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258/265

258:作戦は、事前に立てておきたいよなって話


 ペルシアがニーズヘッグと並走することにより、わずかだが巨体の動きが鈍るのを見て、カミーユがチヨメに目配せ。

 カミーユもチヨメも同じ「くのいち」の紋章を持つが、どうも性能の方向性が少し違うらしい。

 先にチヨメが動く。ミズホ神国出身の彼女は紋章の力を、猫獣人特有の身体能力と活かし、隠密と情報収集に使っている。そして戦闘では……。


「煙幕を使うナリよ!」


 鈎付きロープをニーズヘッグに引っ掛け、その反動で一気に巨体の正面に飛び出したチヨメが、小さな煙幕弾を投げつけた。

 弾が破裂し、超濃密な煙幕が広範囲を覆う。

 同時に「ぐはっ!?」っという声が聞こえたきもするが、それをかき消すようにチヨメの文句が飛んでくる。


「ちょっ!? クラフト殿! いくらなんでもこの煙幕量は聞いてないナリよ!?」

「ええ!? とにかく広く濃い煙幕弾を作れっていったじゃないか!」

「限度ってもんがあるナリよ!」


 短い準備期間のあいだに錬金したから、お互いに試せていなかったんだよな。ま、まぁ大は小を兼ねるって言うし問題なし!

 近くで盾を構えていたリーファンが俺の心を読む。


「問題はあるんじゃないかな?」

「だ、大丈夫だ! あれを見ろ!」


 ニーズヘッグの頭側を覆う煙幕に飛び込む影。カミーユだ。


「”刹那闇討”」


 直後、ニーズヘッグの叫び声が響き渡る。

 煙幕で見えないが、カミーユの攻撃がクリティカルしたのだろう。巨体の動きがさらに鈍った。


 そして、待ってましたとばかりに、俺たちの少し後方で、魔術式を練り上げていたエヴァが狙いを定める。


「”深淵崩壊”!」


 漆黒の弾が、煙幕の外に見える胴体部分に向かっていき、身体の一部を削り取った!


「おお!」


 ニーズヘッグが痛みでのたうち回り、土煙が巻き上がる。


「全員一旦退避! 巻き込まれるぞ!」


 煙幕と土煙から仲間たちが飛び出してきたのだが、ペルシアだけがまっすぐに俺のところへ爆走してきて、そのまま拳で殴られた。


「痛い!」

「それはこっちのセリフだぁ! 突然視界が真っ黒になって、ニーズヘッグの攻撃を避けきれなかったんだぞ! みろ! このたんこぶを!」


 煙幕の中心部分は光も届かなかったのか……。

 それよりも、ペルシアの頭には見事なこぶが膨らんでいた。

 うん。こぶ程度で良かったよ。


「いいわけあるかぁ!」


 今度は脳天にチョップを食らった。痛い!

 俺はヒールポーションをペルシアと自分に投げつける。


「え、煙幕が濃いのは性能が良いってことかなと」

「だったら先に言っておけ!」


 ごもっとも。

 それにしても、眼前でのたうち回る巨体を避けるのも大変だ。屋敷や砦すら、あの破壊力では紙切れ同然だろう。あんなのに巻き込まれたら即死だぞ。


 ドラゴンといい、ヒュドラといい、大型の魔物との戦闘は難しい。

 遠間から攻撃を当て続ければ良いと思うやつもいるかも知れないが、こちらが攻撃すれば、当然反撃される。巨体に追い回されるというのは、それだけで脅威なのだ。


 現在はこちらの連携がハマって押しているように見えるが、実際は紙一重。油断だけは絶対にダメなのである。

 俺が内心で気を引き締めている最中、ジタローがニヤリと呟いた。


「勝ったっすね!」

「うぉい!」


 俺のツッコミと同時に、煙幕の中からニーズヘッグが弾けたように飛び出してきた。家を丸呑みできる巨大な顎が俺とジタローを襲う。


「やべぇっすよ!」

「予想できてたろうが! ”万里土城壁”!」


 いつでも出せるようにしていた呪文を即座に発動。分厚く頑丈な土壁が俺たちの前に出現。

 ドラゴン戦の時と違って、発動スピード、堅牢さ共にあの頃とは比べ物にならない。俺だって成長しているのだ!

 ……もっとも魔力の消費量も瀑上がりしてるが。


 ずどこーん! と、土壁とニーズヘッグが激突。音だけでひっくり返りそうだ。防御だが、あの勢いなら十分攻撃にもなっているだろう。ザマァみろ!


 ビシッ! 亀裂の入る音が空間を震わす。

 次の瞬間、土壁が砕け散って、並んだ牙が俺らを噛み砕こうとした!


