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242/265

242:長いものには、先に巻かれたほうが楽だよなって話


 パラディオと護衛二人が、ヴァン直属の聖騎士団団長アーデル・ガリー(顔に傷のあるイケオジの方ね)の案内で、馬車に乗る。


 馬車は大型のもので、二十人以上がゆったりと座れる特別製だった。それをゴールデンドーンで育てた馬が四頭で牽いているが……うん。この街の馬ならたぶん一頭でも牽ける。

 さすがに負担が大きいし、見栄えも悪いから四頭なんだろうな。


 ゴールデンドーンは広いから、馬車で一通り案内することにしたのだろう。ヴァンのくせに考えたな。

 いや、それだけ早く謁見したかっただけか。

 おそらくザイードあたりが「謁見は視察が終わってからです!」と叱りつけ、それに対してヴァンが「なら、視察を特急で終わらせよう」とでも答えた結果だろう。


 うん。俺はヴァンを応援するぞ!

 一秒でも早くカイルを目覚めさせてやりたいからな!


 アルファードを含めた聖騎士三人と、パラディオの三人。それに俺とリーファンとエヴァとノブナが同じ馬車に乗る。

 給仕らしき人も乗ってるので、この人数で動かすのだろう。

 残りのメンバーは、別の馬車に乗車している。


 アルファードが小声で近づいてきた。


「ゴールデンドーンの説明はお前たちに頼む。ガリー団長はまだここのことを良く知らぬ」


 それに対して俺も小声で返す。


「案内はいいんだが、あのイケオジってヴァンの護衛じゃないのか? 今まで見たことはないけど」

「聖騎士団の一番上だ。その下に聖騎士隊が並ぶ。領主の所有する聖騎士隊は独立していて直接の命令権はないが、聖騎士隊全てをひっくるめて聖騎士団となる」

「なんか面倒くさいな。命令系統とかが二重になったりしないのか?」

「領主になにかあったとき、団長が隊長の指揮権を得ることがある。今の私がその状態だ」

「緊急時を考えた編成なのか」

「今の王国はかなり安定しているが、少し前まで、貴族の領地がいきなり魔物に襲われるのは日常だったようだからな」

「必要に駆られた体制なのね」

「特に聖騎士隊は法の判断と、執行も担っている関係で、時に領主を裁く可能性まであるからな。そういうときに団長という存在がないと困るのだ」

「納得した」


 聖騎士隊は、領主の持つ最強の兵士でもあり、王国から見てくさび(・・・)でもあるわけか。良く考えてあるな。


「法の執行権を持つ関係で、陛下がこの街に訪れるときでも、王都に残されていたのだ。現在、王都の一部部隊とレイドックたちが帝国に向かっているだろう? 陛下が兵力不足と判断して団長を連れてきたのだ」

「なるほど、ありがたい話だな」

「まぁ、そうだな」


 どこか含みのあるような返事をするアルファードだったが、ガリー聖騎士団団長に呼ばれ、それどころではなくなった。


「クラフト・ウォーケン! 街の説明を頼む」

「は、ははー!」


 返事ってこれでいいの!?

 あわあわしていると、リーファンに小声で突っ込まれた。


「国王陛下には無礼なほど気さくに接するのに、その部下の人に緊張するのはおかしくないかな?」

「年上の威厳がある人に弱いんだ、俺」

「うん。知ってる」


 実際、団長さんにヴァンと同じ態度のほうが問題あるだろう。それは自覚してるから。

 それにしても偉い人との会話、わかんね!


 幸い、ガリー団長はアルファードの横に下がったので、俺は安堵しながらパラディオに街の自慢を始めた。


「こちらが錬金硬化岩を使った市壁になりまぁーす!」


 やけくそだった。


 ◆


 ヴァン……国王陛下とパラディオの謁見は上手くいった。特に詳細を記すこともないので飛ばそう。

 全権を委任されていたらしく、パラディオはその場で魔術師の隠し里、隠者の庭園を王国に編入してもらうことを決意。

 独立自治権が認められる大盤振る舞いな提案も、即決の後押しになったようだ。


 謁見が終わったあとの控え室で、パラディオ老がぐったりとソファーに座り込んで呟く。


「秘匿すべき技術や情報を惜しげもなく突っ込んだ都市というのは、ここまで発展するものなのか……。それを成し遂げる自重しない錬金術師のせいか、それらを受け入れる国王陛下の度量か。……どちらにせよ、敵に回すなど論外。早々に庇護下に入るのが最善だった。自治権を認めてもらった状態で、文句などない」


 とのことだ。

 自重しない錬金術師って俺のことかなぁ。ジャビール先生のことだったりしないよな?


