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あーちゃんのアンティーク  作者: つばさねずみ
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のり弁と焼きそばと猫の集会

 あずは裏庭に自転車を取りに出た。すると遠くから奇妙な音が聞こえてきた。あれは……、なんだか聞き覚えのある音だった。あずは自転車にまたがってその音のする方向に走ってみたが、すぐに空腹を思い出して方向転換して、近くのお弁当店に向かった。

 あれ、看板が消えている、年中無休でいつも夜遅くまであかあかと灯っている弁当店の看板が、今夜はなぜか消えている。えっ、もう店じまいなの? 今夜はどこも早すぎない?

 自転車を停めてテイクアウト用のカウンターから中をのぞき込むと、おじさんが一人で後片付けをしていた。

「あのう、もう終わりですか」

 あずは声をかけた。

「うん? お弁当?」

「はい」

「ごめんね」

「えー、ショック、今日はどこも開いてなくて、おなかペコペコ……」

「そうか、それは困ったな、しょうがない、何がいい?」

 振り返ったおじさんがもっさりした声で言った。おかしいなあ、いつもは百メートル先まで聞こえそうな元気な声で、へい、らっしゃい、って言うのに。

「焼肉弁当ふたつ、大盛りで」

 今日はお店の売り上げもあるし、雪乃ちゃんもいるしちょっと奮発しよう。あずはそう思って注文したのだが、おじさんの反応はにぶかった。

「焼肉かあ、フライパン、もう洗っちゃったんだよねえ、めんどくさいから他のじゃだめ?」

「え、はい……」

 めんどくさいって、ちょっと、それってどうなの? と思ったが怖そうな大人には強く出られないあずであった。

「それじゃ、ええと」

「ノリ弁当でいい?」

 おじさんはそう言って、すでに出来上がっている弁当を二つ出してきた。もしかして作り置き? っていうかそれ、売れ残りじゃない?

 なんか今日は食べ物に関してはついてない一日だ。お店が繁盛した分だけ、揺り戻しがきているのかもしれない。

「じゃ、それでいいです」

 なにより、もうおなかがペコペコだ。売れ残りでも食べられるだけましだ。そう思ってあずは承諾した。

 おじさんはカウンターに出てきて、大きな袋の中にノリ弁当を二つ入れる。

「おにぎりと焼きそばもサービスしとくね」

「え?」

 見るとカウンターにおにぎりと焼きそばがパックに入って置かれてある。それぞれ三パックずつも。どれだけ売れ残ってんだよ。おじさんはあずの返事を待たずに、袋の中にさっさとそれを詰めていく。なんか在庫一掃処分って感じだなあ。

 食べ物でぎっしり詰まった袋をおじさんはひょいと持ち上げて、あずに差し出す。

「おいくらですか」

「いいよ、いいよ」

「え?」

「だからもうレジも閉めちゃったしさあ、清算をやり直すの面倒だから」

「いいんですか」

「うん」

 もしかして今夜で店じまい? ちょっと雰囲気が暗いし、経営に行き詰ってるとか、だったらタダでもらっちゃ悪い気がする。でもおなか減ってるし、食欲には勝てないしもらって帰るけど。

 あずはふくれ上がった袋を自転車の前かごに詰め込んで、ハンドルをしっかり握りながら来た道を戻った。両手に袋を抱えて部屋に入ると、雪乃は畳の部屋で横になったまま寝息を立てている。あれえ、待ちくたびれて寝ちゃったのか。しょうがないよね、今日はいろいろ疲れたから。でも、お弁当どうしよう、食べないのかな。

 あずはとりあえずテーブルの上に買ってきたお弁当を並べる。それで袋をがさがさやっていたらその音に気づいて、雪乃が目を覚ました。

「ユキノン、お弁当買ってきたよ」

「ふあい」

 雪乃は寝ぼけて変な声を出し、あずはふっと笑った。弁当店でのおじさんのやり取りを話すと、雪乃は、そういうことってあるんだあ、得したね、と言った。

「あのお店で何度も買ってるけど、いつもはすごい活気があるんだよ、夜遅くまでやってるし、それなのに今日はなんだか疲れてたみたいだなあ。ユキノンも、疲れてるでしょ」

「私? そうかなあ」

「ぜったい疲れてるよ、ユキノンってもっと元気だもん。元気なところしか見たことないもん」

「そうでもないよ、普段からこうだよ」

「そうなの? そうは思えないけどなあ」

 裏庭から猫の鳴き声が聞こえてきた。ドンキチがもそもそと起き出して、部屋を出て行く。

「なに?」

「猫の集会。裏庭に野良猫が集まってるの」

「わあ、見たい」

 雪乃は食べかけのお弁当を持ったまま部屋を出て裏庭に回る。ちょっと、とあずもお箸を持ったままあとについていく。

「かわいい」

 雪乃は裏庭に集まっている三匹の猫をながめて、そう言った。

「きれいはきたない、きたないはきれい」

「なにそれ?」

「うん? ああ、猫たち、お芝居の稽古をしてるみたい。それでセリフの練習をしている」

「すっごーい。猫ちゃんたち、『マクベス』やるんだ」

「なにそれ」と今度はあずが訊いた。

「そのセリフだよ、『マクベス』の中で魔女たちが言うの」

「へえ、有名なお芝居なんだ」

「シェイクスピアだよ、あーちゃん、読んだことない?」

「そんなむずかしいの、あたしが読むわけないじゃん」

「でも、猫だって知ってるんだよ」

「えーっ、そう言われたらなんかショック、あたし、猫より頭悪いのかな」

「そんなことないって、あの猫ちゃんたちが、頭いいのよ」

 それってぜんぜん、なぐさめになってないような気がするんだけど、雪乃ちゃん。

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