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118/265

118:手放すことで、手に入れられるものもあるって話


 ヴァンの護衛はレイドックとソラル。それとジタローがついて、俺とキャスパー三姉妹は休憩がてらの食事をしていた。


 俺たちの前には、たくさんの美味いものが山盛りになっている。


「す……凄い祭りですね」


 ぼそりとつぶやいたのは、キャスパー三姉妹の長女であるエヴァだ。

 現状で王都に匹敵する規模のゴールデンドーン全体が浮き足立っているのだから、初めて見たら驚くだろう。


「祭りなのに料理は安いし、美味しいです。それだけではなく、先ほど観たコンサートも斬新すぎでした」

「コンサートって言うと、ジタローが面倒だぞ。ステージライブはお気に召さなかったか?」

「いえ、とても楽しかったですよ。最初は戸惑いましたが、途中からは一緒に踊りたくなるほどでした」

「なんだ。踊ってくれたら目の保養になったのに」

「……」


 エヴァに無言で返された。

 セクハラ発言だった!?

 俺は慌てて謝る。


「いや、なんだ。ごめんなさい」

「はあ……」


 さらにため息で追撃された。


「そこまで呆れなくても……」


 軽いジョークをそこまで取られると辛いの!


「あ、いえ。別のことを考えていました」

「別の?」

「はい。私は、いえ、私たち姉妹は、思い上がっていました」


 エヴァは教会で告解しているかのように、ゆっくりと語り出す。


「リザードマンの村での出来事で、レイドック様と差があることは理解していました。ですが、今回のことで、その差がとてつもないものだと実感したのです」


 彼女はしばらく黙ったあと、もう一度同じ言葉をつぶやく。


「私たちは、思い上がっていたのです」


 エヴァは遠い目を空に向けていた。


「そんなことはないと思うぞ。レイドックと比べるのが間違ってる。あいつは特別すぎだ」


 なんてったって、俺がなりたかった冒険者像そのものなんだからな。

 するとエヴァが小さく笑った。


「ふふ。それはそうですね。レイドック様は特別です」

「……なんか、急にあいつの弱点を叫びたくなってきた」

「あるのですか? 弱点」

「……ああ見えて、女が得意じゃない」

「それは、弱点じゃなくて、魅力ですよね?」


 俺は立ち上がって叫んだ。


「イケメンリア充はもげろーーーーーーーーーー!」


 魂の叫びは、星まで届いたはずである。たぶん。きっと。

 ぐすん。


 ◆


 深夜を過ぎ、祭りの熱が抜けた頃、ヴァンのおもり係の俺たちと、カイル組がようやく合流できた。


「ああもう! 二度とあんな恥ずかしい格好で、歌わないつもりだったのに!」


 カイル組だったリーファンが、真っ先にお酒をかっくらいながら、机に突っ伏す。

 理由が良くわからない。


「え? なんで? 歌も上手かったし、踊りも衣装もかわいかったぞ?」

「かわっ!?」


 リーファンが顔を真っ赤に染める。

 一気飲みは身体に悪いぞ。


 リーファンはアルコールのせいで、身体を小刻みに震わせていたので、俺はペルシアに向き直る。

 言いたいことがあったのだ。


「あー、ペルシアにはまた無理をさせたな。お前はあんな格好好きじゃなかっただろ」

「いや! 心配されるほど、気に入ってないわけでもない!」


 ペルシアが背筋をびしーっと伸ばす。

 まったく。本当は嫌だろうに。

 昔、ジタローと相談して、ペルシアにはリーファンのようにひらひらの衣装を着せるのではなく、男装をしてもらうのであれば、少しはマシだろうとアイディアを出し合ったのだ。


