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あーちゃんのアンティーク  作者: つばさねずみ
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貧乏神のあだ名が決まる

 あずはお寿司の出前を取ろうと思っていたのだが、貧乏神の顔を見ているとなんだかそんな気が失せて、冷蔵庫に入れてあったピザの残りで夕食をすませた。

 お金が入ってぜいたくができるぞと喜んだ矢先、貧乏神が現れるなんて。

「そうだ、あんたのせいなのね」

「なにが?」

「あのオルガン、十万円でしか売れなかった」

「なんと、十万円で売れたならすごいではないか。いつもはぜんぜんお客さん来ないのに」

「そりゃそうだけど、あのお客さんは百万円でも買ってたのよ。損しちゃった」

「あぶない、あぶない」

「どうして?」

「だんだん欲に取り憑かれてきたなあ。みんなそうじゃった。わしはそういう人間をいっぱい見てきた。金だけがすべてだと信じて、たとえ百億円持っててもまだ満足できずに、がめつく稼ぐことしか考えない。そうやって金、金、金の人生を送っているうちに、ちょっとしたことで歯車が狂って、坂道を転げ落ちるようにみんな貧乏になっていくのじゃ」

「怖いこと言わないでよ。あたしはそんなにがめつくありません」

「そうじゃのう。おぬしは、なまけもので、ぐうたらで、わしとよく似た性格じゃよ」

「あんたと一緒にしないで」

「いやいや、そういう性格が一番いいのじゃ」

「あんたにほめられたって、ちっともうれしくないよ」

「その、あんたって言うのはやめてくれんかのう。女の子が相手のことを、あんた呼ばわりはよくないと思うのじゃ」

「あんただって、あたしのこと、おぬしなんて言ってるじゃない。時代劇の悪役みたいでいやだわ」

「そうじゃったかのう、それじゃこれからは名前を呼ばせてもらうよ、あずちゃんだったかな」

「あーちゃんでいいわ」

「あーちゃん」

 貧乏神はそう言ったあとに、ちょっと照れたようにはにかんだ。

「貧乏神さん、名前は?」

「そんなものはないよ」

「ないの? そんなはずないでしょ、家族や友達からはなんて呼ばれてんの?」

「家族も友達も、おらんのじゃ」

「そうなの。じゃ、まずは名前を考えないとね、あたし名前をつけるの得意なのよ、ドンキチもあたしがつけたの」

 ドンキチが、にゃあと鳴いた。

「なんか、いやな予感がするのう」

 貧乏神はしわだらけの顔をさらにくしゃっとしかめた。

「ムギハチ」とあずは言った。

「およよ」

「どう?」

「そう言われてものう……。なんか思ってたのとちがう」

「だってムギハチじいさんって感じがするのよ」

「わしには、そうは思えんがのう」

「ちょっと言いにくいから、ムギじいってどう?」

「ますます悪くなったような気が……」

「決まり」とあずは言った。

「決まってしまったのかい」

「それでムギじいさあ、ムギじいがこれまでいたお店とかお屋敷とかって、みんな最初はお金持ちだったんでしょ。それがムギじいが住み着いたおかげで、みんな没落していったのね」

「なんか、わしのせいみたいに言うんだな」

「そうでしょ、ムギじいのせいよ。だって貧乏神だもん」

「わしだってべつに好きで貧乏神に生まれついたわけじゃないんだがのう」

「それはそうでしょうけど。でもね、やっぱりあたしらにしちゃ、迷惑なのよ、貧乏神なんてものは。あんたさえいなけりゃ、これまでの人たちだってみんなお金持ちのまま、幸せな人生を送れてたんだよ」

「そうとも限らんぞ。あーちゃんは知らないだろうが、お金持ちというのは外から見るほど幸せではないんだぞ」

「そうかしら」

「うん」

「でも、そんなのはぜいたくな悩みよ。誰だってね、一度はお金持ちになりたいって思ってるの。もう、一生遊んで暮らせるほどのお金がほしいわ」

「そんなお金持ちになって、どうするのじゃ」

「おいしいものをたらふく食べるわ。エビフライもトンカツも、カッパ巻きもイカリングも、ポテトチップスもビーフジャーキーも、あんみつもハンバーガーも、おでんもモツ鍋も好きなだけ食べるの」

