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155/265

155:能ある鷹は、爪を封印されてたって話


 コンコンと部屋がノックされた。


「ワシですじゃ。入っていいですかの?」

「バティスタか。入れ」


 一緒に戻ってきたリーファンが扉を開き、バティスタ爺さんともう一人が部屋に入ってくる。

 その人物を見て、俺は思わず叫んでしまう。


「なっ!?」

「え?」


 俺だけでなく、カイルも絶句している。

 そりゃそうだろう。そこにいたのは、カイルの兄である、ザイード(・・・・)だったのだから。


「来たか。座れ」


 俺とカイル、あとよく見たらアルファードもペルシアも絶句して口を開いている。マイナは……いまいち感情が読めんな。ただ、驚いているようには見える。

 呪いのせいとはいえ、辺境伯に対しても、カイルに対しても、大きな混乱をもたらしたザイードは、後継順位を剥奪されていたはずだが、そういえばその間なにをしていたのだろう?


「ザイードをオルトロスのところに残しておくのはまずいと思ってな、しばらく王都で反省させていたんだが、懲罰として仕事を振っていた」


 ほう。そんなことになってたのか。


「カイルと違って、革新的な政策に才能はなかったが、与えられた仕事は確実にこなしてくれていてな。文官に召し上げるかどうか悩んでいたほどだ」

「マジか」

「ああ。実際驚いたぞ。……おそらく呪いで正常な判断力が失われていたんだろうな。カイルに対する恨みや嫉妬心で」

「なるほど」


 言われてみると、あのオルトロス父ちゃん……ベイルロード辺境伯ほどの人物が、跡継ぎとして、カイルを外しても、ザイードは外さなかったんだ。きっと本来の性格は、優秀だったのだろう。

 その呪いを刻んだ、ザイードの母親であるベラを許せねぇな。


「もちろん、ザイードは自分がしでかしたことに対して、深く反省している。どうだカイル。留守をこいつに任せてみては?」


 カイルは大きく目を見開き、真っ直ぐにザイードを見つめる。

 それまで無言を貫いていたザイードが、真剣な表情をカイルに返す。


「……カイル。私のことは信用できないと思う。バティスタ様にお話を聞いたときも、耳を疑ったほどだ。だが……私にチャンスをくれぬか?」

「チャンス……ですか?」


 カイルは表情を引き締め、席に座り直す。


「ああ。私は、呪いのせいとはいえ、大事な弟に酷い仕打ちをした。許されることではないだろう。だが、もし贖罪の機会を与えてくれるのであれば、私はこの仕事をやり遂げてみせる。ゴールデンドーンを、エリクシル領を任せて欲しい」


