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「カサイじゃねぇか?」
震災発生から十五日が経過した頃、テレビアナウンサーのカサイは現場からのリポートを再度行う為に現地に取材クルーと共に来ていた。
二週間が経過した街だが、津波の傷跡はまだまだ残っており、復興には程遠いとしか言いようがない。かろうじて自衛隊が作った道が存在するが、その両脇は瓦礫が山のように積み上げられ、どこが街だったのかも判別できないあり様だ。
スタッフ共々朝から中継し、今晩には東京に戻らなければならないが、ギリギリの時間まで彼等は元街の中を歩き回っていた。
そんな疲弊の限界の中で、カサイはその声を聞いた。
顔を上げた彼の目の前に、その形容し難い巨人の姿がある。夕陽を背にしているので、顔はよく見えないが、迷彩服を着ているのはわかる。
「自衛隊の方ですか?」
疲弊したスタッフはカサイが疲労の限界に達しておかしくなったのではないかという目で見ている。夕陽を背にした大男の姿がスタッフには視認できていなかったからだ。
大男がカサイに近付くが、誰もその姿を確認できない。
世界一とも言われる気配消しの達人の姿は一般人には見ることができないらしい。
カサイの問いには答えず、大男はカサイの耳に顔を近付けた。
「お前の出演番組は見たことがあるぜ。時々泣いてしまって言葉が詰まるのは、アナウンサーとして失格だろうが、俺には伝わるものがある……そんなお前に俺からのプレゼントだ」
大男の顔がカサイの耳元から離れ、その姿が消えて行く。
そして、カサイの耳が今までにない集中力を持ち、瓦礫の奥からする微かな音を拾う。
「あっ!?」
カサイが突然瓦礫をかき分けて進み始めたので、スタッフが驚いてカメラを回す。
「カサイさん? どうしちゃったんですか!?」
「聞こえないか!? かすかにだけど……泣き声だ!! この奥に『人』がいる!!」
スタッフは顔を見合わせたが、真剣なカサイにつられて瓦礫の撤去を手伝う。
その道から五メートルほど掘り進んだ場所に、カサイの聞いた音の正体があった。
二階建ての住宅だったものに、乗用車が一台突っ込んで停まっている。一階天井部分が車の屋根を押し潰しているが、冷蔵庫が挟まっていて後席部分を貫き、大黒柱代わりに立っていた。
「まさか……震災発生から十五日目ですよ?」
スタッフと共に車の前側に回り込み、カサイは必死に助手席の窓ガラスを素手で拭く。ドアは変形していて開きそうにない。
泥が付着して固まった窓はなかなか中身を見せてくれないが、スタッフもその頃には中の音が聞こえていた。
「消防と警察に電話してきます!」
唯一手の空いているカメラマンが、テレビの命とも言えるカメラを放り出し、携帯の電波が届く場所に走り出て行く。
「く……そこの棒で窓を割ろう!」
瓦礫の中から鉄の棒を引き抜き、ガラスを叩く。
車の中にガラス片が飛び散るが、それを気にする余裕はない。今日は震災発生から十五日目なのだ。時間があまりにも経過している。
「!!」
ドアのガラスとフロントガラスを叩き割ったカサイの目に最初に飛び込んで来たのは赤ん坊の姿だった。そして、我が子を抱き締める母親の腕。
車の後席を突き破った冷蔵庫の中身が車内に散乱しており、それが母親の命を繋いだものだと推測できる。母親はハンドルと座席の間に左足首を挟まれた状態だが、必死に我が子を抱き締め、助手席側に避難し生き残った。
母親が着ていたダウンのコートが寒さをしのぎ、冷蔵庫から飛び出した食料が餓死から救い、母親が死ななかったことで、母乳を与えられた赤ん坊が救われた。更に言うならば、住宅の一階部分に突っ込んだお陰で屋根があり、雪や雨風から二人を守ってくれていた。
そして、この乗用車はエンジンが生きており、ガソリンも入れたばかりで、母親は一日一度ずつ、一時間だけエンジンをかけて体を温めていた。ガソリンになにかの火花が引火しなかったのも奇跡だろう。
