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182/265

182:開拓は、土と水と石と魔物の戦いって話


 湿地の開拓村に到着したら、巨乳に押し倒された。

 イマココ。


「……」


 ちょっ!?

 なんかエヴァがものすごく冷たい眼で俺を見下すんだけど!?

 それよりシュルルをどかして、俺を起こして!


「羨ましいっす! 羨ましいっす!」

「いいから助けろ! お願いシュルル! 俺の上からどいて!」

「えー? 久々なのにー……」


 俺の腹にまたがったまま、不満顔を見せるシュルル。

 誰も助けてくれない、神は死んだのか!?

 俺が天を仰ごうとすると、誰かの影が横に立つ。


「……シュルル。失礼が過ぎる。降りなさい。それと言葉遣い」


 呆れたような、ため息交じりの声に顔を向けると、そこには一際強そうなリザードマンが額に手を当てて立っていた。


「ジュララ!」


 貴方が救世主か!


「よく来てくれたな、クラフト殿」


 隆々とした筋肉と鱗に覆われた、二足歩行の爬虫類型亜人である、リザードマンのジュララがシュルルを押しのけて、俺を起こしてくれる。

 シュルルの見た目はほとんど人間なのだが、ジュララの見た目はほとんどトカゲだ。トカゲって言うと不機嫌になるから言わないが。


 とにかく、リザードマンの戦士で、シュルルの兄であるジュララに俺は助けられた。

 惚れたぜ! 掘られてもいい! いいわけねぇだろ!


 脳内一人ボケ突っ込みを終わらせ、にこやかにジュララと向き合う。


「久しぶりだな。元気だったか?」

「ああ。体調的には最高だ」


 漢同士の固い握手を交わしていると、シュルルが間に割り込んできた。


「ちょっとぉ! クラフト様ぁ! 私も久しぶりですよぉ!」

「言葉遣い!」

「うひゃい!」


 再びジュララに怒られ、シュルルがぴょんと一歩下がる。兄に睨まれようやく落ち着きを取り戻してくれた。


「早速だが、詳細を教えてくれ。カイルからある程度は聞いているんだが」

「わかった」


 改めて説明を聞いたが、基本的にはカイルに聞いたとおりだった。

 俺は頭の中で、最初から整理していく。


 まず、リザードマン一族がゴールデンドーンへの移住を決めた。

 とはいえ、沼地や湿地を好む種族なので、開墾途中の湿地帯に用心棒をかねた村作りを進める。

 それはリザードマンたちが永住するためでもあるし、カイルに恩を返すためでもある。


 元々この広大な湿地帯は、カイルがヒュドラ天国となっていた一帯を、巨大な稲作地域に開墾すると決めた土地である。

 たくさんのトラブルもあったが、俺たちは湿地帯のヌシを倒し、湿地帯を手に入れた。


 ヌシがいなくなったことで、ある程度の安全が確保出来た。はずだった。

 しかし、湿地帯の開拓は想像より困難を極めることになる。


 まず、その広さだ。地方の領地くらいの面積があることが、作業の障害となる。

 これが草原や森ならば、もっと作業は楽だったのだが、湿地という地形がそれを阻む。

 もっとも、湿地帯だからこそ、水田として開発できるわけだが。


 俺はそこで、リーファンの言葉を思い出し、思考を一度切る。


「そういえば、リーファンが言ってたな。開拓は土と水と石と魔物の戦いだって」


 俺の独り言をエヴァが拾う。


「それは、言い得て妙ですね。たしかに問題が起きるときは必ずそのどれかが関わっていました」

「確かに、最低でもどれか一つは必ず問題に絡んでた」

「今まで全ての問題を解決してきたのですから、これからもなんとかなりますよ」


 俺はチラリとエヴァに視線を向ける。

 どうやら、彼女なりの激励らしいと気づき、俺はニヤリと笑ったが、エヴァは冷たい視線を向けたあと、顔を逸らしてしまった。

 ……嫌われてるわけじゃないよね?