「ちょっと!? 私とペルシアさんでずいぶん態度が違わない!?」

「だってリーファン。ペルシアには無理をさせたから……」


 カイルが絡むとポンコツになることも多いが、騎士は騎士だ。

 見世物にされるのはいい気分ではないだろう。


「私も見世物にされたんだけど!?」


 リーファンは似合いすぎて違和感がないから、あれでいいのだ。


「良くないよ!?」


 俺とリーファンが漫才をしていると、ペルシアがなにかをつぶやく。


「私としては、むしろリーファンのようなひらひらの……」


 前半は聞き取れたが、後半に行くほど声が小さくなり、ほとんど聞き取れなかった。


「え? なんだって?」

「い、いや! リーファンはかわいかったと言っただけだ!」

「うん。リーファンはかわいい」

「ふぁっ!?」


 再びリーファンが固まり、周囲から笑いが漏れる。

 カイルを中心に、まったりと時間が過ぎていく。


 マイナが俺の膝の上で船をこぎ始めた頃、俺たちの輪に、見知った顔が近づいてきた。


「すみません、少しよろしいでしょうか?」


 やってきたのはレイドックのパーティーメンバーで、ここ数日は別行動をしていた神官のベップと、魔術師のバーダック。それに戦士のモーダの三人。


 彼らは穏やかな表情の中に、決意を持っていた。

 俺は彼らの目を見た瞬間、なにをするつもりなのか理解した。してしまった。


 三人がレイドックとソラルの前に立つ。


「レイドック。私たちはパーティーを抜けます」

「ベップ?」


 レイドックはうろたえるが、俺にはわかる。ベップの言葉に迷いは一切ない。


「ちょっと待ってくれ。いったいなにが不満なんだ? 俺は未熟なリーダーだが、できるだけ平等を心がけてきた。もし足りないところがあるなら――」

「あなたに足りないところなど、何一つありません。安心してください」


 ベップがレイドックの震える声を遮って、断言する。


「なら――」

「あなたが足りないのではありません。私たちが足りなすぎるのです」

「俺はお前たちのことを――!」


 レイドックが慌てて立ち上がろうとするが、モーダがその肩を押さえる。それを確認して、次にバーダックが静かに語り出した。


「レイドック。お前は強くなった。本当に強くなった。ソラル、お前もだ。もちろん俺やモーダも二人に追いつくため、全力で努力してきた。だが……」


 バーダックがそっと自分の左手に目をやる。

 そこに紋章はない。


「限界だ。これ以上はもう足手まといにしかならん」


 レイドックが叫ぼうとするのを、バーダックが先制して止める。


「頼む。これ以上言わせるな」

「……っ!」


 がりがりと、レイドックが奥歯を噛みしめる。


「俺に……俺にまた、クラフトと別れた時と同じ後悔をしろって言うのか!?」


 泣きそうな表情だった。悔しそうな表情だった。

 こいつ……俺が抜けたことを、そこまで思っていてくれたのか……。

 俺までもらい泣きしそうになる。


 レイドックの横にいるソラルは、時々視線を逸らすだけで、ずっと黙って聞いていた。

 彼女にはわかっていたのだろう。バーダックとモーダとの実力が離れすぎてしまったことを。


 だが、それなら神官の紋章を持つベップは?

 俺がそのことを口に出そうとするが、ベップはそれに気づき、俺に向かって手のひらを向けた。


「私たちは三人で新たなパーティーを組みます。戦士と魔術師の組み合わせに、回復役は必須でしょう?」

「待て! その理屈なら、剣士とレンジャーだけになる俺たちは――!」

「そこであなたのパーティーに、推奨したいメンバーがいるのですよ」

「……なに? 推奨だと?」


 レイドックのうろたえ方は、見ているだけでこちらも苦しくなるほどだ。

 ソラルも苦しそうに顔を逸らしている。


「エヴァさん」

「ふぁい!?」


 それまでことの成り行きを見守っていたエヴァだったが、いきなり名前を呼ばれ、間抜けな声で返答してしまう。

 うん。気持ちはわかる。


「私はあなたたち、キャスパー三姉妹をレイドックとソラルのパーティーに推奨したいと考えています。どうでしょう? よければ前向きに考えてくれませんか?」

「私が……レイドックしゃまのパーティーメンバーに?」

「はい。この場で決める必要はありません。数日したら、辺境伯の住まう街、ガンダールに共に旅立つでしょう? 時間はありますよ」

「そ……それは……」


 ああ。さすがベップだよ。バーダックの考えかもしれないが、抜ける三人は戦士、魔術師、神官とバランスがとれている。

 レイドックも、キャスパー三姉妹が加われば、前衛二、中衛、魔術師、神官とこれまたバランスがとれていた。


 ただ、抜けるというのではない。お互い最良の道を示しているのだ。


「お……俺は……」


 レイドックがなにかを言いかけて、奥歯を噛みしめ、言葉を飲み込む。


「なんて顔をしているんですか。別に私たちはゴールデンドーンを出るわけじゃありません。むしろ定住予定ですよ」

「……え?」

「同じ街にいるのです。いつだって会えるじゃないですか。……仕事がなければ」


 ベップがにこりと笑うと、モーダが無言で頷き、バーダックがニヒルに口元を緩める。


「ああ……うん。そうだな。別に……永遠の別れってわけじゃ……ないんだよな?」

「仕事によっては一緒に行動することだってあると思いますよ」

「ああ。ああ。そうだな」


 レイドックは泣きながら頷いた。

 別れるための言い訳を、ここまで用意してもらったのだ。ここで頷かなければ、逆にこの三人を裏切ることになる。


「……今日は。朝までは、同じパーティーなんだよな?」

「……はい」

「なら、飲もう。記憶がなくなるまで、最高の酒を飲み散らかすぞ!」

「はは。今日くらいは付き合いましょう」

「魔術師に酔えとは無茶を言ってくれる。……最初で最後だ」

「ん」


 最期にモーダが無言でジョッキをテーブルに置いた。

 レイドックがクソ高い酒を惜しげもなく全員の杯についでいく。


「よし! これからの俺たちに!」

「「「「これからの俺たちに!!!!」」」」


 五人が声高らかに杯を打ち合ったあたりで、俺はその場を離れた。

 もちろん、他のメンバーもだ。


 カイルとマイナと並んで屋敷に戻る。


「なんだか……少しうらやましいと思いました」

「そうだな」


 寂しくも、その絆の深さがうらやましいと思ってしまったのは、俺だけではなかったらしい。

 カイルの言葉に、救われた気がした。



③巻買ってくれた?(^-^)

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― 新着の感想 ―
[一言] あー、面倒くさい展開になってきた。 レイドリックのハーレムパーティー爆誕。 もう主人公変えちゃえば良いんじゃないかね。 レイドリックがなぜここまで強化されたのか良くわからん。 中堅冒険者がい…
[良い点] レイドック・・・いいヤツだなあ ヒュドラ戦でピクリともしなかった私の涙腺がいとも簡単に… 元々決壊しやすいんですけどねw
[気になる点] 女が苦手なのにパーティメンバーが自分以外女だらけになって大丈夫なのか?
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