しかし、この乗用車の奇跡はこれだけではない。
母親は買い物帰りであった。つまり、後部座席には買ったばかりの食料品と、赤ん坊用の紙おむつがあり、たまたまその日はヘビースモーカーの夫の車を使っていた。彼女は被災後、この車の中で買って来た食料にライターの火を直接充ててだが、火を通して食べられたのだ。
パニックになり、閉じ込められた車の中で自暴自棄になって暴れなかったのも、彼女の体力を残した要因になった。ハンドルと座席の間に挟まれた足は骨折していたが、彼女はその分ゆっくり体を動かし、落ち着いて行動していた。
それくらいの条件が重ならなければ、この親子は既に死んでいただろう。それほど今回の震災は巨大だった。
奇跡とは、百の偶然が重ならなければ起きない出来事なのだ。
カサイはこの親子の十五日間を思い、泣きそうになる自分を抑えた。まだ車から脱出した訳ではないからだ。
母親は赤ん坊をカサイに押し付ける。
「この子を助けてください……ここはもう長くは持ちません……冷蔵庫が支えになってくれていたけど、昨日から変形して……もう、ダメです……この子だけでも……」
それを聞いたスタッフが冷蔵庫に目をやると、確かに上下が潰れ始めているのがわかる。
「! これはヤバい! おい! その辺に長い木材が転がっていただろう!? それを持って来て支えを作るんだ!! 奥さん! 大丈夫です!! お子さんもあなたも必ず助けます!!」
カメラマンが投げ捨てたカメラにその一部始終は記録されており、カサイの行動は後に賞賛される。
「……普段、人殺しばかりしている俺が、人助けの役に立つとは……」
カサイに親子の存在を教えた大男は勿論シルヴィスだった。
「まあな……要人警護の任務でもない限り、俺たちがそんなことすることもないんだがな」
シルヴィスの呟きにジョンソンが応える。
人目に触れないように瓦礫の中を進むシルヴィスと傭兵たちは、偶然見つけた親子を偶然通りかかったテレビクルーに託し、結果を見ずに移動を開始していた。
彼等が向かっているのは暴走しかけている発電所である。
「ま、これからもっと多くの人を救いに行くんだから、幸先良いんじゃねぇか?」
四家筆頭と六郎とミヤが必死に守ろうとした発電所は、結局津波の被害に遭い、制御不能の状態が続いている。
「シルヴィス……プレートのずれがあるから正確とは言いかねるが、現場まで二十キロだぜ?」
ジョンソンの後ろで簡易モニターを眺めながら歩く傭兵が声をかける。
「おう……じゃあ、お前等はこの辺の海岸で待機していてくれ。六発ぶん殴って、発電所を『殺して』くるからよ……しかし、北海道知事も思い切ったことを依頼しやがるよな……」
建物の一部でも残っていれば、シルヴィスにとって視認できていることに含まれる。前述したかも知れないが、彼の能力は『視認できる物はなんでも殴れ、核ミサイルを叩き落とし殺せる(機能を止められる)』のだ。つまり、彼が殴れば発電所の機能を殺すことが可能だ。
任地である北アフリカから数十時間をかけて戻ってきたシルヴィスは現在その依頼を実行中である。
被災後十日を経過するも、一向に改善に向かわない発電所の惨状を汲みとった北海道知事は、自らも学んだ学園に救援を求めた。
学園理事長は十分ほど推敲し、卒業生ではないものの、理事にも名を連ねるシルヴィスの能力に思い至る。
しかし、連絡を受けた彼の所属する傭兵派遣会社社長は理事長の提案に難色を示す。
シルヴィスという傭兵は普段ただの傭兵であるが、万が一、地球外生物の襲来があり、全ての武器が通用しない場合や、太陽が爆発するようなレベルの災害に派遣される男なのだ。その地球最後の戦力と呼ばれる男を、極東の地で被曝させるなどもっての外と考えられたからだ。
北アフリカで作戦行動中だったシルヴィスは、派遣会社社長の心配を一蹴し、簡単に依頼を引き受けた。
