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262/265

262:最後のとどめは、任せとけばいいよなって話


 全員が急いで配置につく。

 治療組にエヴァが行き、ついでに作戦を伝えてくれる。

 すると、瀕死のノブナが顔を上げたのだ。


「武士として……決戦に……参加できないのは……情けないのよ。……せめて」


 マリリンが回復魔法を掛けながら「無理しちゃだめですぅ~」と涙目だが、ノブナは完全無視でオンミョウ術を発動させる。


「我は……願い奉る。……冥府より……おいでませ……天狗童子」


 俺の横に天狗が召喚された。ノブナは痛みのためか、血液不足のためか、そのまま気絶する。

 先ほどと同じように、天狗は俺の言う事を聞いてくれるだろう。


 それにしても、滅んでも再召喚できるあたり、精霊召喚に近い技術なのかもしれない。それとも複数持っていたのだろうか?

 なんであれ、天狗のおかげで作戦に集中できそうだ。


 俺は横に立つエヴァに顔を向ける。


「俺とエヴァは囮だ。とにかくエヴァは身の安全だけを考えてくれ」

「おそらくですが、この作戦は一度しか使えませんよ。次に同じことをしてもやられるだけでしょう」

「ああ。絶対に今回で決める!」


 俺が決意を込めて拳を握りしめて鼓舞するが、なぜかエヴァの表情は泣きそうに見えた。


「な、なんだよ」

「……危険すぎます。他に方法はないんですか?」

「俺が思いついたのはこれだけだ。他の方法があるなら言ってほしいが、時間がない。ほら、ニーズヘッグの野郎、Uターンしたぞ」

「それに私だけが安全な作戦なんて……!」

「いやいや! 十分危険だぞ! むしろそんな作戦しか思いつかなくて申し訳ないくらいだ!」

「背負う危険度に差がありすぎるんです! なんで貴方はいつも自分の分をまともに勘定しないんですか!」

「え?」

「貴方はカイル様以上に生き残らなければならない人なんですよ! 自覚がないんですか!?」


 カイルより? そんなわけないだろう!

 だから自覚なんてあるわけがない。

 俺の表情変化を見ていたエヴァの眼尻が上がる。


「やっぱりわかってないじゃないですか! 貴方は……貴方って人は!」


 なぜか怒りながら、涙を流すエヴァ。

 え? ちょ、なんで!?


「えっと、エヴァさん?」

「敵が来ます!」

「お! おう!」


 俺は慌てて顔を上げると、まっすぐこちらに向かってくるニーズヘッグを確認。

 すでに錬金硬化岩の巨大建築物もなく、執拗に狙っていた魔術師二人が揃って突っ立っているのだ。ヘビトカゲ野郎は躊躇なくこちらに突っ込んできている。


 エヴァが急いで準備をしつつ、俺をキッっと睨みつけてきた。


「全部終わったら説教です」

「お、おう」

「だから……生きてください」


 ああ、そういうことか。エヴァ流のハッパの掛けかただったわけだな。


「ああ。任せとけ」


 気合を入れ直したところに、とうとうニーズヘッグが突っ込んできた。俺は改めて気合を入れ直し、ヘビトカゲ野郎に正対する。

 チャンスは一度!

 真正面に立ちふさがる俺を見て、ニーズヘッグがニヤリと笑った気がした。せいぜい油断しろ、目にもの見せてやる!


「エヴァ! 準備はいいか!?」

「いつでもいけます!」


 ニーズヘッグの巨体が真っ直ぐに俺に突っ込んでくる。体感としちゃまるで城が襲いかかってくるようだ。

 がばりと口を開き、すべてを飲み込むのだという意思がこちらにも伝わってくる。

 もはや、左右どちらに飛んでも避けることは不可能な距離。

 このタイミングを待っていた!