「ずいぶんと庶民的な好みじゃなあ。だけど食ってばかりだとブタになってしまうぞ、少しは運動しないと」

「それなら旅行に行くわ。土佐のはりまや橋、札幌時計台、長崎のオランダ坂」

「ほう」

「海外旅行もするの、ブリュッセルの小便小僧、コペンハーゲンの人魚姫、シンガポールのマーライオン」

「いやはや――」

「テーマパークもいいわね、アンパンマンミュージアムとか、サンリオピューロランドとか、倉敷チボリ公園とか」

「がっかりスポットばかりじゃないか。どうせがっかりするぞ。旅行なんか疲れるだけじゃ」

「疲れたら温泉につかるの。露天風呂のある高級ホテルに泊まって、そこにはエステサロンもあるの。広いお部屋にマンガとかゲームとかいっぱい持ち込んで、お風呂入ってお菓子食べてゲームしてテレビ見て、お菓子もケーキも食べ放題なの」

「毎日そんなことやってたら飽きるぞ」

「そしたらしばらくぼーっとして、一日中ごろごろして過ごすの」

「それだったら今と同じじゃないか」

「ちがうわよ。そういう贅沢したあとに、ごろごろするからいいんでしょ。お金があれば、思いっきり贅沢ができるのよ」

「贅沢ねえ、なんでみんなそんなに贅沢したがるのか、わしにはわからんなあ」

「だからムギじいは、貧乏神なのよ」

 あずはカバンからプリントと筆箱を取り出して、机の上に置いた。

「もう、つまんないこと話してたら、宿題忘れるとこだったじゃない」

「また、わしのせいにするんじゃな」

「ムギじいのせいよ、悪いと思ったらちょっと手伝ってよ。英語できる?」

「できるわけなかろう」

「漢字は得意?」

「ひらかなしか書けん。おまけに、"ぬ"と"め"をたまにまちがえる」

「なんだ、ムギじいってあたしよりバカ?」

「そんなにはっきり言うもんじゃないぞ。わしだって傷つくし」

 ムギじいは撫で肩の肩をさらに狭めて、しょぼんとなった。

「でもちょっとした特技はあるぞ。けだものとだって会話ができる」

「えっ、するとドンキチの言葉がわかるの?」

「その毛むくじゃらのけだものは、わしのことが気に食わないようじゃなあ、だからあんまりしゃべってくれん」

「ねえドンキチ、ムギじいに何か話しかけてみて」

 あずはドンキチに向ってそう言った。尻をぺたんと床につけて両者のやり取りをながめていたドンキチは、ひょいと顔をムギじいに向けて、にゃあにゃあ、と鳴いた。

「けだものって言うんじゃねーよ、ぼけなす、と言いおった」

 ムギじいがドンキチの言葉を通訳した。

「本当にそう言ったの?」

 あずは半信半疑で、そうたずねる。ドンキチはうなずいた。

「へえ、すごい。ドンキチにも私の言葉が通じているってこと?」

「そうじゃな、猫は人間の言葉を理解しておる、だけど人間には猫の言葉は、にゃあにゃあ、としか聞こえない。わしにはどっちの言葉も理解できる。わしの勝ちじゃ」

 貧乏神は自慢げにそう言った。

 なにか裏庭の方が、騒がしくなった。ドンキチが尻尾を少し立ててそちらに歩いていく。

 あずも腰を上げて、あとについていく。

「なにかあったのかのう」

 ムギじいも一緒に来た。

 窓から裏庭をのぞくと、そこには野良猫が三匹集まっていた。

「なんだ、猫の集会ね」

「集会?」

「そうよ、猫はこうやって夜にこっそり空き地なんかに集まって集会を開いているの」

「集会とは穏やかでないな、いったい何をたくらんでおるのじゃろう」

「さあね、あたしもいつもは邪魔しないように遠くから眺めてるだけだから、よくわからない。たぶんどこにエサがあるとか、あっちの道は車が多いからあぶないとか、そういうことじゃないの」

「そうとはかぎらんぞ。こんな夜中に集まるなんて、あやしい。きっとよからぬはかりごとをしておるに決まっておる」

「ムギじいって、疑りぶかいんだねえ。猫の言葉がわかるなら聞いてみてよ」

 あずは窓をそっと開けてみた。すると猫の鳴き声が聞こえてきた。何を話しているのだろうか。三匹は声をそろえて、同じ言葉を繰り返しているようだった。

「ねえ、なんて言ってるかわかる?」

「きれいはきたない、きたないはきれい」

 ムギじいは小声でそう通訳した。なにか呪文のような不思議な言葉だ。

「なんだそれ。どういう意味?」

「さあ」

 あずはドンキチにたずねた。

「ねえ、あの猫さんたち、なにをしているの?」

 ドンキチはにゃあと鳴いて、それをムギじいが通訳した。

「なにかのお芝居の練習だそうじゃ」

「お芝居?」

「うん」

「やっぱりあやしいのう。なにかたくらんでおるぞ」

 ムギじいの声が向こうに届いたのか、三匹の猫たちはさっと物陰に姿を隠してしまった。

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