226:旅の移動は、考えなきゃなって話
ダウジングティアドロップで示される方角は、目的地までの直線を示す。
つまり、街道など考慮されるわけもない。
俺たちはヴァンから借りた地図とにらめっこしながら、行く道を決めるのだが、漠然とした方角だけしかわからないので、なかなか悩みどころだ。
せめて目的地までの距離がわかればいいのだが、かなり遠いことしかわからない。
「とりあえずは、大きめの街道を進もう」
王都を囲むようにいくつもの貴族が配置されている。
王都周辺の安全は、この貴族たちによって担保されていると国王ヴァンが教えてくれた。
これら、王都に隣接している領地は、王国内でも発言力のある優良貴族とのこと。ちなみにカイルの父親であるベイルロード辺境伯もその一つだ。
とにかくその隣接貴族領地を抜けるあたりまでは、大まかな当たりをつけ、街道を旅していたこともあり、拍子抜けするほど何もない旅が続いている。
「うーん。王都から、隣接貴族領地を抜けるまで二日か。結構かかったな」
俺の呟きに、ジタローが答える。
「街道が整備されてなかったっすからねー」
「地形の関係で蛇行してたってのもあるかもな」
俺たちの会話に、リーファンが呆れたように突っ込みを入れてきた。
「二人とも……ゴールデンドーンに慣れすぎだよ」
それに賛同するノブナ。
ミズホ武士であり、オンミョウ術を使う彼女は、動きやすそうなミズホの鎧を身にまとっている。
「そうなのよ。ミズホの二足鳥が世界一だと思っていたけど、ゴールデンドーンの馬が異常過ぎるのよ」
彼女に追随するのはチヨメ。
忍者とかシノビとかくノ一と呼ばれる特殊な諜報部員だが、戦闘も得意な彼女は、少し目のやり場に迷うような刺激的な服装をしている。
「普通に歩いたら、十日はかかる距離ナリよ」
俺はチヨメの特定箇所に目が行かないよう注意しつつ、二人に答える。
「確かにエリクシル領の馬は良馬だと思うけど、ノブナとチヨメの乗ってる二足鳥も遅れてなかったじゃないか」
「交流が始まって、すぐに御三家用の飼育が始まったからなのよ。あたしの愛鳥がここまで飛び抜けるとは思わなかったのよ」
今回のメンバーは、それぞれ移動用の動物を連れている。
俺は愛馬ブラックドラゴン号。ジタローは愛ポニーのスーパージェット号。
マイナは連れていないが、護衛のポンコツ騎士であるペルシアの二足鳥テバサキ号に同乗。俺の馬に乗ることも多いが。
そして俺のブラックドラゴン号が牽く荷車。主にジャビール先生とリュウコが搭乗する。
本当ならマイナとジャビール先生のためなのだが、最近活発になったマイナが馬車で大人しくしているはずもなし。
荷車には生活用品を一式乗せてあるので、全員が必要な物をそこからすぐに取り出せる形である。
リーファンはゴールデンドーンで育てていた馬の中で一番立派なのを準備してもらった。一応レンタル扱いなので、無事に連れ帰れたら返却である。
ジャスパー姉妹は護衛なので、徒歩と馬車が半々の予定だったが、予定より行軍速度が速いらしく、ほとんどが馬車になっていた。
リーファンのレンタル馬を借りて交代したりしている。
ミズホ組の二人はそれぞれ二足鳥を連れていた。どちらもミズホ神国と交流が始まってすぐにスタミナポーションを使ったそうで、今ではミズホでもトップクラスの名馬……名鳥となっているらしい。
「それでもテバサキ号には敵わないのよ」
ノブナのセリフに、ペルシアがドヤ顔を見せる。
「ふふふ。こう見えても私は獣騎兵の紋章もちだからな。育てるのも上手いのさ」
不思議そうにチヨメがペルシアに顔を向ける。
「調教師や猛獣使いとは違うナリか?」
「知らん」
「……」
なぜ自信満々にそんな返事ができるのやら。
見てられないと思ったのか、ジャビール先生が割って入ってきた。
「あー、紋章官のゲネリス殿に皆の紋章のことを、ある程度聞いておいたのじゃが……」
ジャビール先生が、決意したような、呆れたような視線を俺たちに向ける。
(私がしっかりしなくてはいけないのじゃ。そもそもこういうのはパーティーの魔術師である、エヴァ殿か馬鹿弟子の役目なのじゃが……)
一瞬黙り込む先生だったが、咳払いして続けた。
「ごほん。獣騎兵の紋章は、紋章調教師の上位でかなりレアだそうなのじゃ。もっとも上位紋章自体がレアじゃから、世界でも数人しか発現しておらんじゃろうの」
俺はなるほどと頷くと、先生は満足したようにさらに続ける。
「獣騎兵の能力は、調教師の能力である動物や魔物の育成が一つと……」
ん? 育成? 魔物を?
