨時のね、このところ構内でいろいろ困ったことが起きていますね」

「は……」

「それでそういった問題をこのまま放置しておいたのでは、さらなる困ったことに発展しそうである。困った問題はほっておくと必ずもっと大きな困った問題になるのである。困った困った、と言っているうちに、どんどん問題がこじれて、こんがらがってしまうのである。そうなってからでは手遅れである。そこで今朝は臨時の職員会議を開いて、みなさんで知恵を出し合い、こうした困った問題についての協議をしようということになったのです」

 見ると、校長先生の姿もあった。なんだが、おおごとになっているような気もするけど、先生方の態度は言葉とは裏腹に、どこかのんびりしていて、校長先生なんかはこくりこくりと居眠りをしている。

「あのう、それより授業は……」

「自習」とカッパゴリラが言った。「先生、放送お願いできますか」と言うと、音楽のピロロ先生が職員室から出ていって、ほどなくスピーカーから「本日の授業は、とりあえずすべて自習にします。みなさん好きなようにしてください」という全校放送が流れた。

「今日は、先生たち、授業しないんですか」

「そう」

「それじゃ、ずっとここで職員会議をしてるんですか」

「そうよねえ、困った問題が片付かないとそうなっちゃうけど、そんなに長い時間会議するのは疲れるから、早いとこ片付けたいよねえ」

 国語担当の、のぶっちょ先生はせんべいをポリポリかじりながらそう言った。

「それで、なにを話し合っているんですか」

「困った問題」

「なにが困ってるんですか」

「えーと、なんでしたっけ」

「たしかあれじゃないかな、遅刻のこと」とカッパゴリラが言った。あずはぎくっとなった。

「ああそうでした、遅刻のこと」

「どんなにきびしい罰則を設けても、遅刻してくる生徒がいる。これでは校内の規律が乱れてしまう。どうすれば遅刻をなくすることができるか、それを話し合っていたところだ」

「そうですよねえ、他の生徒はきちんと時間内に登校しているのに、どうして遅れてくる子がいるのか」

「その生徒一人のために、毎朝校門に立ってチェックしなければならない先生がいるんですからねえ。その先生だってたいへんですよ、その生徒のせいで、自分の仕事ができないんですから」

「まったくけしからんですなあ、時間をきちんと守るというのは人としての基本じゃないですか」

 職員室に集まった先生たちから口々にそう責められて、あずは恐縮して肩をすぼめそのまま消え入りそうになった。

「なぜ遅刻してくるのか、その当事者に話を聞いてみようではありませんか」

 ルートマンがそう言うと、みんなの視線があずに集まった。あちゃー、冷や汗がどっと出る。

「あのう、はい、たしかに遅刻は悪いことだと思っています。すみません、でも、あたしは朝起きるのが苦手で、何とかしなければと思っているんですけど、どうしてもダメで……」

「それは言い訳ですよね」

「そうですね、他の生徒たちはみんなきちんと時間通りに来れているわけですから、一人だけそんなことを言っても言い訳にしか聞こえませんよね」

「はあ、ごもっとも……」

 あずは先生たちから反論されて、うなだれる。

「しかしまあ、あーちゃんだけを責めてもしょうがないですな。もうこの子には何べん言い聞かせても、無理なようです。馬の耳に念仏といいましょうか。説教したって始まらない。説教で遅刻がなくなるなら、もうとっくになくなっているはずです。そうは思いませんか、みなさん」

 カッパゴリラが言うと、先生たちはうなずいた。

「そこでですね、こういう場合、発想を変えてみたらどうでしょうか。われわれの目指すべき目標とは、遅刻をゼロにすることだ。それさえ達成すればいいのです。そのことに絞って議論するべきではありませんか」

「なるほど、これはおもしろい意見だ。たしかにそうですね、遅刻してくる生徒は毎回決まっている、それならその生徒だけ特別に、遅れてきても遅刻にはしないということにすればどうでしょう」

「それはいい、それなら遅刻はゼロになります。学校の秩序が保たれる。教育委員会にもPTAにも面目が立ちます」

「あーちゃんだって好きな時間に、学校にくればいいのだから満足でしょう」

「は……」

「しかし、一人の生徒を特別扱いするというのは、他の生徒からクレームが来ませんかな。今の時代、子供たちもその父兄も、なんでもかんでも平等ということを主張する。運動会のかけっこに順位をつけるのだって、平等ではないからというので問題になる時代です」

「なるほど、なぜあーちゃんだけ特別扱いされるのか、自分だって同じように扱ってくれということで、われもわれもと、遅刻する生徒が大勢でてくるということが考えられます。そうなるとやっかいだ」

「これは難しい問題ですなあ」

「それなら授業時間の方を遅らせるというのはどうでしょう。九時とか十時からなら、さすがに誰も遅れてこないでしょう」

「昼からにするとか」

「それだと帰りが遅くなっちゃうわ」

「そうですね、帰りが遅くなると、生徒たちだって寝る時間が遅くなって、必然的に朝起きるのが遅くなる。すると昼過ぎまで寝ているやつが出るかもしれない」

「それなら授業時間を遅くしても、同じだ」

「困ったものですなあ」

 自分の起こした問題がどんどん複雑かつおおごとになっている、あずは弱ったなあと頭を抱える。

「それならもう遅刻という考えを、なくせばどうでしょう」

「とおっしゃると」

「だから、遅刻という概念じたいをなくするのです。時間に遅れてきても、それは遅刻ではない、なぜなら遅刻という考えはこの学校にはないから」

「なにやら、哲学的な問題になってきましたな」

「それはもう時間という概念をなくせということでしょうか」

「時間割もなくなっちゃうの?」

「いや、そうではなくて、もう生徒たちが何時に登校してこようが、自由にすればどうでしょう」

「なるほど。遅刻という考えをやめてしまえば、そうならざるを得ませんね」

「しかしそれは自由すぎやしませんか、それなら学校にこなくなる生徒も出てくるでしょう」

「来なけりゃ来ないで、いいじゃないですか。そもそも教師が生徒のことに干渉しすぎじゃないですか。来ない生徒は、ほっておけばいいんですよ」

「遅刻する生徒も、ほっておけばいい」

「それはそうですね、遅刻するのはその生徒が悪いんだから」

「もう結論がでたようですね」

「ではこれからは、好きな時間に登校してよいことにします」

「しかしながら生徒だけを特別扱いするのは、どうなんでしょう。われわれ教師だって朝起きるのがつらい日はありますよ」

「そうですよ、今日は休みたいなあ、って日もある。私なんて低血圧だから」

「生徒が来ないのに、教師だけ登校しても意味ないでしょう。何もすることがないし」

「それなら教師も、好きな時間に来ていいことにしましょう」

「賛成」

 他の教師たちも口々に、賛成、賛成、と言った。

 え? そんなのでいいの? なんかみんなおかしくない? あずは釈然としない顔でその議論を聞いていた。

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