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177/265

177:無い物ねだりは、人の性だよなって話


「それじゃあ仕上げちまうか」

「うん!」


 倉庫のような建物に設置されたのは、もちろん転移門だ。

 すでに王国側……ゴールデンドーンに対になる門は設置済みである。ミズホ神国に転移門を設置するかどうかの判断は、カイルに一任されていた。

 ゴールデンドーン側の転移門は、すでに専用の建物内に設置されているので、セキュリティー的な問題もクリアしている。


 カイルはミズホ神国との貿易を、人類一致団結の第一歩と位置づけたようで、早急に設置することを決めたのだ。


 俺は錬金術式の魔法で、転移門を仕上げる。


「最終テストだね!」


 頷きながら、通信の魔導具を起動し、アルファードにつなぐ。

 転移門を繋げることは、昨夜のうちに連絡済みなので、すぐに反応があった。


『クラフトか。こちらの準備は完了しているぞ。カイル様の様子はどうだ?』

「昨日も聞いただろ、いつも通りだよ」

『カイル様はずっとお身体が弱かったのだぞ!? 万一がいつ起こるかわからんではないか!』


 エリクサーのおかげで、完全に健康体だっつーの。むしろ日々逞しくなっとるわい。


「わかったわかった。元気にサムライ共とやりあってるから安心しろ」

『なんだと!? 貴様! カイル様になにをさせている!?』

「え? なんで怒られてるの?」

『カイル様に剣を持たせて相手をさせているのだろうが!』

「アホか! 想像力が逞しすぎるわ!」


 過保護すぎて、想像がぶっ飛びすぎだ!


「ミズホの重鎮たちを待たせてるから、さっさとテストするぞ!」

『本当に大丈夫なのだろうな?』

「心配ならこっちに直接来て確認すりゃいいだろ!」

『そうだな! すぐにつなぐぞ!』


 カイルに会える喜びで、すぐに魔石をセットし、転移門を起動するアルファード。

 まったく。通信の魔導具で視界共有してるんだから、カイルの様子は毎晩確認してるだろうに……。


 こちらも魔石をセットし、転移門をつなげると、すぐさまアルファードが門から飛び出してきた。

 ……お前はゴールデンドーンの責任者だろう。

 いや違う。責任者はザイード兄ちゃんか。だからいいのか?


「防衛責任者が、他国に来ていいのかよ」

「カイル様のお顔を確認したら、すぐ戻る」

「さよか」


 ほんと、アルファードとペルシアはカイルのことが好きすぎるだろ。俺も人のことは言えないが、ここまで過保護じゃないからな。


 口に出さなかったのに、リーファンは眠たそうな視線を向けてきた。


「クラフト君も大概だからね?」


 俺は肩をすくめることで応えながら、建物の扉を開ける。


「お待たせしました。転移門の設置が完了いたしました」

「おお! 待っていたぞ!」


 シンゲンが危険の確認もせずに、建物の中にずかずかと踏み込む。


「ずいぶんと大きいのだな」

「馬車が通れるサイズになっていますから」

「ふむ……ん? 貴殿は?」


 シンゲンがアルファードに顔を向ける。そりゃ、建物には俺とリーファンしかいなかったんだから、驚くだろう。例え頭では転移門を設置していると理解していてもだ。


「お初にお目にかかります! 私はエリクシル開拓伯領、聖騎士隊隊長を任されている、アルファード・プロミスと申します!」

「ほう? カイル殿の懐刀と言う訳か。いい目をしているな」

「ありがとうございます!」


 アルファードには、サムライたちの容姿は説明してあったので、すぐに将軍とわかったようだ。

 ……まぁ、隻眼で髭で筋肉ダルマで、カイルより先に部屋に入ってくるのだから、間違えようもない。


 ハンベエがチラリとアルファードに視線をやり、ぼそりと零す。


「なるほど。すでに転移門はつながっていて、そちらからお越しになったと」

「はっ!」

「では早速ワシも!」

「父上!?」


 ハンベエが止める間もなく、シンゲンが転移門へと消えた。

 段取りがめちゃくちゃである。


「……はっ!? クラフト兄様! アルファード! 一緒に!」


 呆けていたカイルが、慌てて自分も転移門をくぐる。俺とアルファードも慌てて追いかけた。


「ぐわはははははははは! 本当に……本当に別の地に立っておるぞ!」


 ゴールデンドーン側に待機していた、アルファードの部下である聖騎士隊が、一人だけで現れた偉丈夫に困惑している。

 不審者として捕まえるべき状況だが、今日は他国の重鎮がやってくることも理解しているので、動くに動けなくなっているのだろう。


 カイルが飛び出し、慌てて聖騎士隊を制止すると、騎士たちは安堵を見せた。

 俺とアルファードだけでなく、ハンベエ、カゲタカ、マサムネも続く。


「父上! 他国に招かれているのですぞ!? 勝手は困りまする!」

「おお、すまんすまん。ぐわははははは!」

「笑って誤魔化さないでください!」


 やべぇ。こいつ絶対ヴァンと同類だわ。

 ミズホのサムライたちが、改めてまわりを見渡す。

 転移門がすっぽり収まる建物には、門より一回り巨大な両開きの扉があり、大きく開け放たれている。


 門の外は大きな広場となっていて、厩舎も並んでいる。建物と広場は錬金硬化岩の壁で囲われていて、さきほどと同じ造りをした両開きの門が、出入り口として設置されている。こっちは閉じられていた。