俺は思わず疑問を口に出していた。
「え? 魔物の育成ですか? 魔物って問答無用で人間を襲ってきますよね。一部の賢い魔物なんかは、無謀な戦闘を避けたりもしますが、基本的に敵対しますよね?」
「ふむ。貴様の言うことは概ね正しいのじゃ。じゃが調教師が魔物を卵や幼少期から育てた場合は別なのじゃ……なんなのじゃその間抜けな顔は」
そりゃあ驚くだろう。冒険者の常識が崩れる。
「え! いえ、だって冒険者の間じゃ、魔物から卵を奪ったら、スタンピードを引き起こす可能性があるからって」
ケンダール四兄妹が、コカトリスの卵をゴールデンドーンに持ち帰った事件を思い出す。
「そんな馬鹿な話があるわけないのじゃ。卵を盗み出そうとして魔物に見つかった冒険者どもが大げさに吹いておるだけではないのか?」
言われてみると、冒険者は失敗を大げさに語ったりするものだ。
「そういえば、ケンダールのコカトリス卵事件のときも、冒険者ギルドは即答で問題がないと断言してたな。もしかして、似た例がいくつもあるのか?」
「そもそも魔物は人間を見たらすぐに襲ってくるのじゃ。卵の持ち出しを見られたら普通に怒り心頭で追っかけるのではないのかのう。それをスタンピードと勘違いしておるのではないかの」
言われてみれば、思い当たる節が色々とあった。
「……ありうる」
「ベイルロード辺境伯が駆るワイバーンなどは、卵の盗みだしと育成の両方が難しいからこそ、国の切り札たる騎獣となっているわけなのじゃ」
たしかにワイバーンも魔物だが、カイルパパは乗りこなしていた。
「ワイバーンの群れがスタンピードなんて起こしたら、国が滅んでてもおかしくないですもんね」
「その通り。話が逸れたのじゃ。調教師の育成能力に加えて、躾けられたか躾けた動物や魔物に騎乗することで、騎馬と騎手の能力を跳ね上げるそうなのじゃ。周囲の味方にも影響があるらしいのじゃが、その辺は良くわからんらしいのじゃ」
それまで黙って聞いていたペルシアが、嬉しそうに声を上げる。
「ほう! 自分だけでなくまわりにも!」
「おいこら、へっぽこ騎士! 自分の能力だろ!?」
「仕方なかろう、親衛騎士団でも誰も持っていない能力なのだから。誰に教われと言うのだ? それと誰がへっぽこだ!」
俺とペルシアがぎゃーぎゃーと騒ぎ合っているのを、先生は呆れたように見ながら、内心で突っ込んでいたらしい。
(たしかオルトロスが持つ竜騎士の紋章は、ドラゴン特化の獣騎兵と同系統なはずじゃが、領主に相談するわけにもいかんのじゃ)
ペルシアは俺を剣で黙らせると全員の動物たちに声を上げた。
「ふむ。とりあえず考えるより試す! 貴様たち! 全員整列!」
ブラックドラゴン号を始め、全ての騎獣が軍隊の様にビシッと整列する。
「お、おお!」
「よし! 全員常足! いいぞ! 次は速歩! お前たち素晴らしいぞ! 次、駈足! 見事! 最後に襲歩! おお! お前たちに追いつけるものなどいないだろう!」
整列したまま隊列を崩さず、ゆっくりと歩き、号令と同時にどんどんと速さを上げていく騎獣たちは圧巻だった。
「いや、スゲえけど、出来るなら最初からやれ! 道中もう少し楽だったろう!」
「ふ。日々成長する女と呼んでくれて構わないぞ」
「話を聞け!」
マイナが喜んでるからいいか。
そんなこんなで旅路が少しペースアップしたのである。
「ペルシアの姉御はドジっ子属性っすね!」
「ただのへっぽこだろ」
「たたっ切るぞ」
ペルシアは地獄耳でもあった。
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サブタイトル、へっぽこを強調するか悩んだのは内緒だ