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239:元冒険者に、レディーの扱いなんてわからないよなって話


 世の中は理不尽で溢れている。

 そう、例えば自分の部屋のベッドで際どい格好の女性が寝ていたり、そのとき俺が下着姿だったり。

 なによりその状況に混乱しているタイミングで、女性陣が飛び込んできたりとかだ。


 俺は世界の理不尽を許さねぇ!


 絶対零度の視線で、リーファンが呟く。


「クラフト君、正座」

「はひ……」


 俺はその場で素直に正座すると、マイナがぽかぽかと俺を叩き始めた。

 みんなの視線が冷たい!

 俺はなにも悪くないのに、逆らえない! ちくしょう!


 理不尽に対抗する力が、俺にはなかったよママン……。


 唯一いつもどおりのリュウコが、寝ている女性を確認している。


「寝ているだけですね、マスターが連れ込んだのですか?」

「違うわっ! 女性を連れ込むとか俺にそんな根性はない!」


 思わず叫んで反論。

 なぜか女性陣の半数が深いため息を盛大に吐き出していた。「ヘタレ」とか聞こえた気もするが幻聴だろう。

 そもそも君たち、女性を連れ込んだ状態に文句言ってたんじゃないの!?


 さて、俺が大声を出したからか、寝ている女性がもぞもぞと動き出す。


「ぐふふ……小生の初めては……安くないんごよ……ぐふふ……んふ?」


 女の子が、寝ぼけたまま上半身を起き上がらせた。リュウコがすぐに彼女の服を整えてくれたので、俺も少し落ち着く。

 前髪のせいで表情は良くわからないが、涎くらい拭け。

 寝ぼけているのか、寝言を言い始める。


「……美少女がいっぱいいるんご……ぬふふ……小生、女の子ハーレムも嫌いじゃないですから……ぬふ……ぐふふ」


 えっと……なに、こいつ?

 新手のヘンタイに背筋が冷えていくのがわかる。


 そこでエヴァが目を見開いた。


「あ。昔見たことがある顔です」

「友達なのか?」

「いえ、名前も思い出せませんが、近づかないようにしていたのを思い出しました」


 とてもわかる気がする。


「良く覚えていませんが、魔力が高く期待されていたのに、ほとんど修行に出てこなかったはずです」

「ダメな同期みたいなもんか」

「あまり認めたくありませんが、だいたいそんな感じです」


 俺たちが話しているあいだに、女の子の方も意識が覚醒してきたのだろう。ようやく寝言が収まってきた。


「今日の追っ手はずいぶん賑やかなりねぇ。ようやく美少女の寝室に男が入ってくるのをやめたっすか。それとも小生の魅力に気づいた美少女の夜這いでやんすか? ぐふふふふふ」


 しゃべり方の安定しない奴だな! 何種類の方言が混じってんだよ!

 それにしても追っ手だと?

 俺がチラリとリュウコに視線を向けただけで、彼女は頷いて部屋を出て行った。さすが察しがいいぜ。


「さて、そろそろ目が覚めたか? なんで人の部屋で寝てたのか説明して欲しいんだが」


 聞きたいことが多すぎて、なにから聞いたもんだか。


「ここは小生の別荘なりよ。……男も交じってたんご。結構好みじゃけぇ」

「なんだろう。あんたに言われたところで、欠片も嬉しくないんだが」

「酷いんご! この超絶美少女に褒められたんごよ!?」


 寝てるときはまだしも、現状のあんたには女性を感じないんだよ!

 マイナが涙目で俺をポカポカしてくるから、ほんとやめてくれないかな!?


「それより、別荘ってどういうことだよ。ここはゲストルームみたいな場所だって聞いてるぞ」

「普段誰もいないんだから、小生が使ってやってるんごよ」

「無断使用の常習者だったよ……」


 なんとなく状況が読めてきたぞ。


「つまり、修行とかお役目とかから逃げ出して、ここに隠れてたってわけだ」

「おー、貴殿なかなか鋭いけぇ」

「誰だってわかるだろうが!」


 この娘と話してると、頭が頭痛で痛くなってくるよ!


 とりあえず、暗殺者とかそういうのじゃなくて良かったが。

 それにしても圧倒的ダメ人間だなこいつ。

 ところでそろそろ正座をやめてもいいかな?


 俺が視線でリーファンに訴えると、ため息交じりに許してくれた。

 立ち上がり、埃を払っていると、彼女の顔がエヴァの方を向いている。


「ん? おたくエヴァじゃあるまいか?」

「ええ、覚えていたんですね」

「まあなー。昔は隠者の立場を争うライバルだったけん」

「私は貴方の名前も覚えていませんけれどね」

「ほあっ!? なんでや!?」

「いえ、修行の場にほとんど来なかったのは貴方じゃないですか」

「天才に努力は似合わないんご!」

「はぁ……そうですか」


 もの凄く疲れた様子をみせるエヴァ。こっちも聞いてるだけで疲れてくるわ!


