29:怪物
「遅えよ」
怪物が振るう腕を、ぎりぎりの距離で避けながら、カウンターを入れる。買ったばかりの戦斧だが、出番を待っていてくれ。こういう相手には、メリアリオを使わないと少し困る。よしんば楽勝だったとしても、メリアリオ以外は使う気にならない。油断はほんとに危ない。
「それにしても、タフだな」
怪物“乱魔鬼”。確か、先代の魔王が一度滅ぼした筈だが、何故か蘇っちまったようだ。
そもそも、怪物とは何か。それは、純粋にその生い立ちと知性によって魔物と区別されている。
魔物は、当然の事ながら、親から産まれる。一方で怪物はというと、魔力から生まれる。何らかの原因で、魔力が集中して一体の生物になり、実体を持つのだ。
魔力で出来ている。それはつまり、魔力が尽きぬ限り、滅びないという事だ。滅ぼしたければ、ひたすら倒し続けるしかない。そして、その生い立ち故か、生命を持つ者を、破壊しに来る。魔物は根こそぎやられるだろうな。もう半分ぐらいは、従えられてるみたいだし。先代の魔王はどうやって倒したっつたかな?
確か、何かの魔法を使ったらしいんだが。
忘れた。どうせ俺には真似できないし。
「あいつを止めろ!」
破られた壁から、兵士が戻ってくる。斬撃は……効いてるな。けどさ、復活早くないかい?そんな速度じゃ、切ってるほうがアホらしいだろ。やはり、傷の大きさによって回復に掛かる時間は変わるようだ。一秒が四秒に変わったところで、という話だが。
『いけ、カケル!』
「はいはい」
動きは素早いがそのガタイにしては、という程度だ。避けれない訳じゃない。
「メリアリオ!代償の追加だ。あいつの血を吸わせてやる!だからもう一個の方も貸せ」
『あいつに血が流れてる可能性は?』
「ある!」
『可能性の話をしてて、ある、とか言われてもな。分かった。“切断者”を解放する』
俺の第二の能力“切断者”。その真価はどんなものでも切れることだ。
そう、例えその本質が実体を持っていなくても。
というか、この程度のことなら、メリアリオの力がなくても、エルダラムさんとかなら平気で出来るんだが。俺も未熟かな?
「さ?て。終わらせるとしましょうか」




