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1 群青色の傘
雨の人がいた。
深い群青色の傘から覗く、大きくて真っ黒な瞳。すっとした輪郭が、にじんだ淡い空気を切り取るように浮き上がる。
「雨は好き?」
すれ違いざま、彼はその目で私を見つめて、表情を変えないまま言った。彼の声が雨にこだまし、水たまりがぴちゃっと音を立てる。私が小さく頷くと、彼は満足したように微笑み、すっと横を通り過ぎた。少しして振り返ると、針金を通したようにまっすぐな彼の背中が、音もなく離れていくのが見えた。
彼の名を私は知らない。だから、「雨の人」と読んでいる。
──彼に会うのは、何故か雨が降っているときだけなのだ。