「どっちが正しいかも判断できない独裁者と反政府軍の戦いなんぞより、わかり易くて良いじゃねぇか……もう、人間外とでも宇宙人とでも、なんでも呼び名は構わねぇが……そもそも、俺は放射能に汚染されない体を持っているからな……」
リンには見えているが、彼の体を包んでいる光は防護服よりも丈夫であった。
シルヴィスの言に折れた社長は彼を日本に派遣する旨を理事長に伝え、件の米軍特殊部隊を現地に残し、シルヴィスの本来率いている傭兵たちと合流し現在に至る。
震災の惨状は札幌にいるリンたちにもテレビを通し充分伝わっていた。
テンションアップの時期に入ったかなみも、この時ばかりは流石におとなしく、テレビの前でリンと抱き合って放映される映像に見入っていた。ミヤの説教によってほんの少しの精神力強化がされた二人だが、まだまだ発展途上であるのは否めない。
震災翌日、大きな被害を受けた東北に太郎は出発し、コロンは学園が選抜した災害救助要員に選ばれ、太郎に遅れること二日、現地に派遣されている。
現在居間にはリンとかなみの二人しかいない。相変わらずストーブの前をミヤが占拠しているが、この化け猫はシルヴィス投入の報を聞くと、リンとかなみへの説教を止め、テレビを注視することを勧めてくれた。
ミヤが病院を離れられない理由は、四家筆頭が思ったより重傷で、意識は戻ったが病室での安静を言い渡された為である。六郎も重傷を言い渡され、今は病室の住人になっていた。
「見ているだけしかできないのは……つらいよね……」
「……うん。でも……祈りは届くよ……」
その二人を元気づける映像が一瞬流れた。
どこかの避難所で診療をしている太郎が映ったのだ。いやでも目立つ金髪長髪を隠す為だと本人は言っていたが、その髪の毛を全て隠す為に被った『アフロ』のカツラは金髪よりも目立っていた。カメラがパーンした際に偶然映ったらしい太郎が、小さな子供の診察を任されている映像だ。
「太郎くん……『偽医者』なのに、馴染んでいるねぇ……」
「タローは腕が確かだから、誰も気付かないんだよ。あたしが撃たれた時の処置も素早かったし、人を怪しませないなにかを太郎は持っているもの。それに、本物のお医者さんよりも知識が豊富だもんね」
その映像の直後、画面が突然切り変わりこの数週間ですっかり見慣れてしまった会見場が映し出された。この会見場が映るとロクな発表がないので、リンとかなみはしっかりと抱き合って画面に釘付けになる。
『えー……午後八時に起きた現象についての……説明をさせていただきます……自衛隊と消防の放水作業及び瓦礫撤去作業中、突然白煙が上がり……作業員全員が退避した訳ですが……それは何者かが現場に投げ込んだ……発煙筒だと報告が……ありました……』
ハンカチで汗を拭きながら、なんとか冷静を保とうとしているが、明らかにマイクを持つ手が震えている。発電所敷地内への一般人の立ち入りを禁止した筈であるのに、簡単に入られ、しかも発煙筒を投げ込まれるなど、セキュリティの問題を記者たちに追及されるに決まっているからだ。
『煙が晴れましたので……放水作業を再開する予定でしたが……一号機から六号機までの全てが『凍って』おり、冷却の必要が既にない状態でありまして……その……信じられないことですが……全ての機能が停止し……冷凍された状態になりました……』
記者たちから怒号のような質問が浴びせられるが、電力会社社員は汗を拭くだけで、答えは行き詰り、すぐに会見の様子は打ち切られた。
歯切れの悪い会見だったが、リンにもかなみにも笑顔が戻る。
「お兄ちゃんだ……暴走しかけた炉を急速冷凍できる人間なんて……お兄ちゃんしかいないよね?」
かなみの問いに会わせるように、自衛隊撮影の現場映像が公開される。
リンとかなみはその白煙が立ち上る発電所の中で、建物の外壁にパンチする大男の姿が見えていた。正確にはシルヴィスが集中する時に見える右拳の光が見えたのだ。
