表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/17

悪徳の十 教育制度 前


 リーニはその日、国王に呼び出されていた。

 その昔、勇者とともに各地を飛び回っていた頃のように、とても気軽に呼び出された。

「陛下、一応自分、あのころと違ってヒマじゃないんですけど」

「知っているとも。最近良く働いているそうだね。褒めてあげよう」

「それは恐悦の至り。それで、そんなひと言のために呼んだ訳ではないですよね」

 国王は勇者たちへの命令を伝える際、リーニを通すことが多かった。

 それは彼がもっとも世間慣れしており、ある種の社会不適合者の集団である勇者パーティの中で一番社会の道理を弁えていたからだ。

「よくわかったね、ご褒美に娘をあげようか」

 ここでいう娘とは、当然王女のことだ。

 王位継承権を持つ、れっきとした時期女王候補のひとりである。

 それを果物でも寄越すようにくれてやるという国王に、リーニはため息とともに頭を振った。

 ここが国王の私室でなければ、無礼だと叱責されたことだろう。

「うちの商会、人間は買い取ってないのでいらないです」

 人材の派遣はしていても、人身売買はしていない。

 王女などもらっても面倒事が増えるだけなのだ。

「そうか、ならば玉座と玉璽のほうがいいかな。これなら買い取れるだろう」

 国王は面白そうに王位を売り渡そうとする。

 これでも国民に慕われ、各国からの信頼も厚い賢王なのだ。

 ただどうしても、リーニに対しては気安い態度を取りがちで、それを臣下に諫められたのは一度や二度ではない。

「いやー、残念ですが、値段が付かないような品は買い取れないんですよ」

「ほう、そういうものなのかい、ひとつ勉強になった。ご褒美に娘をあげよう」

「いらないです」

 先ほどと同じやりとりをもう一度行い、ふたりは本題に入った。

「では、代わりといってはなんだけど、リーブラにある王立学園をあげよう。貴族の寄付金で運営しているせいか、学び舎ではなく単なる社交場と化しているようでね、今となっては無用の長物となってしまった。余が通っていたころは、まだいくらかマシだったんだけど」

「今の陛下を見れば、さもあろうという感想しかありませんが」

「ははは、ならば尚更、もう私には必要ない。あげるから、君の好きなようにしてみるといい」

 国王はそういって、リーニに退出を促す。

 リーニが断るなどとは微塵も思っていないようだ。

「では、期待しているよ」

 リーニは再び溜息を吐くと、一礼して王の前から立ち去った。

「さて、いらないと言われた王女は誰が宥めるのか、これもまた見ものかな」

 リーニが国王の申し出を断ったという噂は、早晩王都中に広まることだろう。当然、王女本人の耳にも入る。

 そうなったとき、王女はリーニ対する怒りを爆発させ、従姉妹と衝突するに違いない。

「はっはっは、ケンカのできる相手は、存外貴重なものだよ」


 リーニは城から出ると、すぐにソリスに連絡を取った。

 そして、どこか緊張した様子の彼女に対し、彼女の師を紹介してほしいと頼んだ。

「――本気?」

 ソリスの声がここまで落ち込むのは、魔王との戦いの最中でもなかったことだ。

「本気だ。すぐにメルキオール翁に連絡してくれ。あの人ならきっと、二つ返事で了承してくれる」

「それは……そうだけど……」

 ソリスの師メルキオールは、当代随一の偏屈者で知られる錬金学者だ。

 研究と実践に命を懸け、それを他人に教えることで自らの理論の正しさを証明するとして、田舎で私塾を開いている。

 ソリスはそこで魔法の基礎を学び、その才能を開花させた。

「頼む!」

「――わかった」

 リーニに頼られることなど滅多にない。

 ソリスはどこか得意気な表情を浮かべると、師への連絡のため通信用の宝珠を握った。

 厳しい師の教えに晒されるであろう貴族の子弟たちのことなど、微塵も考えていなかった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] リー二さんやっぱり金稼ぎの才能はあるよなぁ
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