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冷たく見えるけど優しくて、(side:G)

  ふと思い立って、とある本を探してみました。

  所謂児童文学で、無名ではないけれど、定番という訳でもない本なので、見つかるかは分かりませんでしたが。

  お話としては、よくある騎士とお姫様の恋物語です。

  そして、わたくしにとっては思い出深い本でした。


  わたくし達がまだ幼かった頃、わたくしは彼と一緒にその本を読んだ事があります。確か、彼が表紙の騎士を見て買ったものの、恋愛ものだったからとわたくしに持って来たのがきっかけでした。

  「こんな事ありえないだろ」「でもここは面白いかも」なんて話しながら読み進め、物語はクライマックスへ。

  騎士が姫へプロポーズするシーンで差し出すのは、真っ赤な薔薇の花束。


「素敵……素敵!憧れちゃうわ!」


  はしゃぐわたくしを見て、翌日彼が持って来たのは、一輪の赤い薔薇でした。


「今は一本だけど、いつかはお前に花束渡してやるから!」


  そう言って顔を赤らめる彼を見て、私まで真っ赤になりました。以来、薔薇はわたくしにとって一番好きな花です。


「……まだ、覚えているのでしょうか?」



  司書の方の力をお借りして、本棚に向かいましたが、そこに目当ての本はありませんでした。


「借りられているのかしら? ………!?」


  いつの間にか後ろにいたのは、見覚えのない青年でした。


「あの、どうかされましたか?」


「ああ、いや、この本を戻そうと思ったんだが」


  彼が手に持っていたのはあの(ヽヽ)本でした。


「申し訳ありませんわ、邪魔をしてしまって」


「いや、いいんだ」


「その本、お好きなんですか?」


「……いや、知り合いが面白いと言っていたもので」


「あら、そうですの」


  さてどうしたものでしょうか。

  彼から直接受け取ってもいいですが、初対面の方の前で児童文学、それも恋愛ものを読むのは些か気恥ずかしく感じます。

  わたくしは誤魔化そうと近くにあった本を手に取りました。

  近頃流行っている、平民の少女が上位貴族に見初められ結婚する類のお話です。


「……お、貴女はそういう話が好きなのか?」


「……? ええ、興味はありますが。その……恋する気持ちというのは、共感出来ますし」


「そうか……いや、何でもないんだ。失礼する」


  そう言うと、青年は足早に去っていってしまいました。


「どうしたのでしょうか……」



  その本を読み終わった後、わたくしはこれ幸いと例の本に手を伸ばしました。

  “薔薇”なんて呼ばれて、萎縮しない訳でもありませんが、それでも頑張れるのは、あの思い出のお陰です。

  わたくしは彼に見合う大輪の薔薇ではないかもしれませんが、あの日貰った一輪の薔薇は確かにわたくしへ贈られたものだったのだから。


「……この本の挿絵の騎士様、やっぱり彼に似ていますわね」

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