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モデル業も楽じゃない! 第2話 ルーノさんの常

所変わってもやる事は同じ。

私がモデルとなってルーノさんがそれを描く。

もちろん依頼内容によって演じる内容は違いますが、大筋一緒です。

そして今日も変わらず、私はルーノさんの部屋にてモデル中です。



「うん、うん、うん。いいねぇ、最高だよ!」



キャンパス越しに、そんな声が聞こえます。

鼻息荒すぎですよ。

向こう側でどんな顔をしているのか、知りたいような……知りたくないような。



「ポーズとか顔、大丈夫です? 変な感じになってません?」

「もちろん! だからそのままでお願い!」



今回のテーマは『花を愛でる女』だそうです。

だから宵闇の魔女やら魔法少女やらを演じる必要は有りません。

逆に素の姿を描かれてしまって、気恥ずかしいですが。

雇い主が納得してくれているので、ひとまず良しとしましょう。




「はい、お疲れさま! 残りは僕の作業だけだよー」

「わかりました。じゃあ私は戻りますね」

「うんうん」

「ご飯食べてくださいね?」

「うんうん」

「ちゃんと寝てくださいね?」

「うんうん」



気の無い返事ばかりが返ってきます。

もう目の前の作業に夢中って感じ。

まったく……大丈夫かなぁ?

私は不安を覚えつつも部屋に戻りました。


それから1日が過ぎ、2日過ぎ、3日目となりました。

そろそろ次の作品に着手する予定です。

なので私はルーノさんの元へ。

あれから1度も顔を見てないけど、大丈夫でしょうか……。



ーーコンコン。

ノックはしたものの、返事はありません。

もうお日様は高い所にあるんですがね。



「ルーノさん? アリシアです」



呼び掛けにも返ってきませんね。

まだ寝てるんでしょうかね?


ーーカチャリ。


ちょっとだぁけ失礼。

ドアを半開きにして、中の様子を窺いました。

すると、キャンパスの前。

床に倒れ込んでるルーノさんが!

私は慌てて駆け寄りました。



「どうしました! 大丈夫ですか?!」

「アリシア……さん?」

「まさか病気ですか? どこか痛いですか?」

「ああ、うん。平気。ちょっと寝ちゃってたみたい」



寝ちゃったって……人騒がせな!

そういうときはベッドまで行ってください。

数少ない家具の1つなんだから活用しましょうよ。



「ごめんね、驚かせちゃったねー」

「ほんとですよ、もう。これからはしっかり寝てくださいね?」

「いやぁ、どうも夢中になっちゃって。でも、その甲斐はあったよね」



イーゼルに乗せられたままの作品。

それは一輪の花を胸に微笑む私だった。

窓から降り注ぐ光が暖かそうで、見るものに安らぎを感じさせます。



「キレイ……ですね」

「そうでしょ? この光の部分なんか、我ながら良く描けたと思うよ!」

「なんだかキラキラしてますよね。実際にこう見えたんですか?」

「違うよ。これは僕のイメージさ」



……うんと、良くわかんねっす。

イメージさ、と言われても、こちとら門外漢。

絵の基本すら把握してねぇぜ!

それからも、私の返事を待たずにルーノさんは続けました。



「なんというか、アリシアさんがモデルしてた場面を思い起こしつつ、色をつけていったんだ。だから現実では起こり得ない色味になったりしてるよ」

「へぇー。ということは、記憶を再現したって感じですか?」

「まぁそうなるかな。記憶と感情を表現したらこうなったのさ」



ちなみにこの絵の依頼主は公爵さんだ。

あのイノシシみたいな見た目の貴族様。

恩のある人だから熱が籠ったみたいですね。



「お偉いさんからの依頼ですもんねぇ。そりゃあ寝食を度外視しちゃいますね」

「まぁ……それだけじゃ無いけどね」

「うん? なんか言いました?」

「いいや、何でもないよ! それよりもお腹空いたなぁ」

「あぁ、今日はまだ食べてないんですね。何か用意しましょうか?」

「今日はっていうか、何日かぶりっていうか」

「……ハァ?」



何言ってんですかね、この人。

ご飯って日に2、3回は摂るものですよ?

これはいわゆる画家ジョークってやつ……では無さそうです。



「この数日間は何食べてたんですか?」

「うーん、これかなぁ」

「……ミルク?」

「あ、ちょっと残ってた」



美味しそうに容器からミルクを飲むルーノさん。

私は彼の頭をペシリと叩き、すぐに買い物に出ました。

ともかくすぐ食べられそうなもの、栄養のありそうなもの。

それらを適当にひっ掴んで購入。


そして直ぐ様ルーノさんに食事を用意しました。

パン、チーズ、葉野菜のサラダ、腸詰め肉のスープ。

テーブルなんか有りませんので、床に布を敷いての食事です。



「わぁ、ご馳走だー。いただきまぁす!」

「まったく。ちゃんと食事はとってくださいね?」

「うんー、努力するー」



ダメだ。

これはダメそうですね。

今後は身の回りの世話も担当すべきでしょうか。

床の上に胡座をかき、ニコニコとパンを頬張るルーノさんを眺めつつ、そんな事を考えていたのでした。

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