究極のドジっ子のそばにいるのは、いつも僕だけだったりする
○究極のドジっ子のそばにいるのは、いつも僕だけだったりする
「今朝未明、宮城県の原子力発電所に、勇者が出没した模様です。勇者はシステムの20%を破壊しましたが、無事排除されました。次のニュースです・・・」
つけっぱなしのテレビが、今日も僕の恐怖心を揺さぶっていた。
「また勇者がでたんだな」
「最近多いね」
「どうでもいいが、突然勇者になるなんて言わないでくれよ」
「あるわけないじゃない。あれ、人をたくさん殺す悪い人だよ」
「まぁ、分かっていればいいんだが」
さすがの彼女でも、それぐらいの分別はあるだろう。善良であり、気立ても良いが、無分別に行動してしまう、言わば、究極のドジっ子である彼女にしても、さすがに勇者になるようなドジは踏むまい。その点は僕も安心していた。究極の逃げ遅れ体質の僕でも、そんなトラブルには巻き込まれるはずはないはずだ。
最近、勇者の出現が頻発している。彼らは、原子炉や空港などのインフラ、軍事基地や航空機に至るまで、およそ被害が甚大になると思われる場所に好んで現れ、テロリズムを行う、はた迷惑な連中だが、彼らが出没するようになったのには理由がある。
原点であり、最大の理由は、10年前に起こった、最後の審判だ。
実際のところを言えば、最後の審判は、未然に防がれていた。主要国家の上層部と、人類に手を差し伸べた魔王の手によって、それは防がれていた。
我々一般の庶民の知らない所で、人類滅亡の危機は、いつの間にか防がれ、一般の庶民は恐怖する間もなく、滅亡の危機を乗り越えていた。
しかしそれがアダとなっていた。
最後の審判。神の計画。
人はそれぞれ魂を持っている。魂という素粒子からなる、精神プログラムを脳というサーバーに保管して、この地球の表面で生きるのが、僕たち人間だ。
しかし地底人という訳ではないが、惑星の内部に住まう知的生命体も存在する。
魂という素粒子からなる精神プログラムを、惑星という巨大なエネルギー場というサーバーに保管し、惑星内部に生きるのが、神であり魔人だった。神は木星のエネルギー層というサーバーに住まい、魔人は地球という巨大なエネルギー層をサーバーとして住まった。
もっとも人は、この惑星のエネルギー層をビックアップルと呼んでいる。見た目が巨大なリンゴであり、魂の世界では惑星は宇宙に浮かぶ金のリンゴに見えるのだ。人間の感覚からすれば、魂の世界の宇宙は、リンゴの実をすずなりに実らせる巨大樹に見えた。
最後の審判。それは神の手により人の肉体(脳)というサーバーを破壊し、魂を神の国へと誘い、人の魂の強制進化を促す計画だった。
しかしそれを人類は拒絶した。実際には、社会の上層にいる代表者たちが拒絶し、差し伸べられた魔王の手を握ったのだ。そこに不平を抱く者たちも多々現れた。我々は神の国へ行きたかった。今よりもずっと良い世界に違いないと。
そこが神々とその眷属、天使や、木星サーバー内に造られた疑似魂の付け入るスキになり、勇者出現の温床になった。。
神とその眷属は、人類の不満分子を探し出し、神器と呼ばれる、魂の世界で強力な破壊力をもたらす武器を与え、静かなる速度で、最後の審判の続きを遂行しつつあった。
しかしこの一連の出来事が、人類に革新を与えたのは事実だ。
最後の審判を境に、人は魂の存在を認識した。そして魂の居住区域が、惑星の地表で生きる、生物の脳だけでないことをも認識したのだ。
時を同じくして、新たな技術も開発された。
ユピテルホーミング。惑星改造技術だ。
最後の審判前は、魂の居住可能なエネルギー場を持つ惑星は、木星と地球のみだった。しかし惑星のエネルギー層を改造し、魂の居住を可能にする技術、惑星を木星型のサーバー化する技術が神々の手によって開発されていた。しかし皮肉にもそれを使ったのは、魔王だった。
そしてこれが、最後の審判の勝敗を決める決定打となった。
魔王は太陽系の惑星に次々とユピテルホーミングを施し、居住可能とし、人類と協力して、太陽系の全惑星の極に2つのゲートを築いた。惑星間のゲートとゲートの間に高速のエネルギー流を築きあげ、高速の移動をも可能とし、他からの接続を断ち、侵入を弾き飛ばすゲートシステムを作ったのだ。
結果的に神々とその眷属は、木星から移動できなくなり、その一連のゲートシステムにより、神は木星に封印されてしまった。結果的に人類への干渉もできなくなってしまったのである。
各惑星には惑星内部都市が建設され、僕たちの土星への修学旅行にも繋がるのである。
もちろん土星へは、体は置いていく。僕たちは魂だけでゲートシステムを通って行くことになる。魂だけの存在になるのは、今度が初めてだ。みんなもそうらしい。どうも魂だけになると、感覚が鋭敏になり、素晴らしい体験ができるという事だが、女子は甘いもの。男子は官能的なもので、頭がいっぱいになっているみたいだった。