その映像は後に分析され国家機密となるが、今この映像を見ている人間でそれがわかったのは、世界中でもこの二人だけだろう。
発電所五十メートルまで誰に気付かれるでもなく、簡単に近付いたシルヴィスは姿を隠す為に発煙筒を遠投し、作業をしていた自衛隊員と消防隊員が撤収するのを見送り、走って建物に近付いた。
右拳に意識を集中し壁を殴る。
すぐにとなりの建物まで走り、また殴る。
それを六度繰り返し、発煙筒の煙が無くなる前に海に飛び込んだ。
シルヴィスの全力でのパンチは効果を最大限に発揮し、炉内の温度を一瞬でマイナスの世界にまで持って行った。
そこから遠泳し、海岸で待つジョンソンたちと合流。その後は米軍から派遣された大型ヘリに乗り込み、今は空の上にいる。
「しかしよ……お前は本当に無敵だな? もしも地震発生時にお前が日本にいれば、津波も殴りに行っていたんじゃねぇか? 大波の形のままで凍らせることも可能なんだろ?」
防護服を着た医者と看護士に囲まれ、体を洗浄されているシルヴィスに防護服を着ていないジョンソンが話しかける。傭兵の中には長生きに気を遣わない人間も多く、更には防護服で動きが制限されることを嫌う傾向がある。ジョンソンも例にもれず、即死しないならば動き易さを優先する男だ。
「ジョンソン……この世界に『タラレバ』はなしだ。俺は武力そのものでは無敵に限りなく近く、津波も殴り殺せるだろうが、地球のプレートの動きを予言できる能力は持ち合わせていない。ついでに、例えその能力があっても、北アフリカから日本まで瞬間移動はできないからな。もう少し早く現場に到着できていれば、などというのは不謹慎というものだぜ? 海の水に関しては、凍らせることがイコール死ではない筈だからな、殴ってみなければわからんよ」
「まあな……それでもよ。この上空から見える光景を見れば、そんな愚痴のひとつもこぼしたくなるってもんだろう?」
街である筈の場所に明りが灯っていないのはジョンソンを感傷的にさせる。
「世界の平和の為に傭兵になった訳でもないだろ? 俺たちはできることをした。手は抜いていない。それで良いじゃねぇか……人が死ぬ度にセンチメンタルを感じるなら、お前は傭兵に向いていないってことだ」
「しかし……戦争でもないのに、一気に一万人以上だぜ? 任務成功を素直に喜ぶ気にはなれねぇよ……」
「……俺の知り合いで、生きている間が地獄で、死んだら全員天国に行けると言った奴がいた。酷いあり様の戦場跡地も見てきたが、この光景はそいつの言うことにも一理あるんじゃないかと思えるな……しかし、俺もお前もまだ生きている。生きている間くらいは、前向きにしていようぜ」
「お前は本当に人間離れしているよなぁ……」
体の洗浄作業が終わったシルヴィスはタオルで頭を拭きながら、ヘリの窓に顔を近付けた。
眼下に広がる筈の夜景はなりを潜め、時々車のライトかなにかが光るだけの闇の世界が広がっている。
「まあ、お前も俺のことは言えないんじゃないのか?」
視線を眼下の暗闇に向けたままで、シルヴィスが呟く。
「お? 今更なんだよ?」
「……お前はウチの会社の傭兵では古参に入るが、俺と同様の能力を持ち合わせているんじゃないのか? いや……それ以上の能力だと思えるんだが……」
「……どこで気付いたんだ?」
「ヰガル邸からの脱出戦の時だ。いや、正確にはシルヴィス老人に出会ったその日に、俺はお前の能力に気付いていた……ヰガル邸からの脱出時に、確信したと言った方が良いか……お前は銃弾が当たっても『死なない』だろ?」
ジョンソンは悪戯小僧のように舌を出しておどけて見せる。
「言ってなかったっけな? 俺がそもそも人間ですらないってよ」
「……聞いてねぇよ」
ジョンソンの発言に他の傭兵が一斉に拳銃を抜こうとするが、シルヴィスが片手を挙げてそれを制した。