「ぎゃあああああ!」

「逃げっ!」


 俺とジタローが逃げ出そうとするも、巨体が押しつぶすほうが早かった。俺たちは一瞬で飲み込まれ……る直前、抱きかかえられて脱出。眼の前で巨大な牙が閉じたときは、マジで死んだと思ったぞ!


 抱きかかえているのはペルシア。


「二人とも油断しすぎだ!」


 テバサキの脚力のお陰で助かった。あとでお礼を言わねば。


「そこは私に礼をするところだろう!?」


 あれ? 心の声漏れてた?


「そんなことより、あのヘビは私たちのことを気に入ったみたいだぞ!」


 テバサキを駆るペルシアの両脇に、後ろ向きに抱えられた俺たちのほうが良くわかってる。

 追ってくる! めっちゃ追ってくる! 眼の前で壁と変わらぬ巨大牙をガチガチならしながら、めっちゃ追ってきやがる!


「逃げろ! ペルシア!」

「全力で逃げてる!」

「追いつかれる!」

「貴様らが重いのだ! 二人とも降りろ!」

「死ぬわ!」


 テバサキの全力疾走は、とてつもないスピードだが、乗り心地が最悪だ! これじゃ魔法も打てねぇ!

 さすがのジタローもテバサキにしがみつくのがやっとで、弓どころじゃないらしい。


「おおおおお追いつかれるっすよ!」


 そんなのは見ればわかる! 俺は大声を出して、仲間に助けを求めた。


「誰でもいい! 煙幕を使う隙を、一瞬でいいから作ってくれ!」


 即座に答えたのはノブナである。


「一瞬だけならなんとかするのよ! 我は願い奉る。冥府よりおいでませ! 牛鬼(うしおに)童子!」


 俺たちテバサキが疾走する少し先に、一軒家くらいの大きさの化け物が召喚された。

 ぱっと見は巨大な蜘蛛っぽい六足なのだが、頭部は牛と人を足して二で割ったような恐ろしい顔つきに二本の角が生えている。それだけでも怖いのに、蜘蛛っぽい胴体から生えた、これまた蜘蛛っぽい足の先端は、すべてが鋭い鈎爪となっている。


 ノブナが今まで召喚したなかでも、とびっきり怖い!


 俺の驚きとは別に、ペルシアは冷静に牛鬼との距離を測る。


「クラフト。あのキモいのとすれ違ったら煙幕を出せ。急旋回してやり過ごすから振り落とされるなよ!」

「が、がんばる!」


 テバサキの動きがわずかでも収まってくれないと、煙幕も取り出せない。

 それはそれとして、サラッとキモいって言ったなこいつ! ノブナのお気に入りだったりしたらどうすんだよ!


 考える間もなく、牛鬼とテバサキがすれ違う。当然、俺たちのケツに食いついていたニーズヘッグと牛鬼はすぐさま激突した。


 頑張れ! 牛鬼!


 俺は牛鬼の活躍を期待したが、その願いは儚くも消える。ニーズヘッグの巨大な顎によって、秒も保たずに砕かれたからだ。


 牛鬼ー!


 魔法で強化された耳と目が、ノブナの様子を捉える。


「牛鬼ってキモいから、使い捨てにちょうどいいのよ」


 牛鬼ー!


 俺はありったけの同情をしながら、牛鬼の犠牲を無駄にしないよう、煙幕を取り出した。ニーズヘッグが思いっきり噛み砕く動作をしたため、ごくわずかだが動きが鈍ったから、こちらも一瞬だがテバサキの動きが安定したおかげである。


「ペルシア!」

「やれ!」


 すぐさま俺が煙幕弾を地面に叩きつけると、一瞬で視界は真っ白に……を通り越して真っ黒に!?

 密度が濃すぎて、太陽の光が一切はいってこねぇ!

 突然の暗闇にパニクりそうになったが、ペルシアの声でどうにか冷静さを取り戻す。


「しっかりと掴まれ! 振り落とされるなよ!」


 俺とジタローは全力でテバサキにしがみつく。

 うん。

 ペルシアがテバサキで無茶するときのヤバさは、今回の旅で嫌ってほど味わってるからな!


 こうして暗闇の中、ほぼ直角運動という物理法則を無視したような急旋回で、どうにかニーズヘッグの直線運動からベクトルを逸らすことに成功した。

 めっちゃ怖かった。


 そして、勢いで台地の先まですっ飛んでいったニーズヘッグが戻ってくるのはすぐだろう。

 ペルシアがキリっと宣言した。


「次で決めるぞ」


 おお! カッコいい!


「それで、どんな方法で決めるんだ?」

「なにを言っている? それを考えるのは貴様だろう!」

「自信満々にノープランかよ! このポンコツ騎士がぁ!」

「誰がポンコツかぁ!」


 え? この短時間で作戦考えるの? 俺が?

 嘘だろぉぉぉお!




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