262:最後のとどめは、任せとけばいいよなって話
全員が急いで配置につく。
治療組にエヴァが行き、ついでに作戦を伝えてくれる。
すると、瀕死のノブナが顔を上げたのだ。
「武士として……決戦に……参加できないのは……情けないのよ。……せめて」
マリリンが回復魔法を掛けながら「無理しちゃだめですぅ~」と涙目だが、ノブナは完全無視でオンミョウ術を発動させる。
「我は……願い奉る。……冥府より……おいでませ……天狗童子」
俺の横に天狗が召喚された。ノブナは痛みのためか、血液不足のためか、そのまま気絶する。
先ほどと同じように、天狗は俺の言う事を聞いてくれるだろう。
それにしても、滅んでも再召喚できるあたり、精霊召喚に近い技術なのかもしれない。それとも複数持っていたのだろうか?
なんであれ、天狗のおかげで作戦に集中できそうだ。
俺は横に立つエヴァに顔を向ける。
「俺とエヴァは囮だ。とにかくエヴァは身の安全だけを考えてくれ」
「おそらくですが、この作戦は一度しか使えませんよ。次に同じことをしてもやられるだけでしょう」
「ああ。絶対に今回で決める!」
俺が決意を込めて拳を握りしめて鼓舞するが、なぜかエヴァの表情は泣きそうに見えた。
「な、なんだよ」
「……危険すぎます。他に方法はないんですか?」
「俺が思いついたのはこれだけだ。他の方法があるなら言ってほしいが、時間がない。ほら、ニーズヘッグの野郎、Uターンしたぞ」
「それに私だけが安全な作戦なんて……!」
「いやいや! 十分危険だぞ! むしろそんな作戦しか思いつかなくて申し訳ないくらいだ!」
「背負う危険度に差がありすぎるんです! なんで貴方はいつも自分の分をまともに勘定しないんですか!」
「え?」
「貴方はカイル様以上に生き残らなければならない人なんですよ! 自覚がないんですか!?」
カイルより? そんなわけないだろう!
だから自覚なんてあるわけがない。
俺の表情変化を見ていたエヴァの眼尻が上がる。
「やっぱりわかってないじゃないですか! 貴方は……貴方って人は!」
なぜか怒りながら、涙を流すエヴァ。
え? ちょ、なんで!?
「えっと、エヴァさん?」
「敵が来ます!」
「お! おう!」
俺は慌てて顔を上げると、まっすぐこちらに向かってくるニーズヘッグを確認。
すでに錬金硬化岩の巨大建築物もなく、執拗に狙っていた魔術師二人が揃って突っ立っているのだ。ヘビトカゲ野郎は躊躇なくこちらに突っ込んできている。
エヴァが急いで準備をしつつ、俺をキッっと睨みつけてきた。
「全部終わったら説教です」
「お、おう」
「だから……生きてください」
ああ、そういうことか。エヴァ流のハッパの掛けかただったわけだな。
「ああ。任せとけ」
気合を入れ直したところに、とうとうニーズヘッグが突っ込んできた。俺は改めて気合を入れ直し、ヘビトカゲ野郎に正対する。
チャンスは一度!
真正面に立ちふさがる俺を見て、ニーズヘッグがニヤリと笑った気がした。せいぜい油断しろ、目にもの見せてやる!
「エヴァ! 準備はいいか!?」
「いつでもいけます!」
ニーズヘッグの巨体が真っ直ぐに俺に突っ込んでくる。体感としちゃまるで城が襲いかかってくるようだ。
がばりと口を開き、すべてを飲み込むのだという意思がこちらにも伝わってくる。
もはや、左右どちらに飛んでも避けることは不可能な距離。
このタイミングを待っていた!
「今!」
あらかじめ命令していた通りに、天狗が大団扇を振るい、背中に突風をぶつけ、俺をほぼ真上へと打ち上げた。
同時にエヴァの足元に大穴が開き、そこにエヴァが落ちるように避難する。
確実にニーズヘッグを俺の方に向けるための囮だったからな。あとは穴の中で防御魔法で身を守ってくれれば、ヘビトカゲ野郎はやり過ごせるはずだ。
左右に避けるのは警戒していただろうが、まさか真上に飛び上がるとは思っていなかったのだろう、さすがのニーズヘッグにもわずかな戸惑いが見えた気がする。だが、このヘビトカゲ野郎はさらに口を開き、首を少しでも上に向け、俺を飲み込もうとする。
やばい! このままだと頭上を超えられない!
天狗には俺を打ち上げたあと、ニーズヘッグに攻撃するよう命じていたのが裏目に出た! 囮役より、俺に追撃させて、確実に飛び越せるようにしておくべきだった!
このままだと、喰われる!
どうにか魔法を放って、高さを稼ぎたいが、俺が天狗に食らったのは攻撃魔法である。身体はきりもみ状態で、魔法を放てるような状態ではない。
クソが!
このままだと、敵の上顎がギリギリ届いて飲み込まれる!
使いたくはなかったが、自爆用の魔力爆弾を使うしかないのか!?
その時、真下から突風が吹き、衝撃が俺を襲った。
「”空爆烈”!」
エヴァが避難用の穴の中で立ち上がり、俺に手を向けている。
なにやってんだ!?
いくら穴の中とはいえ、防御魔法でがちがちに固めないと、ニーズヘッグが通り過ぎる衝撃でズタボロになるぞ!?
俺はさらに魔法で打ち上げられ、かろうじてニーズヘッグの牙から逃れ、ヤツの頭上を越した。
爆走するヘビトカゲ野郎が俺の真下を通過する寸前、エヴァがニコリと笑った気がする。
絶対にこのチャンスをものにする!
ニーズヘッグの頭上を飛び越した俺は、すぐに重力に引っ張られ落下。ヘビトカゲ野郎の背中に落っこちる。
普通なら、猛スピードで進む身体に弾かれるのだが、こいつの身体にはトリモチがたっぷりとこびりついているから、俺は弾かれず、そこに張り付いた。
実際は衝撃でこいつの背中を転げながら、トリモチに巻き取られるように、ではあるが。
身体中トリモチだらけで、動くこともままならないが、それこそが狙い。直接触れることが重要だったからだ。
俺ができる最後で唯一の方法が……これだ!
「錬金術”トリモチ超硬化”!」
魔力を注ぎ込んで、無理矢理にトリモチを硬化させていく。無茶な魔法なので、ぐんぐんと魔力が吸われていくが、知るか! 一滴残らず持っていきやがれ!
俺の身体にべったりとついていたトリモチから、一気に固まっていく。俺も動けなくなるが問題ない!
ヘビトカゲ野郎の身体に巻き付いていたトリモチが、急速に硬化していき、こいつの動きが急激に鈍っていく。まだ足りないか!
「俺の全魔力を持っていきやがれ、この野郎が!」
仲間たちの惨状が脳裏によぎると、怒りで力が湧いてくる。内包する全ての魔力が枯渇し、死ぬことすら厭わず、さらに魔力を叩き込むと、とうとう背中の羽根が硬化が始まる。
「落ちろぉ!」
ずううううぅぅぅぅうううぅぅうぅん!
巨体が、とうとう、地面に、墜落した。
ニーズヘッグの身体と一緒に硬化している俺は、その衝撃で意識が飛びかかる。その寸前に、ヘビトカゲ野郎の首に剣を振るうレイドックの姿を見た気がした。
あとは任せたぜ、色男。
こうして、俺は意識を手放し、気絶するのであった。