 魔術師の隠し里という、強い味方ができたことを喜ぼう。

 これ以降の手続きは、パラディオとザイードに任せることになる。俺らは引き続き、カイルのための冒険だ。

 そのためには、カイルの父ちゃんに話を聞かなきゃいけなんだが、辺境伯って圧が強くてちょっと苦手なんだよな。


 そんなことを考えていたのが悪いのか、ばーんと扉が開け放たれ、先ほどまで上座で偉そうにしていたヴァンが入室してきた。


「ようクラフト! とりあえずご苦労だった! 強い魔術師の集団を取り込めたぞ! 褒めてやろう!」

「……国王陛下。ここにはパラディオ様がおられいられそうろうなのですが」

「やめろやめろ、使えない敬語なんて忘れろ。パラディオ殿も気楽にしてくれ。今の俺は友人に会いに来たただの一般人だ」


 するとヴァンの後ろに控えていた三人が揃って苦笑する。

 アルファード、聖騎士団団長の傷イケオジ、イケメン騎士の三人だな。

 イケオジのガリーが苦み走った表情で、ヴァンに耳打ち。


「陛下が気さくなことは今さら諦めましたが、せめて事情を知っている人間の前だけにできませぬか?」

「はん! パラディオ殿や隠者の庭園とはこれから密接に関係を持つことになろう。あとから説明するより、今から俺を知っておいてもらったほうが誤解がない」

「ですが……」

「うるさい。それよりクラフト」

「この流れで俺に話を振る!?」

「時間に制限があるわけではないが、カイルの復活は早いほうがいいだろ」

「よし。聞こう」


 アルファードが無言で嘆息していたが、お前だってカイルは早く戻してやりたいだろう。だからなにも言わないのかもしれないが。


「お前たち、魔術師の里を見つけたと思えば、今度は錬金術師の隠し里を探すらしいな」

「リーファンの報告書どおりだぞ」

「それで、オルトロスの協力を得たいらしいな」


 オルトロスというのは、カイルの父ちゃんのことだ。さすが国王、呼び捨てである。


「ああ。どうも錬金術師の里は、王国と帝国を分断する山脈のどっかにあるらしくてさ」

「お前……あの山脈がどれほどでかくて、長くて、険しくて、高いか知っているのか?」

「地図で見た以上の情報はないな。でもゴールデンドーンや小国家群に迂回するルート以外に、直接山脈を越えるルートもあるって聞いたぞ。カイルの継母だったベラもそのルートから帝国に脱出したらしいじゃないか」


 険しいとは聞いているが、人が超えられるルートがあるのだ。なんとかなるだろう。


「阿呆。ベラはそもそも人間を辞めていただろう。あのルートはワイバーンによるやりとりが確立する前に使っていたが、現在は実質封鎖されている」

「そうなのか?」

「険しい峰を避け、複雑な渓谷に渡された粗末な枝のような橋。岸壁に張り付きながらじゃないと進めない出っ張りを道と呼ぶか? そんなのが複雑怪奇に曲がりくねり、入り組み、延々と続く。魔物も多くしかも凶悪。しかも山の呪いで息もまともにできぬ。少しでもルートが外れ、標高が上がってしまうと、山の呪いで死ぬ。そんなものはルートと呼べぬだろう」


 おおう。想像していたより百倍以上やばい道だった。

 山の呪いって、酸素濃度と気圧の話だろうな。そのあたりの説明は、今度ゆっくりしてやろう。俺も先生に習っただけのにわか知識だけどな!


「山のスペシャリストや優秀な冒険者が一〇〇人に一人が生き残れるかもわからないんだ。しかも逃げ戻ってだ。反対側に到達できる者の数など議論にもならん」

「えーと、そのデンジャラスルートが、あの山脈で一番マシと」

「そうだ」


 やばい。想定していた以上の難度だわこれ。


「そこでだ。お前たちはここに行け」


 ヴァンが地図を広げ、山脈の一点を指す。


「ここは?」

「オルトロスに前から聞いていた話なんだが、この一際高い峰の周辺に、ワイバーンが絶対に近づかないらしい。前から一度調査してみたいと思っていた」

「ベイルロード辺境伯に調査は頼まなかったのか?」


 カイルの父ちゃんはワイバーンを駆る竜騎士だ。上空から偵察するくらいできそうなもんだが。


「ワイバーンが近づかない範囲があると言ったろう。それに山の呪いは空にも適用されるそうだ。それを防ぐ魔導具もあるが、効果時間に制限がある。……ベラとジャビールを帝国から連れてくるとき、どれだけ苦労したと思っている」


 聞くだけで大変そうだ。

 ジャビール先生なら、呪いじゃないことは知っていたと思うが……。ああ、対処方法がどのみち魔導具しかないわけか。余計なことは言わなかったんだろう。


「昔、オルトロスに無理をさせたことがある。山脈全体の調査だ。先ほどの地点を除いて、飛び回ってもらった。そのときは新たなルート発見のためだったが、なにもなかったそうだ。山の呪いで草木の一本も生えていない。もしそこに里など見つけていれば、確実に報告されているからな。もっとも穴蔵にでも籠もられていてはどうしようもないが」


 空気もないところを、何度も飛ばさせたのか。たしかに無茶だな。


「ヴァンがここを調べろって理由はわかった。たしかに可能性を考えたら、最初に調べるべきだろう」

「ああ。ところで……」


 ヴァンが俺の後ろを見る。

 控え室にはマイナとペルシアを除いたパーティーメンバーが揃っている。メンバー以外に一人余計な奴がいた。ヴァンの視線はそいつに向いている。


「そのボサボサの女はなんだ?」


 やっぱり気になりますよね!?




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