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47:予定が早まると、慌てるよねって話


 コカトリスの集団が確認されて数日。

 やつらは西の森の中で暮らしていたため、しばらく西の森への立ち入りを禁止しつつ、石化防止薬と石化解除薬を量産しながら、カイル達と対処法を検討していた。

 魔物の習性を考えると、数週間は猶予があるだろうと俺も冒険者達も当たりを付けていた。


 だから、錬金釜の前で汗を流して、量産に向かない石化防止薬を増産している最中に、飛び込んできた猫獣人に、もう一度聞き返してしまう。

 

「なんだって?」


 冒険者ギルド職員のミケは、二度そのセリフを吐いた。


「にゃ! だからコカトリスの群れが! この町を目指して押し寄せてるにゃ!」


 俺はミケに返事もせずに家を飛び出した。

 真っ先に向かったのは物見塔だ。これは大河の対岸まで見渡せるように、高さのみを追求した超が付く高さの物見塔だ。もちろん、こういう時の為でもある。


「あっ! クラフトさん!」

「上るぞ!」

「はい!」


 すでに顔見知りの冒険者が塔の入り口を警備していたが、顔パスで中へ飛び込む。延々と続く螺旋階段をひた走り、てっぺんに到着すると、ごうと暴風が身を襲った。

 なんでもこれだけ高い場所には、常に強風が吹いているものらしい。


「おい! コカトリスはどこだ!?」

「向こうだ!」


 見張りについていた冒険者が指す方向を睨み付ける。


「”遠見”!」


 すぐに遠見の魔法を発動させて、森の外縁部を確認する。


「……マジかよ」

「冗談であって欲しかったよ」

「……」


 俺はまともに返事をすることも出来なかった。

 距離はまだ大分先だが、間違い無くコカトリスの群れは町に向かって暴走(スタンピート)していた。

 魔物の暴走というのは、ごく稀に発生する。それはもう災害の一種だと諦められている現象だ。


 そして魔物の暴走に巻き込まれた町がどうなったか。

 元開拓村であった場所を見ればわかる。綺麗さっぱり更地にされてしまうのだ。人も物も全てを飲み込んで。


「カイルに連絡は!?」

「もちろんすでに伝令が走ってる! ただそれとは別にクラフトには知らせておくべきだと判断した!」


 顔は知ってるが、名前まで知らない冒険者に、ここまで信用されているとは思わなかった。

 カイルの為にも、町の為にも、俺は手段を選ばない。


「防衛体制はどうなってる!?」

「カイル様はまだ私兵集めの準備段階だったからな。正規軍と呼べるのはアルファードさんとペルシアさんだけだ」


 それは知っている。

 ようやくカイルの父親であるオルトロス・ベイルロード辺境伯から、私兵の所持を許可され、兵士を募集する為の下準備をしていたのだ。

 受け入れるための兵舎建築や、武具の購入などがそれにあたる。もちろん根回しもだ。


「防衛目的で契約している冒険者の数は!?」

「平均三〜四パーティーって話だから、おそらく二〇人前後だろう」

「二〇……」


 この町の治安維持には充分過ぎる数だが、現状を覆すには到底足りない。


「安心しろクラフト。俺達冒険者の全員が、いざとなったらこの町を守ると誓っている」

「なに?」


 あまりにも予想外の言葉に、俺はコカトリスの群れから目を離して、思わず冒険者をまじまじと見つめてしまった。

 冒険者は基本的に自分の命が一番の生き物だ。次に金。

 もちろん信頼や信用といったものも重要だが、傭兵ではないのだ。基本的には天秤に命は載せない。

 常に命の危険がある冒険者だからこそ、そういう事には敏感なのだ。


「俺達冒険者はそれだけこの村に感謝してるって事だ。いや、もう町だな。そして、出来ればずっとカイル様やお前達と一緒にいたいと思えるほどにな」

「それは素直に嬉しいが、金になるかどうかはまだわからないんだぞ? もちろんカイルと相談して——」

「皆まで言うな。今俺達が動いてるのは冒険者としてだけじゃない。一人の人間として、友を守りたいが為だ。友を助けるのに打算などいらないだろ?」

「そうか……そうだな。友を助けるのに、理由なんていらないよな」

「そういう事だ。それより、この状況をどう切り抜ける?」

「冒険者二〇〇〜三〇〇は動かせる前提で良いのか?」

「ああ。だが軍隊みたいな連携は期待するなよ? スタンドプレーの塊みたいな連中だからな」

「わかってる」


 元冒険者なのだ、その辺は重々承知だ。

