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218/265

218:諦めたら、それで終了だよなって話


 アルファードは、何度もベラの死を確認する。

 魔族のしぶとさは嫌というほど理解していたから、徹底的にだ。今度こそ間違いなく死んだと確信してから、カイルに走り出す。


「マリリン! カイル様の容態は!?」


 マリリンは振り向きもせず、両手をカイルに当て、大量の魔力を注ぎこんでいる。


「……! ちょっと黙っててくださぁい! ”神息聖界””高速重傷治癒””御霊福音”……お願い、効いてぇ!」

「ぐっ……!」


 すでにありったけのポーションも使いつくし、なにも出来ないアルファードが苛立つ。


 念入りに魔族が死んだかを確認したレイドックが、走り寄ってきたかと思うと、寝ているクラフトの胸ぐらを掴んで持ち上げた。


「クラフト! 起きろ! なんかすげぇ回復の薬を出してくれ!」


 それを邪魔するようにエヴァがクラフトを奪い、大事に抱えながら叫ぶ。


「だめぇ! レイドック! 傷が治ってるのに意識が戻らないのは、貴方が考えているより重症だからよ! 安静にさせないとクラフトが……クラフトが死んじゃう!」

「なにっ!? クソッ! ジャビールさんを連れてくる!」


 レイドックは舌打ちの後、城に向かって矢のように走り出した。


 エヴァが強く強くクラフトの手を握りしめる。


「クラフト……意識を強く持って……。マリリンの魔法でも目覚めないってことは、今まさに死んでもおかしくないの。だから……だから……」


 カイルのまわりには、アルファードを含めた人だかりが出来ていた。


「医者を……いや、ジャビールを!」

「もうレイドックが向かってます!」


 なにもできなくて苛立つアルファードに、聖騎士隊員が走り寄ってくる。


「アルファード隊長! 陛下がいらっしゃいました!」

「なに!?」


 なんと、ジャビールを抱えながら、ヴァインデック国王が走り寄ってきていたのだ。すぐ後ろをレイドックも追ってる。

 どうやら途中で合流して一緒に戻ってきたらしい。


 全員が目を合わせただけで挨拶もせずに動き出す。

 やや乱暴に地面へ下ろされたジャビールがカイルに飛びつき、様々なポーションを試したあと、念入りにカイルの身体を調べる。

 そして。


「……残念なのじゃ」


 ぼそりと、零す。


「なっ!? 馬鹿な! ジャビール殿! もっと良く診てください! カイル様は……カイル様は!」

「落ち着くのじゃ、アルファード殿。ポーションも回復魔法も効かない理由は……お主も良くわかっておるじゃろう?」

「しかし、しかし!」


「肉体に魂が……魂と呼ばれるものがなければ、それは人とは言えないのじゃ。このまま無理をすれば、死霊となりかねないのじゃぞ」


 言い争う二人に、ヴァインデックが割って入る。


「ジャビール。コレを試して見ろ」


 手渡したのは小瓶。


「これは、エリクサーではないか! しかしなのじゃ……」

「構わん。使え。これは命令だ」

「わかったのじゃ」


 ジャビールがエリクサーを指にすくい、胸に空いたの大穴へと塗っていく。見た目は幼女のジャビールだが、高名な医者なのでカイルの惨状にひるんだりはしない。


 しばし時間が流れる。


「陛下。残念じゃが……」


 ジャビールがゆっくりと立ち上がり、国王に向かって首を横に振る。だが、それを遮るように、アルファードが叫びを上げた。


「見ろ! 少しずつだが傷が塞がっていくぞ!」

「なんじゃと!?」


 慌てて振り返るジャビール。確かにカイルの肉体は、ゆっくりではあるが癒えていくのがわかった。


「信じられんのじゃ! 死んだあとに回復が始まるとはの……」

「カイル様は死んでおられん!」


 アルファードの叫びに、マリリンが震えて言い返す。


「でも、でもぉ。脈も呼吸も戻らないんですぅ~」

「どういうことだ!?」

「落ち着くのじゃアルファード殿! ぬう。しかし、これは、まさか……」


 顎に手を当て、思考に沈むジャビール。


「ジャビール。なにか思いついたならなんでも構わん。やれ」

「無駄足になるかもしれんのじゃぞ?」

「今カイルを失うわけにはいかん。わずかでも可能性があるなら、なんでも試せ」

「わかったのじゃ。マリリン殿。力を貸して欲しいのじゃ」

「私で出来ることならぁ~」

「うむ。では――」


 ジャビールの指示で、マリリンが魔法をカイルに掛けた。

 全員が奇跡を願って、希望をつなぐために。


 ◆


 アルファードはそこまで語ったあと、ゆっくりと腕を組んだ。


 俺は偉いさんだらけの会議室だというのに、机を蹴り飛ばす勢いで立ち上がりながら、思わず叫ぶ。


「それで! カイルは! 治ったんだよな!?」


 ため息交じりで、ジャビール先生が軽く手を振る。


「落ち着くのじゃ、クラフト。カイル様なら奥の部屋におられる」


 奥の部屋に? なんだ、驚かすなよ!