 俺は気を取り直して、思考を再開する。


 ゴールデンドーンにやってくる移住希望者はたくさんいるが、そのほとんどはリーファン町かゴールデンドーンでの仕事を望んでいる。

 そりゃ、主街道から遠く離れた湿地帯の村に来たがるやつは少ない。


 だから、開拓民がなかなか集まらないという問題も発生した。


 リザードマンの村と、湿地の開拓村は別の村である。

 なので、人間側の開拓村には、リザードマンの戦士と冒険者が派遣され、防衛することになった。


 それで安全を確保し、ようやく移住者も増え始めていたのだが、再び湿地帯に魔物が増え、応援を要請したのが、今回の顛末である。


「なるほど」


 ジュララの説明と、カイルに見せてもらった報告書に齟齬はない。リザードマンたちを信用しているからこその確認作業である。


 よく、信用しているなら確認などいらないだろう、とのたまう馬鹿がいるが、それは全く逆だ。信用しているからこそ、安心して調査も確認も出来るのだ。

 どちらかというと、亜人差別をする人間に対する、信用証明を普段から集めておく印象である。


 ゴールデンドーン……エリクシル領内において亜人差別はほとんどなくなっているが、忌避感があるものもまだいるし、新しく移住してくるものの中には、頭ごなしに亜人を差別するものもいるのだ。

 今回の湿地帯開拓の遅れも、そのような者たちの攻撃材料になりかねないことから、カイルは俺たちを派遣している。


 ……まぁ、ゴールデンドーンに半年も暮らせば、そんな考え吹き飛ぶ奴が大半ではあるんだけどな。


 そしてそのことを理解しているリザードマンたちは、開拓に全力を尽くしてくれている。それにも関わらず、問題を解決し切れないのだから、いったいどれだけ大きな問題なのか。


「それで、魔物の量はどのくらい――」


 ジュララに魔物の襲来頻度を聞こうとしたところで、視界の隅に砂埃が舞った。


「ちっ! またか!」


 ジュララが振り向きながら、槍を構える。

 もちろん俺たちも同時に戦闘態勢だ。


「「”遠見”」」


 俺とエヴァが同時に遠見の魔法を発動。

 どうやら、森の中から、ひらけた湿地に、魔物の一団がのそりと出てきたようだ。

 先ほど砂煙が上がったのは、巨大な魔物が、大木をへし折ったかららしい。


 ジュララが舌打ちする。


「ちぃ! また、アーマードベアの集団か!」


 その声に、俺は思わず目を見張り、遠見の精度を上げ、しっかりと魔物の姿を捉える。


「なんだって? 王国にはほとんど生息してないって聞いてるが!?」


 ぱっと見、鎧を着込んだ巨大な熊がいた。

 だが、間違っても野生動物の熊などではない。

 額からは両手剣に似た鋭い角が生え、両手には、爪と言うには凶悪過ぎる、これまた剣の様な営利な爪が生えている。

 冒険者ギルドで昔聞いた話だと、サイクロプスよりもキマイラよりも強く、一匹でも絶望的だが、群れに見つかったら死は免れないらしい。


「ジュララの口ぶりだと、今回が初めてって訳じゃなさそうだな」

「ああ。アーマドベアだけじゃない。オーク、ゴブリン、オーガ、サイクロプス、ヒュドラにキマイラ。魔物の見本市の有様だ。湿地の守護を任されたというのに……不甲斐ない」


 いくらリザードマンが優秀な戦士で、かつスタミナポーションの原液がぶのみで作業と戦闘と訓練をしているとはいえ、まともに相手になる戦力ではない。


「全然不甲斐なくなんてねーよ! むしろよく少人数のリザードマンだけで二つの村を守ってくれた!」

「だが……」


 表情を歪め、言葉を続けようとするジュララの肩を、レイドックがぽんと叩いた。


「あとは俺たちに任せとけ。とりあえずは、あいつらの掃除だな」


 アーマードベアの群れは二十匹ほどか。

 これが熊なら、俺たち人間に気づけばむしろ逃げていくのだろうが、そこは魔物共通の反応。「人間を見つけたら襲いかかってくる」の法則通り、こちらに気づくと、水しぶきを上げながら突進してきた。




ね……寝落ちしてた……orz

変な時間の更新すまぬ

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― 新着の感想 ―
[誤字]営利→鋭利な爪
[気になる点] 大河の橋の建設は本来国家的大事業なので完成したらその様子とド派手な完成式典もありますよね。  本州四国連絡橋をバイクで通行したことがありますが「こんな巨大なものを人が作ることができると…
[一言] ヒュドラの餌になってたのかヒュドラを餌にしてたのか知らんが 生態系が変われば生息域変更による新しい縄張り争いが始まるわなあ ダンジョンとかあったっけ?そうでなければ どっからそんな数来るねん…
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