ねこまんまとモロキュウ
ドンキチにごはんをやらなくちゃと思ってキッチンに向かうと、貧乏神もひょこひょこついてきた。
「もしかして貧乏神さんも、ごはん食べるの?」
「いやいや、どうぞおかまいなく。わしは勝手にやるから」
なんだかよくわからないことを言ってあずがドンキチのごはんを作るのをながめている。
「ごはんにかつお節、これが噂に聞いた猫まんまというやつか」
猫皿に盛られた猫まんまにドンキチがかぶりつく。
「食べてる時に、ドンキチに近づかない方がいいわよ、フーッておこるから」
「気の短い、けだものじゃな」
貧乏神はそう言って、冷蔵庫の扉を開ける。
「ちょっと、なにやってるの。ひとんちの冷蔵庫を勝手に開けないで」
「まあまあ、ひとんちというけど、わしにとっては自分の家みたいなものじゃ」
「なに言ってるの、あんたは居候でしょ」
貧乏神は冷蔵庫からパック入りの味噌を取り出した。
「あー。まさかあんたが食べてたの?」
「どうもこれには目がなくてのう」
貧乏神はそう言いながらパックを開けて味噌を指先で取り、ひと舐めする。幸福そうな顔で、目を糸のように細める。
「どうりで少なくなってると思った。これは私がモロキュウにするために買ったのよ、勝手に食べないで」
「モロキュウ、あのキュウリに味噌をつけるやつか」
「うん」
「それはもったいない。味噌は味噌だけで食べる方がずっとうまいのじゃ」
「そんなことないわ、キュウリに味噌をつけるから、キュウリのおいしさが引き立つの」
「ちがう。味噌があくまでメインであるべきじゃ。キュウリなんてものは添え物に過ぎん。カッパの食い物じゃないか」
「あんたにそんなこと言われる筋合いはないわよ。だいたい居候の分際でよ、食べ物の好みに口出すなんて、ずいぶんじゃない」
「これだけはゆずれない。味噌の香りをかぐと、もう体がうずいてどうにもなくなってしまうのじゃ。猫にまたたび、みたいなものじゃよ」
貧乏神はそう言ってまた味噌をなめる。
「それにあたしに断りもなくこっそり食べるなんて卑怯じゃない。さっきは何を食いたいというのもない、なんて仙人みたいなことを言っておきながら、じつは食い意地がはってるじゃない」
「だから、味噌だけは特別なんじゃ。ほほほ、ゆるしてくれ。そんなにたくさんは食べぬから」
貧乏神はそう言って二口舐めただけの味噌のパックにまた封をして、冷蔵庫の中に戻した。
「まあ、味噌くらいならいいけど、今度からはちゃんと断ってからにしてよね」
あずはしょうがないって顔で、そう言った。