 俺は安堵の息を吐いた。


「なんだ……良かったよ」

「まったく良くはないのじゃ」


 緩く首を振るジャビールを、まじまじと見返してしまう。


「……え?」

「ジャビール。クラフトに見せてこい」

「承知なのじゃ。クラフト。ついてくるのじゃ」

「え? ああ、はい」


 エリクサーと魔法で治ったんだよ、な?

 俺は不安を拭えないまま、ジャビール先生のあとに続く。長い廊下の奥に、一際頑丈な扉が見える。

 そこを守っている聖騎士隊員が俺たちに気づくと、一礼してから、扉を開けてくれた。


 部屋はさほど大きくはなかった。薄暗く、ランプの明かりも頼りない。なにより殺風景すぎた。


 心臓がバクバクとうるさい。

 部屋の中央にベッド……いや、石製の大きな台があった。そして、そこに、氷の塊が置かれている。


「……カイル」


 俺はそっと氷に触れる。

 そう。氷の中に、カイルが閉じ込められていたのだ。


 すでに怒りもなにも出てこない。心が空っぽになりそうだった。


「カイル様は、マリリンの魔法によって、封印されておるのじゃ」

「封印……ですか?」

「うむ。我ら錬金術師は、人に魂があるのかどうかすら解明しておらん。じゃが、そういったなにか(・・・)があるのは間違いないと思っておるのじゃ」

「……はい」


 魂、人、肉体、死。

 確かに俺たちはなにもわかっていない。

 魂の抜けた死体は、死霊やゾンビになると言われているが、明確に解明した者はいない。状況判断的に間違いはないだろうが。


「回復魔法やポーションは、死んだ者には効かぬと言うのが定説じゃが、エリクサーだけは効いたのじゃ」

「ええ」

「つまり、まだ魂は残っておると判断したのじゃ」

「それじゃあ!」


 急に身体が熱くなる俺を、先生が手で制する。


「いくら調べても、生きていると言える反応は残っておらんかった。じゃから私はこう仮定したのじゃ」


 ピッと指を立てる。


「肉体は限りなく死に近いが、魂がかろうじて残っている状態じゃとな」

「それは、つまり?」

「このような話を聞いたことはないか? 肉体の大半が崩壊し封印されていた邪神や魔族が復活した……なんていう伝承は各地に残っておるのじゃ」

「よくある昔話というか、おとぎ話というか」

「マリリン殿に使ってもらった魔法は、邪神と言われるような凶悪な魔物を封印する魔法なのじゃ」


 ジャビール先生が「自分で頼んでおいてなんじゃが、まさか本当に封印魔法が使えるとは思ってもいなかったのじゃ」と呟いている。

 自分の感想を俺に伝える意味がないと、漏れ出しただけっぽい。


 俺はだんだん先生の言いたいことがわかってきた。

 肉体が滅びかけている邪神。封印されていたが復活。それはカイルの状態に近いと考えれば。


 ジャビール先生が俺の腰をべしっと叩いた。


「貴様、黄泉がえりの薬を作れる可能性があると言っておったじゃろ。私たちは、それに賭けることにしたのじゃ」


 黄泉がえりのポーション!


「クラフト! 貴様はなんとしても作り上げるのじゃ! 錬金術の到達点! 黄泉がえりの秘薬! ユグドラシル=ソーマを!」




本日!

2023年4月28日、クビ錬金7巻発売です!

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― 新着の感想 ―
[良い点] あ~、良かった。 カイルくん死亡の展開だと逆に作品に深みも出そうだけど、、、助かって良かった。
[一言] カイルやべぇってなってる時にこれ気にするのどうなの?って話かもしれないけど、レイドックのこと呼び捨てにしてまで取り乱してクラフトのこと心配してるエヴァ見ていつかくっついてくれないかなって思っ…
[一言] 半分になっても生えてくるエリクサーでもダメだったのか……
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