 カイルがミズホ代表の前に立つ。


「あの門の外を少し進めば、ゴールデンドーンとなります。本日はこの壁より外には出ないようお願いします」


 注意事項を述べるが、彼らの耳に届いているかどうか……。

 サムライたちの視線は、一点に注がれていた。


 ゴールデンドーン。


 広大な市壁と、頑丈な城壁。そして壮麗にして威容を誇る城。

 それだけではない。市壁と変わらぬ高さの集合住宅が、タケノコのようににょきにょきと生えている。

 初めて見る者は、必ず言葉を失うが、彼らも例外ではなかったようだ。


「なんだ……あの……砦は……」

「要塞……なんて言葉では生ぬるすぎまするな」

「げ、幻術ではないか!? 王国が我らを脅すための!」

「カゲタカ……これから貿易をするのだ。今我らを騙すことになんの意味がある?」

「ぅぐ……」


 貿易が始まれば、いくらでもゴールデンドーン市内に行ける。ハンベエの言うとおり、ここで騙す意味などない。まぁ、現実味のない巨大都市であるのは認めるが。


 カイルが小さく咳払いをし、襟を正す。


「話を続けますね。この広場で荷物の検閲を行い、問題がなければ正門から出ていただき、皆様が見ているゴールデンドーンに向かってもらうことになります。ミズホ神国側にも、同様の検閲広場を準備していただきたいと思っています」


 さすがに国をまたいだ貿易となるので、税を取らなくても、お互いに検閲しないわけにはいかない。


「ふむ。壁で囲った広場を作れば良いのだな」

「はい。必要であれば、錬金硬化岩を用意いたしますが?」

「いや、この程度の広さであれば、石垣ですぐに準備出来る」

「わかりました。完成予定日がわかれば、その日に合わせて本格稼働いたしましょう。それまではテストを繰り返す予定です。転移門がつながって開いている状態になると、魔石の消耗が激しくなりますが、当面は王国が負担致します。貿易が本格化したら、ミズホ側で用意していただくか、購入していただきます」


 カイルが転移門に設置されている魔石を示す。


「どの程度の魔石だ?」

「サイクロプス級の魔石で一時間ほどでしょうか? サイズや質にもよりますが」

「ふむ。それならば我が国で賄えるな。できるだけ準備をしておこう」

「ありがとうございます」

「父上。壁と門だけならば、急がせて数日で完成できまする。十日後に本格運用を始めては?」

「うむ。お前が出来るというなら、そうしよう」


 どうやらハンベエは一刻も早く、貿易を開始したいようだ。気持ちはわかる。こちらとしても、塩や新鮮な魚介類は大歓迎なので、早い分にはありがたい。


「それでは十日後で予定を立てましょう。式典などはいかがしますか?」

「当面はお互いに、指定した商人だけを使った方が良かろう。問題点を洗い出してからでないと、怖くて一般公開なぞ出来ぬ」


 シンゲンの爺さん、武力だけでなく、頭も回るらしい。


「わかりました。こちらも人選を進めておきます」

「うむ」


 カイル、こっちの商人はアキンドーに丸投げでよろ!


「しかし……」


 シンゲンが髭を撫でる。


「あの巨大都市といい、蒸発薬といい、硬化岩といい、転移門といい、オリハルコンといい、ずいぶんと便利なものを、王国は秘匿していたものよ」


 カイルは笑って返す。


「違いますよ、シンゲン様。秘匿していたのではなく、おっしゃった全ての技術は、この一年の間に、そこにいる錬金術師のクラフトさんが生み出したのです」


 ちょっ!? カイルさん!?


「ほう……この全てを?」

「はい! 他に伝説品質のスタミナポーションや、ヒールポーションなども量産しています。また技術の普及にも熱心で、私が尊敬しているお方なのです!」

「ほうほう……天下一の錬金術師、というわけか。素晴らしいな」

「はい! クラフトに……さんは素晴らしいのです!」


 待って、カイル!

 三人のサムライが、獲物を見つけたオーガみたいな目で俺を見てるの! 気づいて!


 俺はこの日ずっと、三人から熱い眼差しを向け続けられるのであった。

 無論、カゲタカ以外の三人からである。

 どうやら、カゲタカは、自分の前髪以上には、俺は気にならないらしい。お三方も見習って!


 その夜。寝る前の頃だ。カイルが俺に向かって笑みを浮かべる。


「無事に終わって良かったですね。兄様」

「無事……なのか?」


 次の日から、現人神ムテンと拝謁するまでの数日。

 俺たちは国家間交渉と、接待地獄に陥ったのだが、なぜか出会う全てのミズホ人(亜人含む)から、ミズホ神国に勧誘されるのだ。


 行かないよ!?

 行かないからね!?


 何度か、妙に美人だったり、可愛かったり、壮麗だったりな、色とりどりの見目麗しい女性たちに求婚され、そのたびにウチの女性陣に白い目で見られる場面が多々あったが……、概ね無事に忙しい日々が過ぎていったのであった。

 とほほ……。


 そして、とうとうムテン・イングラムとの謁見を許され、俺とカイルが代表として向かったのだが、現人神の住まう御所は、まさに人界と天界の狭間に相応しい場所だったのだ。




はにとら\(^o^)/

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― 新着の感想 ―
[一言] ハニトラこわーい!! 既成事実でゴリ押しされなくて良かったねクラフト!!
[一言] ジタロー:クラフトさんはモゲればいいんス      なんでこっちに回ってこないんすか~~~
[一言] ミズホ神国にハニトラさせといて、このままだと引き抜きがヤバいということにしてマイナちゃんとくっつける口実を確保かな? そしていちいち兄さまを言い直さなくても済むと・・・
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