 俺は驚いた顔のまま凍り付いていることだろう。

 人というのはここまで変わるものだろうかと。

 ……いや。もしかしたら、これこそがザイードの本来の性格なのかもしれない。


 俺がなにかを言うところじゃないな。すべてカイルに任せよう。こいつが決めたことに従おうと決意する。

 カイルがじっとザイードを見つめ、しばし無言の時が過ぎた。


「……ザイードお兄様は、一つ勘違いしています」


 ザイードが片眉を持ち上げる。


「お兄様はとっくに許されているではありませんか。僕の代わりに、クラフト兄様の拳によって」

「あ」


 俺は思わず声を漏らしてしまった。

 そういや、ヴァンにあおられて、思いっきりザイードをぶん殴ったっけ。


「それに、陛下が優秀な文官を貸してくれるとおっしゃるのです。断る理由が見つからないですよ」

「それでは……」


 カイルは表情を緩め、ようやく微笑んだ。


「はい。僕が留守の間、このエリクシル領をお願いします」


 ザイードが一瞬固まり、泣きそうな表情を見せる。


「ああ。任せておきたまえ」

「はい」


 そうか、カイル。お前はそう決めたんだな。兄弟であり続けることを選んだんだな。

 たとえ呪いのせいとはいえ、今までずっと蔑まされてきても、許せるお前が誇らしいよ。


「よし! これで問題は解決だな! 俺は王都に戻るが、開拓省副大臣のモーグと、ジャビールの元弟子で、バティスタの弟子のエルラを置いていく。上手く使え」

「ありがとうございます」


 ヴァンに対して礼を言うカイル。


「名残惜しいが、俺は戻るか」


 立ち上がろうとしたヴァンを、バティスタ爺さんが止めた。


「お待ちください陛下」

「なんだ?」

「実は黄昏が、転移陣よりも上位の転移方法を、紋章から得たようです」

「なん、だと?」


 ヴァンが俺をジロリと睨む。


「お前、また国をひっくり返すつもりか?」

「いやいや! 一度だってそんなことしたことはねーよ!」


 ヴァンが、はぁとため息を吐き出す。


「あのな。エリクサーといい、錬金硬化岩といい、スタミナポーションといい、公開してないが通信の魔導具といい、どれもこれも、国を揺るがすに十分すぎるぞ」

「う……」


 いやまぁ、少しは自覚はあるんだけど、国をひっくり返すとか言われたくはない。


「少しかよ。まあいい。それで転移陣の上位ってどんなものなんだ?」


 俺は先ほど先生やバティスタ爺さんにした説明を繰り返す。


「門と門をつなぐ転移法だと? しゃれにならんな」

「便利そうだよな」

「アホか。どの程度の規模で作れるのかしらんが、最悪は軍隊を移動時間ゼロで送れるってことだぞ。戦略そのものが変わるわ!」

「おう……」

「今の転移陣だとて、暗殺者を送るとか、危険性はでかいんだぞ」

「なるほど」

「だからこそ、隠匿し、信用できるところにしか設置せん。……もっとも今はオルトロスのとこと、ここにしかないがな」


 本当にカイルの父ちゃんは信用されてるなぁ。さすがこの国最大の領地を与えられてただけのことはある。


 ……ああ!?

 前にヴァンが、唐突にリーファン町……元ザイード開拓村に、忽然と現れたのは、そこを経由したんだな!?

 辺境伯の城からなら、ゴールデンドーン産の馬を使えば、王都から来るのと比べ、圧倒的に旅路は短くなる。

 いらん確信を得てしまった。


「それでバティスタ。その転移門? がどうしたというのだ」

「はい。どの程度量産できるのかはわからんのですが、転移陣の代わりに、城とここに設置してみませんかの」

「ふむ?」


 ヴァンは目で続けろと促す。


「ここゴールデンドーンと王城は遠く、いくら街道が整備されたとはいえ、物資の輸送には時間がかかりますじゃ。硬化岩用の錬金薬だけでも直接運べたら、砦群の建設がはかどると思うのじゃ」


 なるほど。それは確かに。

 俺の持つ、黄昏の錬金術師の紋章を使わないと、錬金薬の大量生産は難しいみたいだし、いいアイディアだ。

 馬車でも運べるが、輸送費が跳ね上がるし、商人に任せると、途中で売りさばいたりするから、時間も量もロスが出る。


「さすがバティスタだ! よし、クラフト! 今すぐ設置しろ!」

「今すぐ!?」

「おう!」


 相変わらずむちゃくちゃだよ! この王様!


「あー、リーファン。作れそうか?」

「門自体は、たぶんストックしてる素材でなんとかなると思うよ。カイル様の持ってる、オリハルコンの使用許可が出ればだけど。クラフト君は転移門用の魔導具は作れそう?」

「いくつか足りない素材はあるが、冒険者ギルドに依頼すれば、数日で揃うと思う」


 転移門を制作するのには、鍛冶師の領域と、錬金術師の領域が異なる。担当が違うのだが、鍛冶王(アンドヴァリ)の紋章を得たリーファンは、問題なく作成できそうだ。


「ヴァン。おそらく一週間くらいで一セット作れると思うぞ」

「よし。あの隠し部屋に入る程度の大きさで作っておけ。完成したら今ある転移陣でこっちに来て設置しろ」

「門はばらして、抱えて何度も運ぶことになるんじゃないか?」

「……魔石を大量消費しても設置する価値がある。なんとかしろ」

「わかった」


 転移門を組み立て式にするのか……。リーファンの腕に期待するしかないな。


「できそうか?」

「任せてよ!」


 大丈夫そうだ。さすがリーファン。


 こうして数日後に、王都とゴールデンドーンを結ぶ、転移門が完成する。

 ……のちのち、転移門が、とんでもない活躍をすると、このときは思いもよらなかった。




新刊、来週28日(月)発売!


一部書店や、電子書籍では、明日から購入可能なようですが、私にはよくわからんですw

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― 新着の感想 ―
[良い点] やはり、こう言うあくせく働きたい人種が集まると、転送陣は必須アイテムになってきますね。異世界テンプレ進行になってきました。はぁ。辺境の意味が一瞬で失われましたね。ま、物語上必須でしょうから…
[気になる点] >……のちのち、転移門が、とんでもない活躍をすると、このときは思いもよらなかった。 転移門が活躍するだろうことは、その辺の酔っぱらいでも想像できそうなんだけど、急いで設置させてるのも…
[一言] 「えー……ヴァンが頻繁に来るのか?」 「その嫌そうな顔はなんだ?」 「いや? 嫌だから」 「殴るぞ!?」
2021/11/09 02:39 退会済み
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