27:前触れ
「悪い、待たせたな」
「そんなことはない。久しぶりに武器屋に来たが結構楽しかったさ」
俺が謝ると、そう言ってくれるアーク。良いやつだな。
「じゃあ行くわよ、皆」
「う~い」
シュラインは面倒くさそうだな。好奇心を発揮するときはめっちゃ前のめりなのに、仕事となると面倒くさい、だ。
じゃあ俺も、この武器の性能を試してやるとするか。
※※※※※※
「先代、ね。先代とはいえ、彼の因子は非常に特異。あの爺さんは教えなかったし、どこで気付くかな?」
大きな玉座の上で、小さな少女が笑っている。
「早く早く、もっと高みまで上ってよ」
う~ん、と言いながら首を傾げる少女。
「どうしよっかなあ」
その少女を、彼女を知る者ならばこう呼ぶ。
“魔神”と。
「きめた」
「ぼくが手を貸してやろうじゃないか」
※※※※※※
「何かおかしくないか?」
「何がだ?」
「何っつわれても……」
なんかこう、嫌な雰囲気があるだけだ。何と言われても困るのだが。
「ふむ、じゃあ今日はここまでにしようか」
「わりいな」
そう言って引き上げる用意をする。幸いにも、その後は特に何も起きなかった。
あの時、実はメリアリオに言われたのだ。
『やばいぞ』、と。
メリアリオは何がヤバイか教えてくれ無かったし、とりあえず、逃げておくことにした。
そして
メリアリオの勘は
最悪に近い形でその姿を現した。
後に言う“魔物の逆襲”である。
そしてこの時から、『無銘の英雄』と呼ばれる、一人の男の物語が始まる。
※※※※※※
魔国記録全書『災害』
・『乱魔鬼の復活とそれによる周囲の魔物の覚醒』
一度は、魔王によって討伐された乱魔鬼が、再び姿を現し、周囲の魔物をも巻き込んで『生命暴走』を起こした事件。本来なら、魔物による被害であるが、そのあまりの被害の大きさから災害として認定された。
『魔物と人類のはてなき争い』“フリュー・シャンカ著”より抜粋
その日何事もなく始まった一日は、悲鳴と嘆きに彩られ終わった。家屋は潰され、街は崩壊した。しかし、一人の死者も出ることは無かった。後に“無銘の英雄”と呼ばれる男が、そこにいたのだ。誰も名を知らぬ彼の英雄譚はこの事件から始まった。