「ん? あれ? そうすると外からの来客って、おたくなんけ?」

「私たち。ですね」

「つーことは、世界の秘密がわかったんご!?」

「どうでしょう。その話をしに戻ったので。……よく世界の秘密のことを知ってましたね」

「なんてこったぁ! てっきり王国の人間と、島の存在を明らかにするかどうかの話し合いに参加させられるかと思ってたんごよ! 逃げる必要なんてなかったじゃけん! あ、世界の秘密のことは、それに関する研究をしとるんご。そもそも一部には公表しとるなり」


 彼女の会話中、急に部屋の扉が「ばーん」と大きな音を立てて開かれた。

 先ほど祭りで見た、魔術師の集団である。


「人の話を最後まで聞かず自室に引きこもった貴様のせいだろうが!」

「私たちが部屋の外から説明していたのに、脱走したのはそっちでしょう!」

「普段引きこもりのくせして、こういうときだけ機敏に動きやがって!」


 怒り心頭のご様子だ。

 状況を整理すると、魔術師たちが、この変態女に俺たちと会わせようとしたら、自室に引きこもり、おそらく鍵を突破してるあいだに逃亡。ゲストルームのバンバローに隠れていたと。


「騒がせてすまない。事情は後日説明するので、そこのだらしない女はこちらで引き取らせてもらう」

「ぜひお願いします」

「話が早くて助かる」


 言うが早いか、魔術師の男性が、だらしない女を肩に担ぐ。


「ちょっ!? この扱いはレディーに対して失礼なりよ!?」

「貴様に発情するような、特殊な趣味のものは我らにはおらん!」

「荷物みたいな扱いには、断固たる抗議をぉぉぉぉぉぉっ……」


 風のようにやってきた彼らは、変態の叫びを残して、風のように去って行ったのであった。


「嵐が過ぎ去ったような疲労感だぜ」

「同感ですね」


 俺だけでなく、エヴァも心底疲れた様子である。


「とりあえず、誤解は解けたみたいだし、寝てもいいかな?」

「たしかに疲れましたね。話は明日にしましょうか」

「そうしてくれると助かる」


 そんなわけで、俺たちは床につくのであった。

 ……明日また会うんだろうなぁ、あのだらしない人。


 ◆


 次の日、さっそくエヴァの師匠であるパラディオ老に呼び出される。

 魔術師風の老人たちに囲まれたが、その中には昨日の変態女も普通にいた。


 パラディオが疲れた様子で話し出す。


「昨夜の騒ぎは聞いた。迷惑を掛けたようだな」

「いや、まあ、その」

「本来なら、この大事な話し合いに同席させたくはないのだが、これでいて有能なのだ」

「はぁ」

「色々と思うところはあると思うが、理解いて欲しい」

「まぁ、構いませんよ」

「助かる。それで早速なのだが……エヴァ」

「はい。世界の秘密……それは世界樹が鍵をにぎっていると思われます」


 パラディオがちらりと変態女に視線を向ける。


「なるほど。リリリリーと同じ結論か」


 どうやら彼女の名前はリリリリーと言うらしい。

 ってええ!?

 この残念な人もそこに行き着いたの!?


 声は出していないが、エヴァも驚愕の表情を浮かべていた。

 うん。気持ちはわかる。


 パラディオが小さく頷く。


「なるほど。たしかに我ら隠者は、世界の秘密には世界樹が大きく関わっていると考えている、が。それだけか?」


 エヴァが俺を横目でちらりと見る。わかってる。

 俺は空間収納から、厳重に封印された宝箱を取り出し、蓋を開けた。


 中身を見たパラディオや老人……たぶん隠者と呼ばれている人たちだろうが、目を見開いて固まり、リリリリーが身を乗り出して叫ぶ。


「まかさ! 世界樹とか言わんじゃけんな!?」


 そのまかさ……まさかです。変質してるけどね。

 こうして話し合いは、初っぱなからヒートアップするのであった。


 リーファンがポツリと呟く。


「なんでクラフト君が絡むと、問題が大きくなるのかな? かな?」


 俺のせいじゃないですよね!?




コミカライズ版クビ錬金⑥巻が11月7日に発売されますー

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― 新着の感想 ―
[一言] とりあえずリリリなんとかさんには、まず拳骨一発頭に落とさにゃ。
[一言] とりあえずリリリなんとかさんには、まず拳骨一発頭に落とさにゃ。
[一言] マイナが涙目・・・採取しなきゃ(使命感
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