俺の婚約者は雪のように冷たくて、(side:K)
「で、最近どうなのさ。”薔薇”ちゃんと」
「本当に、どうやったらあいつを薔薇なんて呼ぶ事になるんだよ、どこから見ても”雪の女王”だろ!いっつも通り、無愛想だが?」
ゲルトラウデ…ゲルトラウデ・ロッサ・ネーヴェというのが、俺の婚約者であるネーヴェ子爵令嬢の名前だ。
ゲルトラウデが本当に優秀なのは事実だ。それに、目鼻立ちもはっきりしていて、それに綺麗というよりは愛らし……何でもない。
とにかく、優れた令嬢であるのは確かだし、それについては俺も文句はない。
しかし……婚約者の俺に対してあそこまで無愛想なのは、幾ら何でもダメだろう。
「ゲルトラウデちゃん、そんなに無愛想かい?僕から見てそうは思えないけどなぁ」
そんな事を言っているのは、俺の相棒かつ契約精霊のリョート。氷を司っていて、これでも大精霊らしい。
「無愛想だよ。今日会った時なんて、『はい』と『いえ』と『ありがとうございます』と『御機嫌よう』以外の言葉を発さなかったからな!?」
「それは……うん」
「花吹雪どころか吹雪に晒されている気分だった」
「僕としては吹雪は嬉しいんだけど」
「そりゃお前はそうだろうな、リョート」
「まあそりゃあね」
「……お前、契約した頃とキャラ変わってないか?」
「今までの契約者、いかにもって感じの冷血漢ばっかりでさー。カイもそうかと思ってたんだけど、全然そうじゃなくて」
「……それは、喜んでいいのか?」
「微妙」
「お前それ認めるのかよ」
「でも、人間なんて冷酷な奴ばっかだって聞いてたから本当に驚きだったんだよ」
「そりゃないだろ……これでも俺は、人を守る騎士なんでな」
カイェタン・ロドン。これでも、フリーレンの騎士の証たる雪の印を胸に着けた騎士――というのが、俺の立ち位置だ。
俺が初めてゲルトラウデと出逢ったのは、まだ六つの時だった。その時のゲルトラウデは大層可愛らし……まあ、まだ素直というか、愛嬌のある令嬢だったと思う。
うちは代々騎士の家系で、どの代も一代貴族。それもあって騎士、即ち平民の割には裕福だ。
そんな訳で、財政難のネーヴェ子爵家と所謂政略結婚の話が持ち上がった。
そして初対面は婚約式だった。
俺はその時、勝手に結婚相手が決まっていた事に不貞腐れていて、婚約者と仲良くする気はさらさら無かった。
でも、会ってみて、気が変わった。
ゲルトラウデは見るからに愛……何でもない。
とにかく、それからというもの、俺はゲルトラウデと一緒にいる事が多かった。
あいつは人見知りする質で、俺の背に隠れる癖があった。
そんな所がまた……何でもない。
が、俺達が十代になった頃から、急に関係が変わった。
何故かゲルトラウデが俺を避けるようになった。
理由を聞いても答えないし、心当たりもない。
それどころか無愛想に接されるようになって、それ以来俺達は会話らしい会話を碌にしていない。
そのまま時だけが流れて行って、気付けば俺達は十七歳。
この国の法では、十八歳から結婚出来る。
つまり、よっぽどの事がない限り俺達の結婚は来年まで迫っている。
あいつはどう思っているんだろう。
「あのさーカイ」
「なんだリョート」
「ゲルトラウデちゃんの本心、知りたいの?」
「まあ、言ってしまえばそうだけどな……」
「なら聞けばいいじゃないか」
「俺が聞いても答えないから困ってるんだよ」
「なら、カイ以外が聞けばいいだろう?」
「わざわざ他人にそれを頼むのは流石にないだろ」
「カイ、僕がこれでも大精霊って事忘れてない?」
「……は?」
「光や音の精霊の力を借りれば、別人になり切るのも簡単って事。……で、興味ある?」
俺はリョートの誘いに乗る事にした。
このまま何も分からないで結婚するのは不味いだろう。
倫理とか良心とかがストップを掛けている気もするが、興味と好奇心、あとは疑問が勝った。
「で、どうすればいいんだ?」
「まあ任せておいて!」