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あーちゃんのアンティーク  作者: つばさねずみ
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骨董屋でおるすばんの巻

日本ファンタジーノベル大賞落ちた。

どうすんだよ私活躍出来ねーじゃねーか。

 商店街のはずれに小さなお店がある。木製の看板には「宇宙の目印」という奇妙な言葉が彫られていてどうやらこれが店名らしい。店内をのぞいてみると誰もお客さんがいない。店には古めかしい品物がごちゃごちゃと並べられてあり、値札がついているところを見るとこれが売り物らしい。ブリキのおもちゃやメンコやベーゴマ、陶器もあればガラス食器もあり、浮世絵も西洋画も絵ハガキも古地図も、時代箪笥もトンボ玉もブロンズ像も、いやはや古い品物であれば和もの洋もの問わないらしく、年代も脈略も関係なくところせましと並べられている。

 ほこりっぽい店内の奥で、今時めずらしいトラディショナルなおかっぱ頭の女の子が一人で店番をしている。

 レジスターの置かれた机の上に数学の教科書が広げられ、女の子は先のちびた2Bの鉛筆を握ってコクヨのキャンパスノートになにやら書きものをしている。熱心に勉強をしているのかと思ったらひたすらマンガを描いていた。

 そこは古い一軒家だった。通りに面した半分が店舗で、奥の半分が住まいである。奥の部屋からニャーという泣き声が聞こえて、一匹の白い猫がのっそり歩いてきた。

「ドンキチ、おなかへったの?」

 じゃれついてきた猫の頭をなでて、あずはそう言った。ドンキチというのが猫の名前で、あず、は女の子の名前である。猫は気持ちよさそうに目を細めてもこもこの体をすり寄せてきた。

「あたしもおなかペコペコだよ、もう店じまいしようね。あーあ、今日も一人もお客さん来なかったね」

 あずはため息にも似た声でそう言って腰を上げた。

 すると店先に人影が見えて、歩道に面して陳列してある陶器の前で足を止めた。白髪頭でメガネをかけたおじいさんだった。そのまま店の中に入ってきて、興味深そうに商品をいろいろ見始める。あずはふたたび腰をおろした。

「これは、まっちゃもっちゃですか?」

 おじいさんから急に話しかけられてびっくりする。おじいさんは白い花瓶のような円筒形のものを指さしている。

「は? いやあ、ちょっと……」

 あずは、まごまごとしながら口ごもる。おじいさんは腕組みをしてあいかわらずその花瓶のようなものを興味深げにながめている。

「まっちゃもっちゃということはないかなあ、いや、似ているなあ、どうだろう。まっちゃもっちゃならほしいのだがなあ。さわってみてもいいですか」

「ええ、どうぞどうぞ」

 そもそも、まっちゃもっちゃってなんだ? その花瓶みたいなやつの名前かな、とあずは思いながらてきとうに答えた。なんだかめんどくさそうなお客さんが来ちゃったな。

 骨董品のことなんか何もわからない。ここは父がはじめた店だった。父はこういうのが好きで好きで、骨董市とか蚤の市なんかがあるともう目の色が変わっちゃって、後先考えずに買ってきてしまうのだ。あずには何の価値があるのかさっぱりわからないものをいっぱい。それで家の中がガラクタ置き場みたいになってしまって、趣味が高じてと言えば聞こえがいいものの、本当はそのガラクタ処分のためにとうとう店まで持つようになってしまったのだ。

 そう、この店の商品なんて、あずにはすべてガラクタに見える。いくら家業とはいえまだ中学生のうら若き乙女が骨董品に興味を持ったりするものか。学校でも歴史は大の苦手だった。

 だからはなから売れるはずないと思っているし、たまに熱心なお客さんが来たりするとびっくりしてしまう。父と同じ病気の人を見るような感じだ。

 おじいさんはその花瓶のようなものを手にとって、背広のポケットから丸いレンズを取り出して片目を閉じてながめたり、裏返して底を調べたり、鼻を近づけたりして、品定めをしている。きっとマニアな人だ。あー、変なお客さん来ちゃったな、こういう人って居座ると長いのよねえ。おじいちゃんって話し好きだしなあ。専門的なことを訊かれちゃったりしたら、やだなあ。