「銃弾は効果がないんだって……俺が怪我をして札幌に辿り着き、太郎に治療してもらうまでに二週間掛かったが、俺より重傷だった筈のお前は、なにごともなかったように病院駐車場にいた。米軍に正式採用されたお前が、ヰガル邸脱出戦の時だけ傭兵に戻っていたのもおかしい。何者かによって俺を監視する役目を与えられているんだろ?」
「ああ、そうだよ」
悪びれた様子もなく、ジョンソンは両手を上に挙げて降参のポーズを作った。
「シルヴィス。お前にだけわかるように説明するとだな……俺は『魔界』の住人だ。お前も数人知り合いがいるだろ? その中の一人に俺は頼まれ、お前を監視しているって訳さ」
シルヴィスは裏世界の仕事関係で、数人の世界的な能力者に知り合いがいる。更に、裏世界の仕事は基本的に化物退治であるので、その異世界の住人とも知り合っていた。
ジョンソンの言った魔界も異世界のひとつで、地球上に二百五十六個所ある通路で繋がっている。その通路のひとつがヰガルの担当する地域にあり、シルヴィスは何度か現地に足を運んでもいる。魔界は地球よりも広い陸地を有し、様々な生物の住む世界である。地球に時折現れる『退治対象』の化物は、魔界から追われた生物であることが多い。
「知り合いと言っても、本当に数人しか俺は知らんぞ? その中で俺を監視させる人物は……『鉄朗さん』か?」
「ご名答」
ジョンソンの姿がぼやけ始め、見る間に髪の毛が黒くなる。次のまばたきの間に、ジョンソンは太郎くらいの身長のアジア人の姿を現した。
「こっちが俺の本当の姿でな。名前も『徐孫』が正しい名前だ。といっても、これも地球用に加工された名前だがな……」
魔界の言語は流石のシルヴィスでも発音できない。それ故魔界の住人は地球に出て来る際に言語を地球に併せてくれている。除孫が出てきたトンネルの出口は、多分中国辺りの何処かに存在するのだろう。
「徐孫とジョンソンね……なんの捻りもねぇな」
「捻る必要性がないだろ? 俺にとっては怪しまれずにお前の傍にいることが任務なんだからよ。まあ、バレちまったが……」
「まあな……それで? 俺を見張る理由はなんだよ?」
とぼけてみせたシルヴィスだが、理由は彼自身が知っていた。
「……俺もお前を結構な年月見張っているけどよ。先代のシルヴィス老兵より、お前の方が能力は上だと思うんだよな。そして、地球の戦場にお前を放って置く地球人にはほとほとビックリな訳だ。まあ、お前の能力の使い道を考えられるような国家頭脳はこの地球にはいないのも事実だけどよ……」
シルヴィスは数年前に鉄朗と出会い、その能力の高さに感服した鉄朗はその場でシルヴィスを魔界にヘッドハンティングしようとしたことがある。
徐孫は五十年ほど前から地球に住んでおり、地球での活躍に限界のある有能な能力者を魔界の王に紹介している。それが彼の本業だ。
「地球には地球のレベルがあるだろ? 俺はそのレベルに合わせて生きている。そして、できればこの地球で生涯を全うしたいと鉄朗さんには答えた筈だが……」
「その考えが変わることはねぇと俺も報告しているんだがな。王はお前も知っての通り新参の王で、勢力としては弱い。魔界のバランスは究極魔王様が調整しているが、その均衡を保つのに鉄朗王の勢力が弱いのも事実だ」
「……俺は地球では一番強いかも知れんが、魔界では最も弱いだろう。鉄朗さんは俺を買い被り過ぎだ」
「そうか? 俺はお前が謙遜し過ぎに見えるがな……まあ、もう少し待つことにするさ。俺たち魔物は割と時間がたっぷりあるんでな」
米軍ヘリはそのまま札幌に向かって飛行を続け、日付の変わる頃に西区医院の傍にある小学校のグラウンドに着陸する。
降ろされたのはシルヴィス一人であった。
「お前たちは別任務なのか?」
「ああ、俺たちはこのまま被災地に戻って捜索隊と合流するんだ。自衛隊と米軍の大規模合同捜索があるんでな! お前は暫く休めよ! リンにもよろしくなぁ!!」
飛び立つヘリを見送り、振り向いた先の闇に男が立っていた。