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楽妖町へようこそ  作者: 雨宮零
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プロローグ

投稿するのはこの作品が初めてです。

よろしくお願いします。

 「おい聞いたか?二組の宮本さん、“妖”に襲われたって」

「喰われないだけマシだったなー…」

「ああ。一ヶ月後には復活するらしい」

「これで何人目だ?“妖”にやられるのは…」


 「昨夜未明、川の土手に血を流し横たわっている女性が発見されました。女性の肩や脚には何かに噛みちぎられたような痕がありました。これについて、“妖”専門家の佐原さんから意見を聞きたいと思います。佐原さん、今回の事件は“妖”の仕業なのでしょうか」

「まーそうでしょうね。…この痕だと、恐らく狼男の妖怪でしょう」

「ですが、最近動きが活発になってきているのは、かまいたちだと聞きましたが…」

「あー、かまいたちね。かまいたちは、風が扱えますからね。風で人間の体が切れるんですよ。すると、断面がとても綺麗なので、この噛みちぎられたような痕には一致しないんですよ」

「では、今後は狼男にも注意ということですね」

「ん〜まあ、特にって感じですかねぇ。全部に注意していただかないと。すーぐ…」

“喰われちゃうからねぇ”



 “妖”(あやかし)

それは、人の精気を喰らう化物だ。

 妖は、人間の精気を喰らわないと生きていけない。

人間が食べるような物を食べることができるが、その栄養を体に取り込むことは不可能である。

空腹感もなくならないため、妖は精気を喰べなければならない。

精気の取り込み方は2通りあるようで、基本精気だけ抜き取られる方法なのだが、最近は肉体ごと喰われることが多い。

それが何故なのかは不明だ。


 この世界では、そんな“妖”と人間が共存している。


 妖は、人間にバレないよう、人間に紛れ込んで生活している。

そして、静かに“栄養”を補給する。

 そんな妖のことを、大多数の人間が嫌っていることだろう。

…けど、私にとってはそんなこと、どうでもいい。

 

 「あ、また一人で本読んでんだけど」

「うっわ、根暗…」


 妖を怖がっている人間は、たくさんいる。

…けど、私は


 「あれ?そういえば、あいつとお友達なんだっけ?花ちゃぁん」

「ええ?まっさかぁ」

「だよねぇ」

「あの子とは――」


 私にとっては


 「“友達ごっこ”してただけ」

「あっはは。ごっこ遊びしてるうちに、あっちは本物だって思っちゃったわけ?ウケる〜」

「ね!お前なんかと仲良くなるわけないっての」


 “貴方達”(人間)の方が、よっぽど怖い。





 ―――今日も散々だった。

私はバスの中で静かにため息をついた。

散々だった、と言っても別にいつもと変わらない日だっただけだ。

いつものようにイジメられ、いつものように満員のバスに乗って…

 そこで私は気づいた。

 バス内に、私以外の乗客がいないことに。

 …いつもはもっと人がいるのに、何で?

 今日はそんなに特別な日だっただろうか。

考えても考えても、人がいない理由はわからなかった。

…少し不気味ではあるが、まあそういう日もあるのだろう。

いや、不気味どころかこっちの方がいいだろう。堂々と寝られるし。

私はここぞとばかりに眠りについた。


 「次は楽妖町ー、楽妖町ー…」

バスのアナウンスで目が覚めた。

…そういえばバスに乗ってたんだった。まだ家に着いてないのか…。

私はそのことにがっかりしながら、次に着く駅を確認した。


「…は?」

思わず声が漏れ出た。

 …どこだろう、楽妖町って…。聞いたことも無いんだけど…。


 聞いたことがないということは、いつも降りる駅を通り過ぎてしまったということだろう。


 やってしまった…。やっぱ寝るんじゃなかった。


 私は「ここで降ります」と書かれたボタンを押し、バスの降り口へと向かった。


 プシューと音を立て、バスの扉が開いた。

私がバスから降りると、すぐにバスは走って行ってしまった。

とりあえず家へ戻る方向のバスに乗ろう。

バスの時刻表を確認すると、あと30分ほどで来るらしい。

30分もかかるってことは、いつもは巡回しない駅なのなのだろうか。それなら、見慣れない駅なのも納得がいく。


 ずっと何もしないで待っているのも退屈なので、鞄から本を取り出し、栞が挟んであるページを開いた。


 ――へー、四ノ宮さんって本好きなんだ!私も好きだよ〜――


 私は、キュッと唇を噛んだ。

…嫌なものを思い出しちゃったな。

本を読むのはやめにしよう。

折角だし、この街を散歩してみようか。

私は雑に本をしまい、歩き出した。

 

 「今日も疲れたし、ハシゴするか」

「そうだな。今日も飲みまくろう」

仕事終わりのサラリーマンのような人達が屋台に入って行く。

道の両脇にズラリと並んでいる屋台はどこも賑わっていて、まるでお祭りのようだ。


 すれ違う人達は大学生のような人、小学生くらいの子供、杖をついているような老人まで様々だ。

だが皆年齢や性別なんて気にせずに、楽しそうに話している。


 屋台といい、人々といい、この町はとても面白い。


 私は感情任せに、どんどん奥へと歩いて行った。


 …まさか、あんなことになるとは知らずに――

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