ふしぎなメガネをかけると変なのが出た
部屋の奥から、ニャー、という鳴き声が聞こえてドンキチがその太った体でのっしのっしと歩いてきた。白い毛のふあふあな体。食っちゃ寝、食っちゃ寝ばかりしているので、おなかの肉がでっぷりと垂れている。立派な中年太りだ。
「おなかがすいたんだね、あたしもペコペコだよ。さあ、ごはんにしようね」
ドンキチは前足を前に突き出して、大きく伸びをする。すると鼻をくんくん動かして、店にある骨董品の間をうろつき始める。カエルの姿をした文鎮の陰に古めかしいメガネを見つける。国語の教科書に載ってる明治時代の文豪がかけてそうな渋い鼈甲フレームのメガネだ。あずはそれに手を伸ばして自分の顔にかけてみる。丸いレンズには度が入っていないのか、見える景色はべつにゆがんだりしなかった。ドンキチのピンとのばした尻尾の先が花瓶の向こうに見えた。
「おいおい、そっちはだめだよ、お茶碗とか花瓶とか壷とか、壊れやすいものがいっぱいあるんだから、部屋に戻って遊んでよ」
あずが声をかけるが、ドンキチは並べてある骨董品の間を平然とすり抜けてずんずんと奥へと進んでいく。
壁ぎわに古びたタンスが置かれてある。こげ茶色で、引き出しの取っ手の部分に牛の鼻輪みたいな鉄の輪っかがついている。なにか時代劇に出てきそうな古いタンスだ。これだってもしかするとけっこうな値段かもしれないと思って見ると、これには値札がついていて「わけあり、500円」と書かれていた。
「たった500円? 見た目は立派なタンスなんだけどなあ、それでも売れ残っているってどういうこと? ますますわけわかんないや」
あずがそんなことを思っていると、なんとドンキチはいきなり伸び上がって前足をタンスに引っ掛けて、ガリガリと爪を研ぎ始めた。
「こらこら、そんなとこで爪を研いではダメよ、ただでさえわけありのタンスが、さらに傷物になって、売り物にならなくなっちゃうじゃない」
しかしドンキチはガリガリをやめようとしない。あずは近寄ってドンキチの体を抱えて、タンスから引き離そうとした。するとドンキチは、フーッ、と怒った声を出して背中の毛を逆立てた。
「なによ、どうしたの?」
ドンキチの様子が変だ。タンスの扉をにらみつけて、ぐぎゃおーん、と威嚇するような声で鳴き始める。あずは抱えたドンキチを床に置いた。ドンキチはタンスをにらんでなおも唸り声を出している。
「もしかしてこの中に、なにかいるの?」
あずはおそるおそる手を伸ばした。扉の丸い取っ手を握って引っ張る。
「うわああ!」
思わず尻もちをつきそうになった。開いた扉の中に、小さい仏像のようなものがあった。やせこけて貧弱な体、みすぼらしいって感じのおじいさん。なんだこれ? ドンキチはあいかわらず毛を逆立てて唸っている。
さらにおどろくことがおこった。じっと見つめているとその仏像のまぶたが、ぱちくりと動いたのだ。
「生きてる!」
あずはびっくりして腰を抜かしそうになった。その声に相手も驚いたようにさらに頭が小さく揺れた。