「ほほう、やっぱりこれは、まっちゃもっちゃだ。まさか実物にお目にかかれるとは。こりゃおどろいた。長生きはするものですなあ。もらいましょう」

「え? あ、ありがとうございます」

 ひゃあ、売れちゃった。たまにはこういうこともあるもんだな。あずはおじいさんの手からその花瓶のようなものを受け取り、大事そうに胸に抱えた。

 おじいさんは、店内をぐるりと見回した。

「この店は、なかなかユニークですな、品ぞろえがユニークだ」

 あずはどう応えていいかわからずに、ぼんやりしていた。すると気を使ったのかおじいさんは、「いや、いいものがたくさんあるという意味です、ご主人は目利きですな、まだまだ掘り出し物がありそうだ。しばらく拝見させてもらってかまわないですか」

「どうぞどうぞ」

 あずの後ろで猫のドンキチがニャーと鳴いた。ああ、おなかすいてるんだったわね、ちょっと待ってね、おまえのエサ代だってけっこうかかるんだから、少しはがまんしなさい。こういうチャンスってめったにないんだから、稼げる時に稼がないとね。

 あずはその花瓶のようなものをレジの横に置き、包装するために値札を見た。

 60000円、ロクマンエン、六万円!

 まちがいじゃないよね? こんな古い花瓶のようなものが六万円もするの? やばい、おじいさん、きっと値札のゼロを一桁間違えてるのよ、六千円だと思ったのよ、いや、こんなもん六百円が手ごろよ、きっとそうよ、知らせてあげなくちゃ。

 それにしてもこんなガラクタに六万円の値段をつけるなんて、パパったら冗談にしてもやりすぎよね。

 おじいさんはかがみこむようにして店の隅にいる。あずは花瓶のようなものを抱えて背後から声をかけた。

「あのう、これ六万円なんですけど」

「え?」

 おじいさんは振り返った。

「やっぱりまちがいですよね、もう、うちのパパったら字が下手だから」

「けっこうですよ」

 今度はあずの方が、え? という番だった。

「六万円ですよね、あ、消費税がかかりますか?」

「いえ、本当に六万円でいいんですか」

「それでも安いくらいです」

「えー! こんなものが六万円もするんですか」

 あずは無邪気にそう言ってから、しまった、という顔になる。おじいさんはやさしく微笑んでいる。

「お嬢ちゃんは、店番をしているの?」

「はい、パパがやっている店なので」

「そうなの」

「でもこの花瓶って、どうやって花を生けるんですか? つぼにしても変ですよね、穴が開いてなから貯金箱にもならないし」

 あずが花瓶のようなものを眺めながらそう言うと、おじいさんはさらに目を細めた。

「これは、こういうものなのですよ。なにしろ、まっちゃもっちゃですからね」

「え?」

 あずには、おじいさんが何を言っているのかさっぱりわからなかった。だからその、まっちゃもっちゃ、ってなに?

「そもそも人間というのはいつ頃この地球上に現われたかご存知かな? 人類の祖先であるアウストラロピテクスが現れたのが四○○万年くらい前だといわれていましてね、万物の長だとえらそうにしてもたかだか四○○万年くらいですよ、人類の歴史なんか。二足歩行する前の猿だった頃の歴史を含めても一億年くらいじゃないかなあ。

 それより前にはどんな生物がいたかというと、これは植物ですね。南アフリカのトランスバールというところで最も古い植物の化石が見つかっていましてね、これが三四億年前にできた岩から発見されたものです。人間なんかより、植物の歴史の方がずっと長い、生物としては大先輩だ。それなのに人間ときたら森を焼いて木を切り倒して、農薬で草花を枯らしちゃうし、大地をコンクリートで固めちゃうし、やりたい放題、ひどいものだねえ。こんなことを続けているといつか植物に仕返しされて痛い目にあわされちゃうよ。だから自然は大切にしなきゃいけない――」

