でも薔薇がよく似合って、(side:K)
「いやー、カイが学籍持ってて良かったよ」
「この学園、平民でも裕福なら入れるからな」
「でも、普通行かないなら持ってないだろう?」
「俺は『基本授業免除でも泊付けにはなるし、行けたら行けばいい』って言われたから持ってるだけだ」
運良く日中任務がなかったため、俺は生徒として学園に顔を出していた。
教師の方には話を通しておいたが、生徒には何やら噂をされていた。
珍しいのは分かるが、全くもって不愉快だ。
「というか、カイ機嫌悪いね?」
「本人の目の前であんなに噂されて、機嫌いい訳がないだろ」
「それもあるだろうけど、ゲルトラウデちゃんの事を」
「黙れ別にそんな訳じゃない!分かったなリョート!」
「……はいはい」
まあ確かに、俺のゲルト……こほん、俺の婚約者のゲルトラウデに対して、「綺麗だよな」だの「嫁にしたい」だの「色っぽい」だのと言われていた事に、思う所がない事はない。
ないけれども。
「何が”薔薇”だ、何が……」
ゲルトラウデは、確かに薔薇が似合う。
赤茶色の髪は薔薇の棘のようで花の色がよく映えるし、萌葱色の瞳は薔薇の葉によく似ている。顔立ちも華やかだから、薔薇に押し負けない。何より本人が薔薇好きだから、昔からよく薔薇そのものや薔薇をモチーフにしたものを身に付けていたように思う。
特に赤とか白とか桃色が似合う。
でも、それは俺だけが知って……こほん。
兎にも角にも、彼女が”薔薇”なんて呼ばれてちやほやされているのが、気に食わない。
……薔薇、か。
頭によぎったのは、とある子供向けの小説だった。
「……リョート、図書館にでも行こう」
「ゲルトラウデちゃんはどうするんだ?」
「どうせあいつの事だから図書館に来るだろ、読書好きだからな」
やっぱり、ゲルトラウデが”薔薇”なんて呼ばれてるのは気に食わない。
聞けば、「薔薇のように華やかで」「人目を引いて」「誰からも愛される」「可憐かつ芯のある少女」―との事だった。
気に食わない。俺にはあんなに無愛想な癖に。
俺は騎士だ。
所詮、騎士なんだ。
身分だけで言えば、ゲルトラウデと俺は全く釣り合っていない。
そしてゲルトラウデは、彼女より格上の家の男からも気を持たれている。
気に食わない。
何でかは知らないが、本当に、気に食わない!
「カイー、ゲルトラウデちゃんいたよー」
「で、どうすりゃいいんだ」
「ちょっとじっとしてて。……うん、これで良し」
「あー、あー……凄いな」
見た目も声も何から何まで変わっている。これなら俺だとはまず気付かれないだろう。
感心していると、リョートは「お褒めに預かり光栄ですよっと」と言ってウィンクしてみせた。