46:トラブルは、予想外の所から起きるよなって話
俺の名前はエド! 孤児だ!
教会の孤児院で、アズール姉ちゃんに育てられた。
孤児院には始め、沢山の仲間がいたが、なんか色々あって、最後には俺を入れて四人になっていた。
狼獣人の俺エド、兎獣人のサイカ、レッサーパンダ獣人のカイ、猫獣人のワミカだ。
詳しいことはよくわからないんだけど、アズ姉が神官になって、俺達は辺境の開拓村に引っ越すことになった。
最初、なーんにもない河っぺりだったのに、あれよあれよというまに、デカイ町になっていった!
あんな凄いの見た事ねぇよ!
もちろん俺達も手伝ったぞ!
それで、立派な教会と孤児院が完成して、俺達はそこに住んでいるんだ。
クラフト兄ちゃんにお願いしたら、魔法の訓練を出来るようになったんだけど、俺はあんまりうまく使えなかった。
冒険者の兄ちゃん達が教えてくれたんだけど、狼獣人や兎獣人はあまり魔法が得意じゃ無いらしい。
凹んでいたら、代わりに剣を教えてくれた。
ある日、クラフト兄ちゃんが、俺達に黙って、凄いスタミナポーションを使っていたことを謝ってきた。
なんで謝るのかわからないけど、許してやったぜ!
クラフト兄ちゃんの事好きだからな!
そんで、その伝説なんちゃらのポーションを使えるようにしてくれたのだ。
それで強くなれるなら、問題なんてないじゃんな?
そんな感じで町の手伝いと、教会の手伝いをする日々だったが、途中から学校というのに行かされることになった。
最初は勉強なんてしたくなかったから行きたくなかったが、近い年齢の友達がたくさんいるし、給食も美味かったから、ちゃんと通ってる。
クラフト兄ちゃんからも教わってたしな。
新しいゴールデンドーン開拓町の生活は、とても楽しい。
アズ姉が忙しそうだったけど、楽しいみたいだから、それでいいや。
「これより第三六八回円卓会議をおこなう! みんないいか!」
「何度でも言うけどエド、どこに円卓があるのよ」
「心の中だ!」
「あと、三六八回もやってないよね?」
「魂の回数だ!」
「はぁ……」
俺の顔を見てため息を吐くのは、兎獣人のサイカだ。俺と同じアズ姉の孤児院で育った仲間だが、なんていうか、女は生意気な所があるよな!
今日は冒険者ギルドの兄ちゃん達にお願いして、訓練に参加させてもらった。今日はスタミナポーションを禁止されていたので、久々に全員疲労困憊だが、これから話し合うのは、エドサイカカイワミカ冒険団の重要任務なのだ!
「こらワミカ! 寝るな!」
「うにゅ~」
ワミカはマイペース過ぎるんだよな。
猫獣人だからかなぁ?
いやでも、冒険者ギルドで受付をやってるミケ姉ちゃんは、きびきびしてたよな。
うーん。やっぱワミカの性格かー。
「ワミカちゃん、起きた方がいいよ。またエドが怒るよ」
「うにゃ〜」
おどおどした態度で、やんわりとワミカを揺するのは、レッサーパンダ獣人のカイだ。
レッサーパンダの獣人は非常に数が少ないってアズ姉に聞いたことがある。確かにカイ以外見た事が無い。
俺は狼の獣人なのだが、これも少ない。
昔、アズ姉に言われたことがある。どちらの種族も強い獣人なのだから、二人とも強く気高くなりなさいと。
もちろん俺は強くなるべく努力しているが、どうもカイは臆病が治らない。
「ええい! いいから話を聞けよ!」
「はいはい。続きをどーぞ」
くそ。サイカのこういう態度は本当に腹たつなー。全部わかってますよーはいはい。みたいな。
でも、サイカがいないとまとまらないからなぁ。
「よし、それじゃあ俺達、エドサイカカイワミカ冒険団結成後、最初の冒険を発表する!」
「ねえエド、その名前なんとかならないの?」
「なんだよ、全員の名前が入ってなきゃ変だろ? カイもそう思うよな?」
「うーん……それは嬉しいけど、わかりにくいかなぁ……」
「そうか? 何か別の名前とかあったら言ってくれよー」
「前に散々出し合ったじゃ無い。ドラゴン冒険団とかなんとか」
「ボクはドラゴン冒険団良いと思ったんだけど……」
「クラフト兄ちゃんの馬みたいって事でやめたろ」
「うんー」
「テバサキー」
「やめろ。ペルシア姉ちゃんじゃあるまいし」
なんか色々話し合ってて、かえってわけがわからなくなったので、とりあえずエドサイカカイワミカ冒険団としてあるのだ。
とりあえずの名前まで悩んでたら、頭がふっとーしちゃうよ。
「まあいいわ。それより話を進めましょうよ」
「サイカはなんでそんないつも偉そうなんだよ」
「エドがもう少ししっかりしてくれれば、多分こうならないわよ」
「ちくしょう……」
「はいはい。話を進めてね」
どうして俺はサイカにいつも言い負かされてるんだよ。
「えっとな。冒険団最初の大冒険は、森へ行って、オークを倒す事だ!」
「そう? じゃあジタローさんに声を掛けておくね」
「馬鹿、そうじゃねーよ。俺達だけで行くんだよ!」
「はぁ?」
「え?」
「おやつ欲しいなぁ」
サイカとカイが素っ頓狂な声をだし、ワミカがどっからかビスケットを取り出した。あ、いいな。
「え? カイ。もしかして、大人についてきてもらわないの?」
「それじゃあただのピクニックだろ!」
「クラフトさんやジタローさん、それに他の冒険者の人達もだけど、みんなの言うピクニックって結構物騒だっていつ気がつくんだろう?」
「なんか変か?」
「んーん。なんでもない。たぶん、この町のピクニックはこうなるだろうから……」
サイカが言っている意味がよくわからないな。
ピクニックは景色の良いところにお弁当を持って出掛けることだろ?