 おじいさんの話はそれからもあちこち脱線しながらだらだらと続いて、あずはしばらくは聞いていたけれどすぐに飽きてきて、なにしろ話が三分以上続くと眠たくなってしまう体質なのだった、おしまいの方は口をぽかーんと開けたまま涎まで垂れてきそうだった。そんなだから、話の内容も右の耳から左の耳に抜けていって、まっちゃもっちゃが何なのか、結局わからずじまいだった。まあなんだかふしぎなものにはちがいない、なにしろ六万円もするのだから。

 それでもおじいさんはおかまいなしに話を終えると、なにかまた別の商品に目をつけたようで、ぐいと身を乗り出した。

「これは、これは、まさか……。こんなものまであるんですね、拝見させてもらってよろしいですか」

 店の隅にほこりまみれの木の箱があった。

「はい、でも、汚れているので、手袋をどうぞ」

 あずはそう言って、そばにあった白い手袋を差し出した。本当にそれはほこりまみれだった。掃除をサボっているのがばればれだ。あずはちょっと恥ずかしくなって、雑巾を持ってきてそれで木の箱についているほこりをぬぐった。みかん箱よりちょっと小さいくらいの大きさで、側面になにかの飾りなのか短い板切れが何枚もはめ込まれていて、裏側にはハンドルが付いている。

「まさか……。こんなところでお目にかかれるとは」

「なんですか、これ」

「手回しオルガンじゃないですか」

 おじいさんは目を輝かせながら言った。もしかするとこれもめずらしい品物なのかな、あずがそう思った矢先だった。

「これ、ください」

「はい」

 また売れちゃった。今日はどうしたんだろう、こんな日もあるのね。

 あずは手回しオルガンだというその木の箱を抱え上げて、さっきより丁寧にほこりをぬぐった。

「おいくらですかな」

 そう言われて木の箱をながめ回してみたが、どこにも値札がみあたらない。もう、パパったらなにやってんだ、サボってないでちゃんと仕事しろよ。せっかくのお客さんが逃げちゃうじゃない。

 もしや値札がはがれたのかもしれないと思ってあたりを探してみたが、見つからない。

「ちょっと、わからないんですが……」

 あずは申し訳なさそうに、肩をすくめた。

「だけど売っていただけるんでしょ?」

「そう言われても……」

 せっかくの上得意のお客さんだ、このまま帰してしまうのはもったいない。

「言い値で買いますよ」とおじいさんは言った。

「言い値ってなんですか?」

「そちらのおっしゃる値段で買うということです」

 商売をやっててそんなことも知らないのか、自分。え? 本気なんですか、このおじいさん。もしかしてボケてるんじゃないの? とあずは失礼なことを考えた。だけどたかが花瓶みたいなものを六万円でポンと買っちゃう人だし、ほんとうに骨董品が好きなお金持ちなのかも。

 そう思って見ると、身なりはきちんとしていた。紺色のスーツをびしっと着ているし、ポケットには白いハンカチーフをのぞかせている。言葉づかいも物腰もていねいだし、もしかするとゴルフ場のオーナーとか大きな会社の会長さんかもしれない。

「お嬢ちゃんが勝手に売っちゃって、あとでおこられたら困るから、この店のご主人さんを呼んでいただけますか」

「あ、パパは今、いないんですけど」

「いつ、戻られます?」

「あ、明日か、あさって……」

「そうなんですか、それは弱ったな」

 おじいさんは木の箱を見ている。本当に弱っている顔だった。

 あずとしては買ってもらえるならべつに値段なんかいくらでもよかった。手回しオルガンってものが何なのかよく知らないけど、こんな何年も売れ残っていたほこりまみれの木の箱、さっきの花瓶のおまけとしてタダであげてもいいくらいだ。どうせここにあるものは全部ガラクタみたいなものだと思っていたから。

 だけどちょっと欲が出てきて、おじいさんがそんなに欲しがるものなら、もしかしたら本当にすごい価値のあるものなのかもしれない。どーすればいいのかしら。

「それじゃ、明日また寄らせてもらいます。ご主人に値段を訊いておいてください。それまでこれは取り置いてもらえますか。私が必ず買いますので、他の人にはぜったいに売らないでください」

「は、はい」

 おじいさんの強い言葉に押されるように、あずはしっかりうなずいた。

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