「今!」


 あらかじめ命令していた通りに、天狗が大団扇を振るい、背中に突風をぶつけ、俺をほぼ真上へと打ち上げた。

 同時にエヴァの足元に大穴が開き、そこにエヴァが落ちるように避難する。

 確実にニーズヘッグを俺の方に向けるための囮だったからな。あとは穴の中で防御魔法で身を守ってくれれば、ヘビトカゲ野郎はやり過ごせるはずだ。


 左右に避けるのは警戒していただろうが、まさか真上に飛び上がるとは思っていなかったのだろう、さすがのニーズヘッグにもわずかな戸惑いが見えた気がする。だが、このヘビトカゲ野郎はさらに口を開き、首を少しでも上に向け、俺を飲み込もうとする。


 やばい! このままだと頭上を超えられない!

 天狗には俺を打ち上げたあと、ニーズヘッグに攻撃するよう命じていたのが裏目に出た! 囮役より、俺に追撃させて、確実に飛び越せるようにしておくべきだった!


 このままだと、喰われる!

 どうにか魔法を放って、高さを稼ぎたいが、俺が天狗に食らったのは攻撃魔法である。身体はきりもみ状態で、魔法を放てるような状態ではない。

 クソが!

 このままだと、敵の上顎がギリギリ届いて飲み込まれる!

 使いたくはなかったが、自爆用の魔力爆弾を使うしかないのか!?


 その時、真下から突風が吹き、衝撃が俺を襲った。


「”空爆烈”!」


 エヴァが避難用の穴の中で立ち上がり、俺に手を向けている。

 なにやってんだ!?

 いくら穴の中とはいえ、防御魔法でがちがちに固めないと、ニーズヘッグが通り過ぎる衝撃でズタボロになるぞ!?


 俺はさらに魔法で打ち上げられ、かろうじてニーズヘッグの牙から逃れ、ヤツの頭上を越した。

 爆走するヘビトカゲ野郎が俺の真下を通過する寸前、エヴァがニコリと笑った気がする。


 絶対にこのチャンスをものにする!


 ニーズヘッグの頭上を飛び越した俺は、すぐに重力に引っ張られ落下。ヘビトカゲ野郎の背中に落っこちる。

 普通なら、猛スピードで進む身体に弾かれるのだが、こいつの身体にはトリモチ(・・・・)がたっぷりとこびりついているから、俺は弾かれず、そこに張り付いた。

 実際は衝撃でこいつの背中を転げながら、トリモチに巻き取られるように、ではあるが。

 身体中トリモチだらけで、動くこともままならないが、それこそが狙い。直接触れることが重要だったからだ。


 俺ができる最後で唯一の方法が……これだ!


「錬金術”トリモチ超硬化”!」


 魔力を注ぎ込んで、無理矢理にトリモチを硬化させていく。無茶な魔法なので、ぐんぐんと魔力が吸われていくが、知るか! 一滴残らず持っていきやがれ!

 俺の身体にべったりとついていたトリモチから、一気に固まっていく。俺も動けなくなるが問題ない!


 ヘビトカゲ野郎の身体に巻き付いていたトリモチが、急速に硬化していき、こいつの動きが急激に鈍っていく。まだ足りないか!


「俺の全魔力を持っていきやがれ、この野郎が!」


 仲間たちの惨状が脳裏によぎると、怒りで力が湧いてくる。内包する全ての魔力が枯渇し、死ぬことすら厭わず、さらに魔力を叩き込むと、とうとう背中の羽根が硬化が始まる。


「落ちろぉ!」


 ずううううぅぅぅぅうううぅぅうぅん!


 巨体が、とうとう、地面に、墜落した。

 ニーズヘッグの身体と一緒に硬化している俺は、その衝撃で意識が飛びかかる。その寸前に、ヘビトカゲ野郎の首に剣を振るうレイドックの姿を見た気がした。


 あとは任せたぜ、色男。


 こうして、俺は意識を手放し、気絶するのであった。




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