ただ、森は危険な場所なので、大人が一緒じゃ無いとピクニックにはならない。
俺だって馬鹿じゃ無いから、最初の冒険はいつも遊びに行っている、大岩を目指そうと思う。
ようは、大人同伴じゃなければ、冒険になる!
「……なるほどね。エドの言いたいことはわかったわ。二人はどう思う?」
「危ないよぉ。魔物がいっぱいるんだよ?」
「楽しそ〜」
「賛成1、反対1ね」
「俺は大賛成だから2票分な」
「意味がわからないわよ。賛成2ね……まぁいいわ。今の私達なら大丈夫だと思うし」
「サイカちゃんは賛成なの?」
「んー、エドにしては一応考えてるんじゃない? 大岩までなら何度も行ってるしね」
「そっか、サイカちゃんが良いなら、いいのかな」
「カイはもう少し自分の意見を持とうよ」
サイカのやつ、こんな事言ってるが、表情を見れば乗り気なのはバレバレだ。
「よし! これで全員賛成だな!」
「決まりだ! 明日は学校も孤児院の手伝いも休みだからな。みんな朝一で出るぞ!」
「エド、魔物は倒しても良いけど、動物は駄目だからね?」
「おう。わかってるよ」
良くわからないけど、食べられる動物は、しゅりょーけんとかいう、強そうな拳を使えないと狩っちゃいけないらしい。ジタローが使ってるのは見た事ないけど、たぶん使えるんだろう。
「冒険の目的は、オークを倒して魔石をゲット! アズ姉にプレゼントだかんな!」
「良いわね。やる気が出てきたわ」
「ボクも頑張るよ!」
「やろー!」
アズ姉の名前を出したら、一気にやる気を見せる三人だった。最初からこう言えば良かったよ!
俺達は、クラフト兄ちゃんからこっそりもらった、伝説スタミナポーションを樽から水袋に移し、さらにヒールポーションとキュアポーションも準備する。
「クラフト兄ちゃんは、好きなだけ使って良いって言ってたもんな」
いざという時は、これらを使って逃げれば良いからな。
武器を整備しつつ、俺らは明日に備えるのだった。
◆
ギルド長の部屋に案内されると、サイノス冒険者ギルド長は地図を広げて本題に入った。
「現在、この地域で大量のコカトリスが確認されています」
落ち着いた口調ではあったが、その顔色は真っ青だった。
ギルド長が指す範囲は町に近く、かつ広域だった。
「随分と町に近いな。それに広い。あれか? 浅く広く分布している感じなのか?」
「外縁部に関してはそうです。ですが、中央付近には近寄れないほどの数で、詳細は不明だそうです」
「あいつら石化のブレスがあるからな。耐性が無いとやばい。レイドックなら耐えられるか?」
「軽く吸い込む程度ならな。だが、ブレスの量が増えたらまずいな」
「それはそうか」
単純にブレスを吸ってしまう量が増えたら、ここまで鍛えたBランク冒険者といえど、石化を無効化出来るわけじゃない。
「それにしても、コカトリスってだけでも厄介なのに、それが大量発生? 総数を教えてくれ、予想値で構わない」
「近づけない事から、かなり幅があるのですが……」
「それでも概算すらわからない状況じゃ対策もできねーだろ」
「そうですね。複数の冒険者の情報から、おそらく千……下手をしたら五千を超えるのではないかと……」
「五千!? ゴブリンだってそんな増えないだろ!?」
「ゴブリンならたまにありますが、コカトリスが千単位で確認されたのは初めてですね。もっとも人間の生活圏は大陸からしたらまだまだ狭いですから、より奥に踏み込めば、信じられないような数が当たり前にいるのかもしれませんが」
「つまり、俺達人間が確認出来ていなかっただけで、コカトリスの千単位は、この世界にとって当たり前の可能性がある。って事か」
「否定は出来ません」
頭を抱えたくなる事案だな。
やはり、冒険者の拡充と戦力アップは必須だ。
わかっていたつもりで、この城砦を造ってはいるのだが……。
「それにしても、尋常じゃないな。コカトリスの群れが町に来る可能性は?」
「不明です。どうも、私達が森の浅いところで狩りを続けた結果、縄張りが変わってしまったのではないでしょうか?」
「奥から押し出されるように、コカトリスの縄張りが広がってしまったって事か」
「可能性ですが」
これは早急に対応する必要があるな。
「よし、俺はこれからカイルと相談してくる。あんたたちも対応を考えておいてくれ」
「わかりました」
「取りあえずは、石化防止のポーションを大量生産するところからだな。あと石化解除のポーションも念のため用意しなきゃな。あれは一種の呪いだから、キュアポーションが効かないんだ」
「必要な素材があれば言ってください。すぐに狩りに行かせます」
「あとでまとめて連絡する」
「わかりました」
これは、時間との勝負になるだろう。
俺は二人と別れると、カイル邸まで駆け出すのだった。