 同じパーティーメンバーで連携は取れても、複数パーティーとの連携になると、途端に動きが悪くなるのが冒険者という物だ。

 複数パーティーの合同依頼を冒険者が嫌う理由もわかろう。


 前回のドラゴン討伐戦は別だ。

 参加した冒険者全員が連携しなければ確実に死ぬという前提で一ヶ月近くも訓練を重ねたのだ。同じに考えるわけにはいかない。


「せめて城壁が完成していれば……」

「もう少しで完成だったんだがな」


 口惜しそうに城壁を見下ろす見張りの冒険者。

 俺はコカトリスの進行ルートと、現在の城壁を地図として頭に叩き込む。


「俺は降りて、冒険者ギルドに戻る。コカトリスの動きに変化があれば、すぐ知らせてくれ」

「了解だ」


 再び長い螺旋階段を全力で転がるように下っていく。途中何度も石壁に肩をぶつけたが知ったことか!


「クラフト兄様!」

「カイル!? こっちに来てたのか!」

「はい!」


 冒険者ギルドに飛び込むと、ミケに案内された大部屋には、すでにカイルを始めとしたこの町の主要メンバーが集まっていた。


「アルファードは?」

「アルファードには町の人間を、教会か丈夫な建物に避難するよう指示を出しました」

「良い判断だカイル。丈夫な建物ってのは?」

「町の中央寄りにある、錬金硬化岩で作られた建物をいくつか指定しています」

「なるほど。たしかにあれなら一種の壁みたいなもんだからな」


 きびきびと指示を出すカイルは、普段のおっとりとした印象とはまるで違う。やれば出来る子なのだ。

 教会も、錬金硬化岩を使いまくってるので、安全だろう。かなり広い作りなので、一時的であれば相当数の人間を収容出来るはずだ。


「……問題は、城壁の完成していない部分ですね」

「ああ」


 上から見た限りだと、三カ所が手つかずだ。つまり、城壁には三つの穴がある。


「サイノスギルド長、冒険者はどの程度出せる?」

「ほぼ全員が緊急要請にイエスと応えてくれました。ただ、一部の冒険者は町を出ており、連絡手段がありません」

「レイドックは?」

「残念ながら、町におりません」

「クソッ」


 個が群を殲滅出来るこの世界において、レイドックほどの実力者が欠けるというのは、大隊か連隊を引き抜かれるに等しい。もしかしたらもっとだ。

 だが、幸いにもこの町の冒険者は実力者揃いだ。


「サイノスさん。実力の高い冒険者二〇〇程を西の穴に。残りを北と南に振り分けてくれ」

「一カ所に二〇〇ですか? 残りの人数がかなり絞られますが?」

「塔から見たが、コカトリスは暴走(スタンピート)だ。恐らく真っ直ぐにこっちにやってくる。そして人間を見つけたら、脇目も振らずに突っ込んでくるだろう。おそらく西に固まっている冒険者達めがけて」


 ゴクリと息をのむギルド長。


「リーファン。すまないが、現在まで完成している石化予防薬を、西側に運んでくれるか? それと三カ所全部にヒールポーションとキュアポーションをありったけ頼む」

「わかったよ!」


 すぐに飛び出すリーファン。

 一瞬ほっとした表情をみせたサイノスギルド長だったが、すぐに表情を引き締める。


「そ、それでは北と南は捨て戦力ですか?」

「違う。カイル。北と南にアルファードとペルシアを行かせてくれ。あいつらなら少人数でも大丈夫だ」

「わかりました。兄様」


 自分の直衛がいなくなるとわかっているのに即答するカイル。

 まったく、たいした奴だ。


「なるほど、西を中央とすれば、北を右、南を左。中央隊は冒険者ギルドが指揮を執り、左右の隊をアルファード様とペルシア様で指揮を執るのですね」

「そうだ。悪いが中央の人選は任せる」

「わかりました」


 レイドックがいてくれたら、何も考えずに任せられたものを。

 無い物をねだってもしょうが無い。


「しかし、左右の隊は石化に対してどうすれば……」

「石化解除薬のストックが少しある。まだ作り始めたばかりで量は少ないんだが。まずこれを左右の隊に分ける」

「対処療法にしかなりませんが」

「ああ。左右の隊には石化を解除しながら防衛してもらう」

「そんな無茶な」

「その時間稼ぎしている間に、俺は石化予防薬を作る」

「作る!? 今からですか!?」

「ああ。材料は揃ってるからな」


 あとは、時間との勝負だ!



な……なんとか更新……(´Д`)

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